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入居者はどんな費用を負担すればいいのか

賃貸物件の原状回復義務について知っておこう

小野 哲小野 哲

2016/01/07

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原状回復義務とは?

 賃貸住宅に関するトラブルで特に多いといわれているのが敷金トラブルです。退去時に、部屋の修繕やクリーニング費用として多額の請求をされるなどのトラブルが大変多く、国民生活センターには年間1万件以上の相談が寄せられています。

 入居者は、退去時に部屋の「原現状回復義務」がありますが、これは部屋を入居時の状態に戻す必要はありません。『経年劣化』や『通常使用による損耗』は家主の負担、入居者の過失などによるものは入居者の負担となります。普通に生活していて生じるような劣化に対して、入居者に修繕費用を負担する義務は発生しません。

 2015年3月に閣議決定した民法改正案でも、敷金についての記述が注目されました。今まであいまいであった敷金の定義について、改正案では敷金を『家賃などの担保』と定義し、家主には敷金を返金する義務があると明記されました。また、通常使用による経年劣化から生じる修理などは借主の負担にならないことも明記されました。

契約時に契約内容を確認しておこう

 部屋の状況や環境、生活のしかたで劣化状況も変わるので、どちらに修繕の義務があるのかを見極めるのがむずかしいというのがトラブルになる原因と考えられます。入居者はどこまで部屋をきれいにしておく義務があるのでしょうか?

 退去時の敷金トラブルを防ぐために、国土交通省住宅局がガイドラインを発表しています。あくまでガイドラインであり、法的な効力はありませんが一般的な目安や共通認識として一度目を通しておくといいかもしれません。ただし、ガイドラインよりも賃貸契約が優先されるので、契約時にしっかりと契約内容の詳細を確認しておくことが大切です。

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」※国土交通省HPより
http://www.mlit.go.jp/common/001016469.pdf

こんな場合は誰が負担するの?

 では、どんな場合に誰が負担するのか、具体的な例をもとに負担義務の境界線がどんなところにあるのかみてみましょう。

(1)家主負担
・日が当たって、畳やカーペット、壁紙が変色してしまった(普通に生活していて避けられない現象は家主負担)
・地震でガラスが割れた(自然災害によるものは家主負担)
・家具を置いていてできた床の跡(家具は通常の生活に必要なものなので入居者に修繕義務はなし)
・壁に貼ったポスターや絵画の跡(通常使用の範囲とみなし家主負担)

(2)入居者負担
・窓を開けっぱなしにしていて、雨が吹き込んだことにより畳がふやけた → 入居者の不注意
・タバコによるカーペットの焦げあと → 入居者の不注意
・台所の油汚れ → 掃除や手入れを怠った入居者の責任
・食べ物をこぼしてできたカーペットのしみ → 入居者の不注意、掃除を怠った責任

 特殊な家具の跡などが気になる方は、へこみ防止用の商品などを利用してトラブル防止に備えましょう。入居者に負担はないとはいえ、工夫してなるべく部屋をきれいに保てばトラブルになる可能性も少なくなります。

注意が必要なケースは?

 トラブルの原因とはどんなところにあるのでしょうか?実際にトラブルになった事例をもとに、気をつけておきたいポイントを確認してみましょう。

(1)『特約』に注意!
敷金からハウスクリーング代金がひかれ、その余りが返金された。
→退去後に専門業社が行うハウスクリーニングですが、国土交通省のガイドラインでは大家さんの負担と記載されています。ですが、現状では賃貸契約の中で、『ハウスクリーニング代は入居者の負担』とする特約がつけられていることがほとんどです。この特約がある場合は、入居者が負担をすることになってしまいます。
 しかし過去の裁判ではこの特約が無効になったこともあります。ハウスクリーニングの必要がないくらい綺麗な状態であれば、特約があってもクリーニング代を支払わなくてすむ可能性もあるので、大家さんと交渉してみてもいいでしょう。

(2)タバコ
タバコを吸っていたため、クリーニングで対応できないのでクロス張替えの料金を請求された。契約書には記載がないので払いたくない。
→タバコのヤニや匂いが染み付いていて、クリーニングでは除去できない場合は、通常使用の範囲を超えているとみなし入居者の負担になることが多いです。

(3)クロスの張替え
入居者の過失でクロスの一部に張替えの必要がある場合。
→クロスの場合、一部だけの張り替えができないため、全体の張り替え費用を入居者が負担することになるケースが多いです。

 明らかに自分の不注意で生じた破損などがない限り、基本的に敷金は全額返金してもらえるものです。不当にクリーニング代などの請求があった場合は、支払う必要はありません。理不尽な請求などに泣き寝入りしないためにも、負担義務について正しい知識を身につけて主張できるようにしておきましょう。

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この記事を書いた人

弁護士

小野法律事務所代表。 東京大学法学部卒業。1997年に弁護士登録し、離婚、相続、交通事故、不動産問題、労働問題など民事・家事・刑事事件全般を取り扱う。「依頼者に寄り添い、依頼者と共に歩む」をモットーに個人、中小企業、一部上場企業、地方自治体まで多岐にわたる依頼者から信頼を得ている。

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