「片手」「両手」「囲い込み」、隠語で読み解く不動産業界の仕組み
大友健右
2015/12/25
不動産業界にはさまざまな隠語がある
アメリカの中古自動車販売業界でいわれていたレモンとピーチと同じく、日本の不動産業界にもさまざまな業界用語があります。
片手、両手、担ボー、オビ、まわし、囲い込み…。どれも、ちょっと聞いただけでは意味がわからないはずです。これらの言葉が業者にしか通じない隠語だから当たり前のこと。そこで、5000万円の中古戸建ての家を例にして、不動産取引でこうした隠語がどのようにして使われるのかを解説していくことにしましょう。
不動産取引の登場人物は、買い主と売り主、そして両者を仲介する不動産会社の3者がいます。「家がほしい」という買い主が家を手に入れるためには、売り主に物件価格5000万円を、不動産会社に仲介手数料を支払うことになります。
400万円を超える物件の仲介手数料は、宅地建物取引業法(宅建業法)で物件価格の約3パーセント(正確には3.24パーセント以内)と決められていますから、156万円というのが通常の仲介手数料の相場です。図にしてみると、こうなります(図1)。
ところがこの図は、買い主から見たお金の流れを示しているに過ぎません。実は、不動産会社の向こうはブラックボックスになっていて、買い主の見えないところでさらなるお金が動いているのです。
「仲介手数料ゼロ」の仕組み
そのひとつは、売り主から不動産会社に支払われる仲介手数料です。
不動産広告のなかに、「仲介手数料ゼロ」を謳っているものをときどき目にします。買い手の目から見ると、「なんと良心的な業者なんだ」と思ってしまう人もいるかもしれませんが、不動産会社は営利企業ですから、自分たちの儲けを度外視して家を売っているわけではありません。買い主のかわりに売り主から仲介手数料をもらっているからこそ、「仲介手数料ゼロ」といえるのです。
多くの場合、この仲介手数料は物件価格に上乗せさせられているので、買い主は「仲介手数料ゼロ」であることを信じながら、知らず知らずのうちに仲介手数料に相当するお金を支払わされていることになります(図2)。
「片手取引」「両手取引」とは?
「仲介手数料ゼロ」のケースだけでなく、買い主と売り主、両方から仲介手数料をもらうケースだって、もちろんあります。
ここで、不動産業界の隠語、「片手」、「両手」を思い出してください。
図1のように片方の取引先にしか手数料をもらわない取引を業界では「片手取引」といいます。その一方、売り主と買い主の両方から手数料をもらう取引を「両手取引」というのです。
儲けを考えると、片手の場合は156万円、両手の場合は312万円。どちらがいいかは一目瞭然で、不動産業者はいかに両手取引を成立させるかを何よりも優先します。「買い主にとっていかに理想的な住まいを提供するか?」とか、「買い主ができるだけ損をしない取引をする」といったことは二の次、三の次であることはいうまでもありません。
今回の結論
●片手、両手、担ボー、オビ、まわし、囲い込みなど、不動産業界には一般には理解されない業界用語、隠語が多数存在する
●仲介手数料を買い主と売り主、その片方からしか取れない取引を「片手」という
●仲介手数料を買い主と売り主、その両方から取る取引を「両手」という
●「両手」取引の利益は、「片手」の倍になるため、不動産業者は何があっても「両手」の取引を優先する
この記事を書いた人
株式会社ウチコミ 代表取締役 株式会社総研ホールディングス 代表取締役 株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役 1972年生まれ。大手マンション会社で営業手法のノウハウを学んだのち、大手不動産建設会社に転職。東京エリアにおける統括部門長として多くの不動産関連会社と取引、不動産流通のオモテとウラを深く知る。 現在、株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役として、住宅リフォームを中心に事業を展開。また、株式会社ウチコミ 代表取締役として、賃貸情報サイト「ウチコミ!」を運営。入居の際の初期費用を削減できることから消費者の支持を集める。テレビ・新聞・雑誌などメディア出演も多数。