頭金ゼロで不動産投資を始めた人の末路
工藤 崇
2016/12/01
不動産投資は本来、とてもリスクが高いもの
不動産投資は、とてもリスクの高い資産運用といわれています。
投資金額が大きいこと、回収率(賃貸物件の入居率)が読めないことなど、いくつかの理由がそこにはありますが、最大のリスクは、投資金額の大きさともつながりますが、「銀行など金融機関からの借入額が大きいこと」です。そのため、投資家は可能な限り頭金を準備し、借入額を減らすことによってリスク削減を図ります。
たとえば物件価格が3000万円のワンルームマンションがあるとしましょう。
実際にこのワンルームマンションを購入するとなると、必要となるお金は3000万円だけではないことに気がつきます。この場合、3000万円はあくまで「物件価格」であり、そのほかに「諸費用」といわれる費用が必要になるのです。
主な諸費用としては、
・登録免許税や不動産所得税などの税金
・不動産投資ローンの借入手数料や保証料
・不動産登記関連費用
・火災保険料・地震保険料
・不動産会社への仲介手数料
などがあげられます。
フルローン、オーバーローンとは?
ワンルームの場合だけでなく、一戸建てやアパート・マンション一棟を購入する場合も同じです。「物件価格(土地代金+建物代金)」と「諸費用」が必要になります。不動産投資を行なうには、この合計額を「自己資金」と「金融機関からの融資」で賄う必要があります。
諸費用については、以前は「物件価格の10%」と見積もられてきましたが、最近は10%にとどまらず、15~20%が平均的に必要です。これらの諸費用は借り入れではなく、不動産購入時に準備できる「自己資金」を充てることが推奨されてきました。
また、物件価格に対しても、銀行が融資してくれるのはその7〜8割程度だったため、「頭金」として1〜3割の自己資金を入れないと、不動産投資を行なうことはできませんでした。
しかし、最近は金融機関が不動産投資への融資を積極的に行なっているため、少ない自己資金で不動産投資を始められる状況が続いています。
物件価格をすべて借り入れに頼る「フルローン」、もしくは物件購入費以上の借り入れを行なう「オーバーローン」のケースも発生しています。
頭金ゼロで不動産投資を始めるサラリーマン、公務員が増えている
不動産投資の場合、仮に返済が不能になった場合に備えて、購入物件に担保設定をします。借り入れが返済できなくなった場合には、借金のカタに物件を差し押さえますよということです。
フルローンやオーバーローンの場合は担保評価を最初から超過して借り入れしているため、返済の負担もそれだけ大きくなってしまいます。空室が発生して家賃収入が落ち込めば、返済を家賃収入だけで賄えなくなり、「自己資金の持ち出し」が発生します。
ここでいう「自己資金の持ち出し」とは、本来、不動産投資用に考えていなかった預貯金を返済に充てることです。もともと使う目的を決めていなかった余剰金であれば問題ありませんが、住宅費や子どもが育ったときのための教育費などを削ってしまえば、別途貯蓄を考えなければならないなどのマイナス要素が発生します。
それだけではありません。最悪の場合には、物件を売却してその代金を返済に充ててもローンが残ってしまうことさえあります。
もちろん、フルローン、オーバーローンでなくともそういったリスクはあるのですが、借り入れ金額が大きくなるフルローン、オーバーローンは、それだけ大きなリスクを抱えることになるのです。
不動産投資において、本来はとてもおすすめできないのが、このフルローンやオーバーローンです。
ところが最近、頭金ゼロで不動産投資を始めるサラリーマンや公務員が増えています。お金を借りることのできる理由はどこにあるのでしょうか。
自己資金ゼロでも貸してしまう金融機関の思惑
それは不動産投資が不動産「事業」であるためです。そのため、金融機関は「現在(不動産購入者に)どれくらいの返済力があるかではなく、これからどれだけの返済力を生むか」にかけるといわれています。
これは現時点の財務力を「てこ」(レバレッジ)にして、大きな額のお金を借り、事業拡大に繋げる会社経営者と金融機関の関係に近いともいわれます。この時に重要な指標として活用されるものが、「利回り」です。
まずは利回りの種類を確認しましょう。利回りには
・表面利回り
・実質利回り
のふたつがあります。
まず、表面利回りについてご説明します。表面利回りは、予想収益で物件購入費用を割り出して算出したものです。不動産の広告やチラシで利回りが表記されている場合は、この表面利回りが多いです。
