「回し物件」として利用された中古物件の末路
大友健右
2016/01/25
そもそも「回し物件」とは何なのか?
中古物件は、儲からない──。
これは、不動産業界の常識です。
ところが不動産会社の営業マンのなかには、自分の担当エリアに割高な中古物件があることをありがたがる人がいます。当然ながらその中古物件は人気がなく、売れ残るわけですが、なぜそれが「ありがたいこと」なのでしょうか?
ここで知っておいていただきたいキーワードは、「回し物件」という業界用語です。
新しい住まいを求めて不動産会社の門を叩いたお客さんは、担当の営業マンの案内でさまざまな物件を見て回ることになります。実は、多くの営業マンはこのとき、お客さんが「これは買いたくない…」と思ってしまうような家を用意しているのです。先ほど、「割高な中古物件」と申し上げましたが、これは「買いたくない家」の代表例といえるでしょう。
「割高な家」に限らず、営業マンがあらかじめ用意している「買いたくない家」。すなわちそれが、「回し物件」です。
家を売るのが仕事なのに、なぜ「買いたくない」と思わせるような家を用意しているのか、不思議に思いませんか?
その理由について、これから順を追ってご説明していきましょう。
本当に売りたい家を売るための「噛ませイヌ」
さて、「回し物件」とは具体的にはどんな家なのでしょうか。
一目見てボロ家に見える家ということも実際にありますし、敷地がいびつだったり、工場や学校などの騒音を発する施設に隣接しているとか、火葬場や墓地の近くにあったりとか、わかりやすい形で「買いたくないような家」として設定されていることがよくあります。
営業マンは、こうした「買いたくない家」を使って何をすると思いますか?
実は、営業マンが最初にお客さんを案内するのが、この「回し物件」なのです。
そして、お客さんを案内した営業マンが必ずといっていいほど口にする決まり文句があります。
それは…。
「お客さまのご要望ですと、このような感じの家がほとんどです。そのことをまず、ご理解ください」
営業マンは次に、ごく普通の家を見せます。それまで「買いたくないような家」を見せられてきた買い主は、普通の家でもずいぶん立派に見えるでしょう。
そこで「これがお客さまのご要望から考えて、最もおすすめできる物件ですね」と説得力たっぷりに購買意欲を刺激するのです。つまり、回し物件は、本当に売りたい家を売るための「噛ませイヌ」として機能するわけです。
冒頭でもお話ししたように、回し物件は「値段の高い、割高な家」として設定されるケースもあります。買い手であるお客さんに微妙に手の届かない割高物件を紹介して、「お客さま、このエリアの家はこのくらいの値段で出ているのが現状です」といって、本来はもっと多いはずの選択肢をせばめてしまうのです。
もちろん、営業マンはその後に、普通の家を「割安なおすすめ物件」として紹介し、お客さんの購入意欲を喚起させることは言うまでもありません。
営業マンが売り主の見えないところで、どんなことをしているのか、その実態については、次の記事(「業界内で当たり前に行なわれている『囲い込み』の実態」 http://sumai-u.com/?p=2649 )をご覧ください。
(参考記事)
業界内で当たり前に行なわれている『囲い込み』の実態
http://sumai-u.com/?p=2649
あなたの家も「回し物件」にされてしまうかもしれない
なかには、自分が売却を依頼された物件を「回し物件」に仕立てて利用する営業マンもいます。
冒頭で「自分の担当エリアに割高な中古物件があることをありがたがる人がいる」と書きましたが、その「割高な中古物件」を自分で用意してしまうのです。
ここに、家を売りたいと考えている個人売り主の佐藤さんがいます。佐藤さんが売りに出そうとしている家には本来、4000万円の価値があります。ところが、佐藤さんの担当営業マンはそのとき、こんなことをささやくのです。
「この土地は人気があるから強気の値段でもいけますよ。5000万円で売りましょう」
売り主にとって、高く売れるのはありがたいことですから、佐藤さんは気をよくして担当者の言葉にしたがってしまうでしょう。
そして、売り出し価格がついた途端、多くのお客さんが佐藤さんの家の内見に訪れます。
次々とやってくる買い手候補を見ながら、佐藤さんはきっとこう思うでしょう。
「あの担当者の言う通りにしてよかった。この家を買いたいという人がこんなにたくさん来るんだから、きっとすぐに売れるに違いない」
ところが、現実にはそうならないのです。
次々と訪れる内見のお客さんは、結局、ほかの家を買うことになります。なぜなら、割高な価格がついた佐藤さんの家は、回し物件として利用してされているだけだからです。
営業マンは、佐藤さんの家をお客さんに見せてこういいます。
「このエリアは中古でもこれくらいの値になってしまうんです…」
その後はもうおわかりかと思いますが、その営業マンの「本命物件」を掘り出し物のおすすめ物件としてお客さんに紹介することになります。
その後、佐藤さんの家はどうなるのでしょうか?
もともと4000万円くらいの相場の家に5000万円の値がつけられているのですから、売れるはずはありません。
担当営業マンは都合のいい言い訳をして、値段を下げる交渉をしてくるでしょう。
4000万円、3800万円、3500万円と値は下げられ、佐藤さんの中古物件は、「割高の中古物件」から「割安の中古物件」に変身させられてしまいます。
ここまでくれば、あとはもう営業マンのなすがまま。割安なお得物件として自社で見つけた買い主に紹介して両手取引に持ち込むのもよし、買い取り業者に安値で買い叩かせて、リノベ物件として売り出すもよしです。
このような目に遭わないために、個人の売り主は自分で自分の身を守る必要があります。その方法については、改めて別の記事(「個人売り主が不動産会社に利用されないための知恵(住宅売却のポイント)」 http://sumai-u.com/?p=2874 )でお話ししたいと思います。
(参考記事)
「本当は恐ろしいリノベーション物件の裏側」
http://sumai-u.com/?p=4680
「個人売り主が不動産会社に利用されないための知恵(住宅売却のポイント)」
http://sumai-u.com/?p=2874
今回の結論
●不動産会社の営業マンは、お客さんが「買いたくないような家」を用意して、最初に連れていく。そのような物件を「回し物件」という。
●「回し物件」にされた物件には、多くの人が内見に訪れ、人気を得ているように見える。しかし、実際は相場より高い金額なので売れ残っていく。
●担当営業マンにとって儲けの薄い中古物件は、しばしば「回し物件」にされてしまうことがある。
この記事を書いた人
株式会社ウチコミ 代表取締役 株式会社総研ホールディングス 代表取締役 株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役 1972年生まれ。大手マンション会社で営業手法のノウハウを学んだのち、大手不動産建設会社に転職。東京エリアにおける統括部門長として多くの不動産関連会社と取引、不動産流通のオモテとウラを深く知る。 現在、株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役として、住宅リフォームを中心に事業を展開。また、株式会社ウチコミ 代表取締役として、賃貸情報サイト「ウチコミ!」を運営。入居の際の初期費用を削減できることから消費者の支持を集める。テレビ・新聞・雑誌などメディア出演も多数。