賃貸経営における永遠のテーマ「空室対策」——大規模修繕工事
廣田 裕司
2022/03/31
イメージ/©︎kupparock・123RF
皆さんこんにちは。大家兼不動産屋の廣田裕司です。
今年の繁忙期は終りましたが、皆さんの物件の稼働状況はいかがでしょうか。個人的な感想ですが、今年の繁忙期は例年より退去する人が少なく、静かな繁忙期でした。
アパートやマンションの外壁や屋根の塗装が劣化し、見た目が悪くなると入居者募集にも影響がでます。美観上の問題のほかにも、雨水の侵入による構造部の劣化にもつながります。適切なタイミングで、外壁塗装工事や大規模修繕工事を実施することで、安定的な賃貸経営が期待できます。
そこで、今回は大規模修繕工事について書いていきます。
大規模修繕工事は賃貸住宅の強み
分譲マンションの大規模修繕工事は、管理組合での決議事項となるため、組合員間の調整が必要になり、タイムリーな対応ができないケースもあります。一方、賃貸住宅の場合は大家さん自身が意思決定権を持っているので、計画的な大規模修繕工事の実施が可能になります。このことはある意味、賃貸住宅の強みでもあります。
大規模修繕工事の内容
大規模修繕工事ですぐ思い浮かぶのが、外壁や屋根の塗装工事だと思います。そのほかにも、エレベーターや給排水設備のメンテナンス工事などもあります。また、排水管洗浄のように、複数の住戸に関連する工事など、原状回復工事のように個別の部屋に関わる工事以外の修繕工事は、大規模修繕工事として捉えた方がいいと思います。
そのほか、集合ポスト、駐輪場の屋根、館銘板、消化器・消防設備などの更新も含めて考えた方がいいです。
外壁や屋根の工事を実施するときは、外部足場を架設することになります。この外部足場の費用は高額になります。足場が必要な工事をまとめて実施すると、トータルでは工事費の削減につながります。
長期修繕計画
大規模修繕工事は、オーナーの一存で意思決定ができることが賃貸住宅の強みであると書きました。しかし、適切なタイミングで工事を実施するためには、資金の準備が必要となります。その資金を準備するためにも、長期修繕計画を立てることが重要になります。
長期修繕計画は、新築から20〜30年の間に実施が予想される修繕工事の実施時期と必要な費用をまとめたものです。
長期修繕計画のまとめ方
①想定される工事、実施時期を把握
例えば、外壁塗装は15年に1回実施、というように工事項目ごとに実施時期を把握します。大規模修繕工事だけでなく、エアコン、給湯器などの設備類の更新も一緒に洗い出した方がいいでしょう。
②工事費用の把握
工事項目ごとに工事業者さんへ見積もりを依頼し、工事費用を把握します。また、過去の同様の工事にかかった費用も参考になります。
③計画表への落とし込み
表計算ソフトを使って、横方向は20〜30年先の年、縦方向は工事項目を入力し、工事項目ごとに、実施する年と交差するセルに費用を入力していきます。そして、年ごとの費用の合計および20〜30年間にかかる費用の総額を集計します。
資金計画
長期修繕計画を立て工事費用を把握したら、次に資金の積み立てを考えます。計画表で把握した費用の総額を積み立てる年数で割った金額が、毎年の積立額となります。
例えば、30年間での工事費用が600万円必要だとすると、600万円÷30年=20万円で毎年20万円の資金の積み立てが必要です。資金の積み立てに関しても計画表へ入力しておきます。
従来修繕積立金は、税務上経費として認められませんでした。しかし、近々屋根や外壁の塗装工事に限定されるようですが、共済制度で修繕積立金が税務上の経費として認められるようになります。年内にも、修繕積立金共済が設立されるようです。
長期修繕計画の実施と見直し
計画はあくまでも予定なので、実際の現場の状況によって、前倒ししたり、延期したりすることもありますが、計画を基準にチェックしていけばいいと思います。また、状況は変化していきますので、計画の見直しを定期的に実施しましょう。
長期修繕計画を立てることは、これから発生する工事費用を把握するとともに、工事費用を準備し、タイミング良く工事を実施するために重要です。最初から完璧な計画を作成するのは難しいと思いますが、まず、ざっくりでも作ってみて、その後見直ししていき精度を上げていけばいいと思います。
工事業者の選定
大規模修繕工事でよく相談をお受けするのが、工事業者の選定です。特に塗装工事や防水工事は、その品質が施工する人の技能により大きく左右されるので、工事業者の選定が重要になってきます。
工事業者の選定は、単純に見積金額の高い安いだけでなく、見積もりの明細や工事内容について検討し、不明点は工事業者と納得がいくまで話してください。説明に納得できない場合や、説明を嫌がる工事業者は要注意です。また、実際に施工した現場を確認するのも、業者選定の参考になります。
耐震診断および耐震改修工事
東日本大震災で、建物の倒壊など甚大な被害が発生しました。最近も大きな地震があり、建物への被害も発生しています。被害のすべてが、建物の耐震性の問題によるものではありませんが、建物の耐震性はチェックしておきたい事項です。
特に、昭和56年5月以前に確認申請が出された建物(いわゆる旧耐震基準)で建築された建物は、耐震診断や改修工事に関して自治体の補助金を受けられる場合や、税制面で優遇を受けられる場合があるので耐震改修工事を検討してみてはいかがでしょうか。詳細は、建物のある自治体に問い合わせてみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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この記事を書いた人
「合同会社アップ」代表 「行動する大家さんの会」代表
妻の実家の賃貸事業を引き継ぎ、賃貸経営に関わるようになる。サラリーマン時代の経験を活かし、原状回復費の低減、稼働率アップに成功。賃貸経営での経験をベースにセミナー講師としても活動。2014年大家仲間と一緒に、管理会社「みまもルーム」設立に参加。大家さんとしての経験、不動産業者としての経験を活かし、大家さんの賃貸経営をサポートする会社「合同会社アップ」を設立。大家さんのサポート活動を展開中。