自殺がまたじわじわ増加? 賃貸オーナーが知っておきたい賃貸での自殺の特徴
賃貸幸せラボラトリー
2023/03/22
日本の自殺者が昨年比「増」
この3月14日に、厚生労働省が昨年(2022)の年間自殺者数の確定値を公表している。これによると、自殺した人の数は一昨年よりも増加、男女ともに増えている。
合計 | 21,881人(21年より874人増) |
男性 | 14,746人(同807人増) |
女性 | 7,135人(同67人増) |
過去からの推移を見ると、わが国の自殺者数は、年間で3万人台をつねに超えていた98年から11年にかけてのピークを過ぎたあと、しばらく減少傾向が続いていた。
19年には2万169人まで減り、これは上記“ピーク”の頃のうち最悪だった03年の3万4427人に対し、6割を切る数字となっている。
ところが、翌20年からはまた様子が変わってきている。すなわち、20、21、22年のここ3年を通じては、自殺者数はふたたびじわじわと増える傾向だ。
19年 | 20,169人(男性14,078人 女性6,091人) | |
20年 | 21,081人(男性14,055人 女性7,026人) | … 前年より増 |
21年 | 21,007人(男性13,939人 女性7,068人) | … 前年より微減 |
22年 | 21,881人(男性14,746人 女性7,135人) | … 前年より増 |
ちなみに、21年は全体では前年比微減となったものの、女性は減っていない。結果、20~22年にかけ、女性の自殺者数は3年連続で増えている。
なお、お気づきのとおり、20~22年といえば「コロナ」の3年となる。いわゆるコロナ禍については、より女性に悪影響が及んだとして、She-Cession(女性不況)なる言葉も聞かれるところだが、わが国では女性の自殺者数に、その顕著なひとつが見られるということになるだろう。
ともあれ、現状をきっかけとして今後日本の自殺者数はまた増えていくのか、それともアフター・コロナ時代にあってはふたたび減少傾向を取り戻すのか。予断を許さない状況が今年から来年以降にかけて続きそうだ。
若い女性の自殺が目立つのが「賃貸」の特徴
賃貸住宅オーナーにとって、物件内での入居者の自殺は、悲しい事件であるとともにあえていえば大きな災害といっていい。
自殺が起こった住戸は、いわゆる事故物件となる。国土交通省のガイドラインに従えば、以後「概ね3年間」は、入居希望者に対し、その旨を告知しなければならなくなる。
のみならず、状況によっては建物に多額の損害が生じたり、発生時のインパクトによっては、アパート・マンションの場合、他の入居者の一斉退去が起きたりもする。すなわち、入居者の自殺は、賃貸経営が抱えるリスクとしては最大のひとつといってよいものとなる。
その「賃貸での入居者の自殺」だが、目立った特徴があることをオーナーは知っておきたい。
昨秋公表された、一般社団法人日本少額短期保険協会による「第7回孤独死現状レポート」にそれが記されている。
以下は、賃貸住宅の居室内で、いわゆる「孤独死」した人における、性別・年齢階級別の自殺者の割合となる。
~20代 | 男性22.8% 女性38.3%(突出) |
30代 | 男性25.4% 女性22.1% |
40代 | 男性21.4% 女性16.8% |
50代 | 男性16.1% 女性11.4% |
60代 | 男性9.3% 女性8.1% |
70代 | 男性4.0% 女性1.3% |
80代~ | 男性1.0% 女性2.0% |
このとおり「20代・女性」の数字が突出しているのが判るだろう。
ちなみに、孤独死全体(自殺に限らない)に占める構成比としては、20代では以下の数字が挙がっていて、要は若く、元気な彼ら・彼女らにあっては当然ながら割合は低い。
男性 | 4.4% |
女性 | 7.9% |
合計 | 5.0% ※全ての世代・性別における割合 |
(なお参考までに、上記データにおいて年齢の範囲を20~59歳のいわゆる現役世代全体に広げると、合計は40.0%となり、賃貸での孤独死=高齢者とのイメージがほぼ覆されることになる)
とはいえ、見てのとおり男女間でははっきりと差がついており、ここにさきほどの若い女性「突出」の影響が出ていることはいうまでもない。
日本少額短期保険協会からは、このようなコメントが付されている(抜粋)。
「孤独死レポートにおいては、第1回目のレポート公表時から20代女性の自殺率の高さを問題視し、専門家による原因解明を望んでいる。~就学・転職等で感じる親元を離れたことによる不安感等の影響か」
以上は、賃貸オーナー、さらには管理・仲介会社のスタッフなど、賃貸住宅業界関係者はぜひ知っておいた方がよいファクトのひとつとなるだろう。
もっとも、それは、若い女性のリスクをことさら掘り起こし、煽ろうとする意味ではもちろんない。自殺というものに対して、賃貸住宅は何ができるか? 課題を前向きに考える意味においてのこととなる。
オーナーからのさりげない「報せ」
あるオーナーは、A4のペーパー1枚・表裏、自作の「季報」を入居者ひとりひとりに年4回配っている。
そこには、毎号、地域の季節の話題等に並んで、災害時の避難先や、粗大ゴミの受付先といった生活情報のほか、さりげなく自治体の悩み相談窓口の連絡先や、厚労省が紹介している各相談窓口のQRコードなどが掲げられている。
込められているのは、それらがたまたま悩んでいる入居者の目に留まり、相談のきっかけとなればよいとの想いだ。
仮に、ひとりの命がこれによって救われ、かつオーナーにとってのリスクも消え去るとすれば、それは実に効率的で効果的、かつ楽なひと手間であったといえるだろう。
自殺というものに対して、賃貸住宅は何ができるか? その問いかけに対する小さなひとつの答えといえるはずだ。
文中に紹介したデータ、資料へのリンクを以下に掲げておく。
厚生労働省「自殺の統計:各年の状況」
内、「令和4年中における自殺の概況」(過去推移のグラフあり)
内、「令和4年中における自殺の内訳」(過去推移の数値データあり)
一般社団法人日本少額短期保険協会「第7回孤独死現状レポート」
(文/賃貸幸せラボラトリー)
この記事を書いた人
編集者・ライター
賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室