住み続けるという選択で広がるライフスタイルのかたち
川久保文佳
2019/08/12
旧魁陽亭はいまも往時の雰囲気をのこしている
先日 北海道小樽市の海を見下ろす高台に建つ、旧魁陽亭を訪ねました。
歴史も古く、皇室をはじめ沢山の政財界人、歌舞伎役者、俳優、作家、芸能人などが訪れている場所です。伊藤博文公をはじめ、歴代の首相なども立ち寄り、歴史的建造物にも指定されています。明治初期に和洋料亭として建てられ、その後、引き継がれた宮松家が再建したものです。歴史も古く、約120年以上経った今もその姿をとどめています。手入れすると十分に次の世代にも引き継げる建物だと感じます。現在、海陽亭は閉店していますが、外装や内装を整えるなど、その再建が図られています。
海陽亭の建物の中を歩くと大きな柱や梁が頑丈に供えられていて、大広間は160畳もあり、床のたわみもありません。すぐにでも利用できそうな、十分用途に耐える堅牢な建物です。
こういった、まだまだ利用できる建物を目にした時に思うのは、一般的な評価基準である耐用年数とはかけ離れた頑丈な住宅も多くあるということです。日本の住宅は代々住み続けることを目的に建てられているものも多く、雪や台風にも耐えうる大黒柱や大きな梁を備えている住宅もあります。
国税庁では、法定耐用年数を木造の住宅なら22年、鉄筋コンクリートの住宅なら47年と定めています。これは、税法上の「減価償却資産の耐用年数」でが、住宅として耐用できる年数として、評価基準のように扱われるは、非常に残念です。この評価基準によって、20年を過ぎた中古の住まいの財産価値が下がる要因の一つとも考えられています。
実際には50年から100年も住み続けられる住宅が、法定耐用年数として22年の価値とみられる場合、金融機関の評価もそれに追随しているように思います。
しかし近年、国土交通省では、建物の耐用年数を「経済的耐用年数」、「期待耐用年数」、「物理耐用年数」を採用する提言がされています。これは、平常の管理をし、通常の性能を維持できる期間という考え方を定着すべきではないか、というものです。近年この考え方からインスペクションの実施がされています。(※インスペクションとは-中古住宅を安心して売買するために活用される建物検査)
しかしながら、銀行などの金融機関が建物を評価する場合に参考にするのが原価法です。これは、新築した建物価値から経年で老朽化するだろうという分を差し引いていくという考え方です。
これによって、木造住宅で建築後22年を超える住宅の価値がゼロと評価されていました。ゼロの価値のものに金融機関が融資するということは難しいのです。
新築であれば、金融機関を通じて、住宅をローンが適用になり、十分な資金がなくてもローンによって購入できるため、新築市場がまだまだ伸びているのだと感じます。
国土交通省も住宅の評価基準を「期待耐用年数」として表し、建物の評価改善に向け動いていますが、それが、中古市場の活性化にはまだ繋がっていないようです。
代々引き継いでいく、家のシェアという考え方
中古住宅のローン組み立てが難しい現在、金融機関の融資による中古住宅の購入ではなく、家族代々に引き継がれる家を住み続けるという選択をした場合は、新たに住宅ローンを借りるということはなくなります。
最近はリノベーション技術や用具が開発され、素人でも十分DIYができるようになってきています。また、壁紙やクロス、畳など様々な素材のものが出てきていて、センスのある住まいへリノベーションすることも簡単になってきています。また、スマートフォンのアプリなどで、インテリアの参考例を検索することも簡単にできるようになっています。例えば、アプリのPinterestなどではキーワードを入れるとおしゃれなデザイン障子の作り方やおしゃれな輸入壁紙なども検索することができます。
広すぎる家であれば、いくつかの部屋を共有して、シェアハウスとして自分以外の家族にも住んでもらう選択もあります。最近はコーポラティブハウスとして、いくつかの住宅を合わせて、数件の家族で住んでいる例もあります。
このように、考え方をちょっと変えるだけで、住まなくなった家をリノベーションして、住み続けるという選択はあると感じます。
多くを借り入れしなくても、遠方の地域に行くと土地100坪に建坪40坪の住宅が100万円以下で購入出来たりします。東京都心から交通機関で1時間ほどの地域で、まだ、十分住める中古住宅が300万円ほどで購入できる例もあります。
千葉県の外房周辺では、近年住まなくなった住宅を手放す方が増えてきています。そんな過疎化が進む地方では、住まいを破格の価格で手放しています。それでも買い手がつかず、そのままの家も多くあります。また、観光地として復活の兆しがある熱海近郊でも空き家や閉鎖した旅館なども多くあります。東京都心から約1時間圏内にはまだまだ、十分住宅として総合住宅として機能しそうな住宅に溢れています。これからは、住まいを考える場合、選択肢のひとつとして、中古市場の戸建て住宅へも目を向けてみると、これまでと違ったライフスタイルも見えてくるかもしれません。
この記事を書いた人
一般社団法人空家空室対策推進協会代表理事/株式会社エアロスペース CEO/ビーモア株式会社代表取締役タナメラジャパン(マレーシアスパコスメ)代表/jasmin(全国民泊同業組合連合会)理事
一般社団法人空家空室対策推進協会代表理事/株式会社エアロスペース CEO/ビーモア株式会社代表取締役タナメラジャパン(マレーシアスパコスメ)代表/jasmin(全国民泊同業組合連合会)理事 北海道函館市生まれ。現在の札幌国際大学 卒業後、リクルート住宅情報事業部にてライターを務めた後、IT企業を経て不動産関連事業へ転身。その一方で、化粧品とサプリメントのコンサルティングや専門家としてのアドバイザー務める。海外派遣先では、フィリピン・タイ・カンボジア・マレーシアなどで日本への輸出入をテーマにセミナーを行うなどマルチに活動している。