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不動産業界の悪しきカルチャーを斬る(1)

不動産屋が「グレーな商売」のイメージから抜け出せない本当の理由

大友健右大友健右

2016/02/22

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当たり前になってしまっているADという「グレーな報酬」

「不動産業界に爆弾を投下した革命児」などと呼ばれ、名前が売れてきたせいでしょうか。最近、不動産投資家・賃貸オーナー向けのセミナーなどにも講演のお呼びがかかるようになりました。

たとえそのようなセミナーに不動産関係者が参加していても、私の舌鋒が鈍ることはありません。オーナーにAD(広告料)という名の「グレーな報酬」を要求し、自社の利益を最優先する悪しきカルチャーを改めないことにはこの業界の未来はない、そのような話をいつにも増して強く訴えます。

ADについての参考記事:不動産の販売図面には、お客さんには見えない「秘密の暗号」がある

そんなある日、聴講者に「ADを受け取るのは本当におかしいことなのですか?」と驚いた顔で質問され、逆に驚かされたことがありました。

説明するまでもありませんが、ADは完全に脱法とはいえないまでも限りなくクロに近いグレーな報酬です。

なぜなら宅地建物取引業法(宅建業法)では、宅建業者である不動産会社がオーナーと買い主、借り主の間に入ることで受け取る報酬額(仲介手数料)には上限が決められているから。

ところが、このルールが守られているとはいえないのが、これまでの不動産業界の現状です。法律にのっとって受けとる報酬は「仲介手数料」と呼ばれますが、仲介手数料の枠からはみ出したお金がときには「AD」と名を変え、ときには「担当者ボーナス(担ボー)」となって、法の定めを巧妙にすり抜けるのです。

たとえば、賃貸物件の仲介であれば、手数料は家賃1カ月分が上限と決められています。仮に、借り主から1カ月分の仲介手数料を受け取った場合、物件のオーナーである大家さんからは手数料を受け取ることはできません。しかし、実際には、ADという名目でオーナーから家賃1〜2カ月分の報酬を受け取ることは当たり前のように行なわれています。

本当にオーナーのために何らかの媒体にAD分の費用に相当する告知活動をしているのであれば問題ないのですが、そんなケースは本当にまれです。

悪いのは「人」ではなく「カルチャー」

こんな話をすると、不動産会社の社員たちを「スーツ姿で取り澄ましていても、裏では平気で法律を破るけしからんヤツ」と思う人も多いかもしれません。こうしたグレーな報酬の実態を知らない人でも、富豪産業界に対しては、何となく「そういうグレーなことをやって儲けているんだろうな…」といった良くないイメージを持っている人は少なくないでしょう。

ただ、弁護するわけではありませんが、彼らのほとんどは悪人ではなく、ごく普通のサラリーマンです。悪いのは「人」ではなく、業界の「カルチャー」なのです。

カルチャーとはどういうことか、ご説明しましょう。たとえば、一般的な会社の1週間は、月曜に始まり、週末にかけて忙しくなっていくと思いますが、不動産会社が最も忙しくなるのは土曜と日曜です。多くのお客が物件を探しに窓口を訪れ、内見の立ち会いに追われます。

そのため月曜と火曜も契約の手続きなどに追われて忙しさが続き、ようやく休めるのは水曜日になります。業界全体で統一しようという動きがあったからかどうかはわかりませんが、ほとんどの不動産会社が水曜日を定休日にしているのは、普通の会社と仕事の流れが違うからでしょう。
不動産会社に新卒で入社した社員は気がつきませんが、異業種から転職してきた人の多くは、そのことに戸惑うようです。

でも、1カ月、半年、1年と働けば、違和感など消えてなくなります。「土日は休めない」と後ろ向きに考えるのではなく、「土日こそ稼ぎどきじゃないか。休んでなんていられるか」と発想するようにならないとやっていけないからです。人は、自分が働く環境に順応していく生き物なのです。

「ヌキ」はご法度の熾烈な戦場

そして、「水曜が定休日」の商習慣と同じように、「顧客の利益よりも自社の利益を最優先」という不動産業界独特の悪しきカルチャーも自然に受け入れられていきます。

この場合の顧客とは、家を借りたい、買いたいというお客さん、および家を貸したい、売りたいというオーナーを指します。優先するのは「自社の利益」ですから、ときには他社との競争も熾烈になります。

これは、私が新人営業マンだったころの話。業界のイロハもわからず、ADとか担ボーといった言葉も教えられていませんでしたが、入社2日目でマンションの購入契約をしてくれる買い主を見つけることができました。

ところが、ローンの審査がなかなかおりずに手間取っていたところ、その買い主は別の不動産会社を通してほかの銀行でローン審査を行ない、そちらで話を進めてしまったのです。いま思えば、通りにくいローンの審査をパスする方法などいくらでもあるのですが、経験不足のために顧客を横取りされてしまったわけです。

すると、そのことを聞いた私の上司は、烈火のごとく怒ってこう言いました。
「ヌキをやられたのか。どこの業者だ? 一緒に来い!」

そのとき私は、決まりそうになっていた契約を横取りする行為を業界用語で「ヌキ」ということを知ったのです。そして、すごい勢いでヌキをやった会社に怒鳴り込む上司の様子から、それが業界内のタブーであることも理解しました。

悪しきカルチャーが業界を衰退させる

さて、私の講演を聞いて、「ADを受け取るのはおかしいことなのですか?」と驚いていた参加者はおそらく、入社当時の私のようにADというものをまだ理解していない新人か、あるいは業界のカルチャーにどっぷりハマって違法うんぬんを考える余地のなくなってしまった人なのでしょう。

しかし、何度も繰り返しますが、そういうカルチャーをもった業界は、必ずや世間から見放され、時代の流れに追い抜かれ、衰退していきます。そうならないために私ができるのは、そのことを多くの人に知ってもらい、危機的な状況を業界の内部の人にも気づかせることです。

そこで、これからしばらくは、問題意識を感じて業界を飛び出した私の目から見た、業界の悪しきカルチャーについて語っていきたいと思います。

今回の結論
●不動産会社には、「慣習としてのAD」がグレーな報酬だと認識していない人がほとんど。
●「仲介手数料」の枠を超えるお金は、「AD」や「担ボー」と呼ばれて脱法的にやりとりされる。
●大切なのはそこで働く人を糾弾することではなく、業界のカルチャーを変えていくことである。

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この記事を書いた人

株式会社ウチコミ 代表取締役 株式会社総研ホールディングス 代表取締役 株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役 1972年生まれ。大手マンション会社で営業手法のノウハウを学んだのち、大手不動産建設会社に転職。東京エリアにおける統括部門長として多くの不動産関連会社と取引、不動産流通のオモテとウラを深く知る。 現在、株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役として、住宅リフォームを中心に事業を展開。また、株式会社ウチコミ 代表取締役として、賃貸情報サイト「ウチコミ!」を運営。入居の際の初期費用を削減できることから消費者の支持を集める。テレビ・新聞・雑誌などメディア出演も多数。

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