足立区で「空家特措法」による初の空き家取り壊し。対象は老朽化した賃貸
2025/09/03

最初の事例は老朽化したアパート
8月25日、東京都足立区で、木造2階建てアパートの取り壊しが始まった。区の行政代執行によるものだ。やや大きな話題となったので、各報道で目にした人も多いだろう。
昭和54年(1979)に建てられたこのアパートは全6戸。老朽化が進んでおり、すでに無人となっていた。屋根や壁が大きく破損し、飛散物も生じていた。外廊下も崩れ、崩落しかかっているなど、かなり危険な状態となっていた。
最後の住人の退去が確認されたのは4年近く前、2021年11月とのこと。以降、おそらくは誰もここを寝泊まりの場所とはしていなかった。
そのうえで、足立区は今回、空家等対策の推進に関する特別措置法―――いわゆる空家特措法に基づく最終的な措置に踏み切った。行政による建物の解体だ。および、除却となる。基礎等を除く全部を対象とし、樹木の伐採も行うとしている。工事は9月を跨ぎ、10月末まで続く予定だ。
ちなみに、本件は、同区において初の「特定空家等」に対する行政代執行となる。費用は約410万円。建物所有者に請求されるということだ。
存在の把握からこんにちまで丸4年
区の資料を見てみよう。
当該アパートについては、21年7月、近隣住人からの通報によって、安全性を欠いた状態であることを区が把握したようだ。ただし、この時点では、入居者がまだ1名ここに住んでいた。
そのうえで、翌8月から翌年の7月にかけ、建築基準法に基づく「安全指導文書」が建物所有者、すなわちオーナー宛に3たび送付されている。
なお、おそらくこの間に入居者はいなくなり、再度記すが21年11月に、区はアパート全体が空き家になったことを確認している。さらに、条例に基づく22年11月の勧告を経て(足立区老朽家屋等の適正管理に関する条例)、23年5月に、この建物は空家特措法が規定するところの「特定空家等」に認定されている。
次いで、区は、同年6月から今年2月までの間、同法に基づく「指導」を1回、「勧告」を3回、文書を送るかたちで行っている。なおかつ、報道によれば、この間に面会も重ねられたとのこと。しかしながら、オーナーからは結局のところ、前向きな対応を得られなかった様子だ。
そこで、いよいよ今年3月、区は本件の扱いを足立区老朽家屋等審議会へ諮問した。その結果、勧告に続く「命令」の実施、および、それでも改善が見られない場合は行政代執行が妥当との答申が出るに至っている。
答申を受け、区は代執行に先んじて、まずは緊急安全措置としてベランダ等の撤去を条例に基づき同4月に行っている。加えて、オーナーへの通告作業等、諸々の手続きを経た上で、今般代執行がついに開始となっている。
実に、最初の通報から丸4年だ。長い長い時間を経てのここまでのプロセスとなる。わが国において、国民個々が私有する財産に対する法的保護は、ここまでに手厚いということだ。
一方で、この間に費やされた人的リソースや、それに伴う費用、さらには近隣住民の不安を思うとき、不動産を持つ者の社会的責任について、われわれはあらためてこれを深く考えざるをえない。
市区町村による地道な努力
わが国の重要マターのひとつである、増え続ける空き家問題。これに対応するため2015年に施行された空家特措法。毎年の実績を国土交通省が公表している。
今年も秋のうちにリリースされるはずだが、目下最新のものとなる昨年公表分(24年3月31日時点分)から、数字をひろってみよう。
助言・指導 | 39,180件 |
勧告 | 3,589件 |
命令 | 456件 |
行政代執行 | 213件 |
略式代執行 | 510件 |
緊急代執行 | 5件 |
指導 | 1,091件 |
勧告 | 0件 |
(以上のうち、特定空家等における緊急代執行と、管理不全空家等に対する措置については23年度実績のみ。改正法施行による新たな措置のため)
なお、特定空家等とは、ごく簡単にいうと、危険性や衛生上の問題等の面から「周囲に著しい悪影響を及ぼす空き家」のこと。管理不全空家等とは、「放置すれば特定空家等となるおそれのある空き家」となる。
なおかつ、いずれにあっても、勧告を受けると固定資産税の住宅用地特例(1/6等に減額)が解除される。このことはよく知っておきたい。
そのうえで、上記は、行政による「手続き」の数を積み上げた数字となるが、それによる結果を示すものが以下となる。
空家特措法の措置により除却や修繕等がなされた特定空家等 | 24,435件 |
(同じく)管理不全空家等 | 1,220件 |
そして、注目したいのが下記の大きな数字となる。
空家特措法による措置以外の「市区町村による空き家対策の取り組み」により、 除却や修繕等がなされた空き家 |
166,885件 |
空家特措法も、いわゆる切り札として一定の機能を発揮しているが、それに増して市区町村による地道な現場での努力が、空き家問題個々の解決に向け、力となっていることがよく分かる。
先ほど、足立区での事例を記す中で、危険な状態となったアパートに対し、区が同法のみならず、条例での措置や直接の面会も絡めつつ、懸命に対応している様子を示したとおりだ。
以下の数字も公表されている。
2016年度 | 4,453件 |
2017年度 | 7,035件 |
2018年度 | 7,646件 |
2019年度 | 9,676件 |
2020年度 | 9,789件 |
2021年度 | 11,984件 |
2022年度 | 13,063件 |
2023年度 | 13,711件 |
合計 | 77,357件 |
これは、相続人が、相続した空き家を一定の要件を満たして譲渡した場合に、譲渡所得から3,000万円の特別控除を受けられる制度の利用を示す件数となる。見てのとおり、年々着実に増えている。
なお、当該制度にあっては、2023年までとされていたものが、先般27年までに期間が延長された。
相続・遺贈により取得された不要な土地を国が引き取る相続土地国庫帰属制度なども含め、こうした救済措置、ケアについても、現に使用しない空き家を抱えている人、将来そうなりそうな人はよく知っておきたい。
「面倒くさいので、自分が持っている空き家のことはいまは考えずに放置している」
と、いうのが一番よろしくない。
文中に挙げた資料については下記でより詳しくご確認いただける。
「足立区の空き家の取り組みについて」
「国土交通省 空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報」
(文/賃貸幸せラボラトリー)
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この記事を書いた人
編集者・ライター
賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室