コロナ禍の陰で児童虐待は過去最多ーー知っておきたい電話番号「189(いちはやく)」
ウチコミ!タイムズ編集部
2021/05/28
文/朝倉 継道 イメージ/©lenanichizhenova・123RF
児童虐待の数 警視庁調べで過去最多
新型コロナウイルスの感染拡大による「コロナ禍」に社会や経済が覆われた2020年。そのことに隠れるようにして、あるネガティブな数字が過去最多となっている。
児童虐待の数だ。警察庁が先月(21年3月)公表した数字を挙げてみたい。(「警察庁 令和2年における少年非行、児童虐待及び子供の性被害の状況」より)
児童虐待による検挙件数
…2133件(過去最多、昨年は1972件)
同 検挙人員(人数)
…2182人(過去最多、昨年は2024人)
同 被害児童数(検挙案件における人数)
…2172人(過去最多、昨年は1991人)
同 通告人員(人数=警察が虐待の疑いを認めて児童相談所に通告した数)
…10万6991人(過去最多、昨年は9万8222人)
ご覧のとおり、こうした数字が軒並み過去最多を記録している。計算すると、日本全国で1日あたり5.8件あまりの児童虐待による検挙が生じていることとなる。
なお、検挙件数(逮捕と任意取り調べを合わせたものが通常「検挙」となる)の内訳はこうなっている。
身体的虐待 …1756件
性的虐待 …299件
怠慢・拒否 …32件(いわゆるネグレクト・育児放棄など)
心理的虐待 …46件
さらに、被害児童のうち、死亡させられた数は61人となっている。内訳は、
無理心中 …21人
出産直後に死亡させたもの …11人
上記以外 …29人
すなわち、児童虐待として通常イメージされやすいかたちでの死亡は29人との結果になるようだ。
児童虐待の疑い…過去に警察に通報した経験も
ところで、筆者である私は児童虐待の疑いのある行為を警察に通報したことがある。15年ほど前のことだ。
当時住んでいた東京23区内の、自宅のその隣に建っていた賃貸マンションで、連日のように、小さな4、5歳くらいの女の子が母親に怒鳴られていた。延々と長時間泣かされ続けていた。
まさに、聴くに堪えない状態が続いていたが、それでも響いてくるのは声のみで、身体を叩く、物をぶつけるといった音までは聞こえてこない。
そのため、しばらくの間動くのをためらっていたが、ある日、異様なことが起こった。
いつもの激しい「怒鳴り」と「泣き声」が珍しく真夜中に始まったかと思うと、部屋のドアがいきなり開き、マンションの外階段に女の子が飛び出してきた。
女の子は、そのままおぼつかない足どりで階段を降り、靴下のまま泣きながら夜の街に駆け出して行った。私はそれをハラハラしながら自宅の窓から見送ってしまった。
その後、間もなく、今度は母親がサンダルを鳴らしながら階段に出てきた。子どもを追いかけ、彼女の姿も街に消えたが、こういう状況ではさすがにマズいと決心し、そのあとすぐに警察を訪ねている。
加害者第一位は実の父親
話を警察庁の統計に戻す。
20年の検挙人数2182人、すなわち児童虐待の「加害者」たちの内訳に目を配ってみたい。以下の通りとなっている。
実父 …995人
養父・継父 …300人
母の内縁の男 …210人
その他の男 …53人
実母 …588人
養母・継母 …14人
父の内縁の女 …5人
その他の女 …17人
見てのとおり、「養父・継父」および「母の内縁の男」の数字が不自然に伸びている。
これはかなりデリケートな問題であり、言及には慎重を要するが、これらの存在が子どもにとって脅威となる確率が高いことは、やはり嫌でも指摘せざるを得ないだろう。
ただし一方で、実父・実母の数字もご覧のとおりだ。
すなわち上記とは逆に、日頃の報道などでの印象から、「児童虐待は、母子のもとに乗り込んできた血のつながりのない男ばかりが起こしやすい」などと思い込んでいると、とんだ見逃しが生じやすいということもやはりいえそうである。
児童虐待の通報ついては「189」(いちはやく)まで
さてこの記事をお読みの人のなかには、賃貸住宅オーナー、さらには賃貸物件の入居者さんも多いと思われる。
そこで以上を踏まえ、ぜひ覚えておいてほしい電話番号がある。
「189」(いちはやく)だ。
児童虐待に関しての通報や相談を受け付ける窓口ダイヤルだ。児童相談所へのいわば全国共通のホットラインとなっている。通話料は無料。匿名も可。あらましは下記ウェブサイトに記されている。
189=いちはやく。非常に覚えやすく、これを読まれたほとんどの人の記憶におそらく残るだろう。
さきほどの通報体験をした際、もしもこの番号が存在し(189は15年からのスタート)、知っていれば、あの夜の一件を待たずして、もっと早い段階で携帯電話を手に取ったはずである。
アパートやマンションに暮らす入居者や、物件のそばに住むオーナーは、集合住宅内で生じる異変にはほかに増して気が付きやすいはずだ。
そうした皆さんが、上記「189」を知っていることは、かけがえのない生命を救ううえで、大変意味が大きいことはいうまでもないだろう。
さて、隣に建つ賃貸マンションで起きている児童虐待が疑われる状況について、筆者が警察に詳しく説明をしに行ったその後のことである。
なんと、その日以降、「怒鳴り声」も「泣き声」もまったく聞こえることがなくなった。
もしかすると、動いたのは私だけではなかったのかもしれない。このマンションが建つ周辺といえば、普段から近所の人同士の路上での立ち話も多い、人間関係の濃密な下町だ。
そのため実は何人かが動いていて、結構大ごとなかたちで親子を見守る体制が生まれたということなのかもしれない。
というよりも、そうした流れに進んだということであってほしいと願っている。
この記事を書いた人
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