表面利回りは、次の計算式で算出します。
表面利回り=年間収入÷購入価格
つまり、不動産投資として正確な数字をつかむならば、これら「諸費用」を込めた実質利回りの活用が必須です。
金融機関側としては、現在の財務力が低くとも、購入物件が利回りで10%以上予測できているならば(許容範囲は金融機関によって異なります)、この「将来性」に期待をしてフルローンやオーバーローンを貸し付ける、という手段を取ることができます。
また、不動産投資家のなかには何棟も投資物件を所有している人も多いです。それらの方は、これから購入する物件こそ担保評価が不足していても、ほかに所有している不動産の収益が担保となって金融機関の貸付許可を引き出すことが多いです。
また、上場会社の会社員や公務員は「安定」しています。何があるかわからない世の中、100%ではないにしろ、今後も安定して給与所得が入ってくる可能性が高いといえます。金融機関にとっては、万が一、貸し付けた不動産の収益性が疑われても、返済をしてもらえれば問題ありません。つまり、物件購入者に賃料以外の安定した収入があれば、「不動産の収益性=支払い余力」とは判断されないのです。
こうした人たちを「属性がいい」といいますが、その人たちには積極的にフルローンやオーバーローンで融資することができるのです。
頭金ゼロで不動産投資を始めた人の末路とは?
もちろん、すべての不動産投資が十分な利回りを想定できるものではありません。そもそもリスクの高い不動産投資において、自己資金を準備しないフルローンやオーバーローンはとても危険性の高い投資行為です。
勢いでフルローンを借り入れてしまったがために、居住用の自宅を売却したり、大きな借入額を遺したりといった末路も。
金融緩和で融資基準が緩くなったため、融資を受けやすくなったサラリーマンや公務員が新たに不動産投資を始めるというケースが非常に多くなっています。不動産投資というと、「不労所得」というイメージがあり、収益物件を購入さえすれば儲かると考えてしまう人が多いためでしょうか。
しかし、不動産投資は「賃貸経営」という事業でもあります。普通のビジネスであれば、投資を決めるには慎重に事業計画を策定して、リスクを考えた上で判断をするはずですが、不動産投資となるとそれが「事業である」という考え方をもたないまま投資を決めてしまう人が多いように感じられます。
そのため、安易に借り入れをして不動産投資を始めてしまい、結局は破産してしまうという人が後を絶ちません。
なかには、ご主人が自身のみの判断でオーバーローンを借り入れ、十分な返済ができないままに死亡し、子どもたちが債権を引き継ぐというケースもあるようです。十分な計画と分析をもってすれば不動産投資はハイリターンも期待できる投資方法ですが、そうではない場合は家族2代に続く負債の相続にもなるハイリスクの資産運用でもあります。
そのためには利回りが「絵に描いた餅」にならないように、物件の収益性を入念に分析して投資判断を下すことが大切です。
空室率や金利といった条件は、かなり厳しいものに設定してシミュレーションを重ねることが必要でしょう。
当然ですが、不動産会社は不動産を売ること、金融機関はお金を貸すことが目的です。購入者のことを考えるモラルを有してはいますが、そこは同時に「ノルマ」があることも事実です。不動産会社や金融機関の言うことを鵜呑みにしてはいけません。
もし、経営者が自分で考え、判断することなく、取引先のいうがままに経営をしていたら、その会社がどうなってしまうのか、考えるまでもないでしょう。
不動産投資を成功させるには経験も必要です。そこで、不動産投資の「仲間」をつくることをおすすめします。
実際に不動産投資家のコミュニティや不動産投資の成功者と友人になることによって、利用者目線に立ったリスクの分析や、購入のGoサインを出すタイミング等を学ぶことができます。
ときにはアドバイスを受けながら、そのなかで経験を積んでいくことをおすすめします。
この記事を書いた人
株式会社FP-MYS代表取締役社長兼CEO
1982年北海道生まれ。北海学園大学法学部卒業後に上京し、資格試験予備校、不動産会社、建築会社を経て、2016年6月にFintechインキュベーション「FINOLAB」入居。翌月に株式会社FP-MYSを設立。 ファイナンシャルプランニング(FP)を通じて、Fintech領域のリテラシーを上げたいと考える個人、FP領域を活用して、Fintechビジネスを開始、発展させたいとする法人のアドバイザーやプロダクトの受注を請け負っている。執筆実績多数。