意外に数多く起きている「電気ストーブ」火災 賃貸でこそ気をつけたいその理由
賃貸幸せラボラトリー
2022/11/20
石油ストーブは禁止じゃないけれど、灯油の保管は禁止?
「うちのアパート、石油ストーブや石油ファンヒーターは禁止なんです。火災のリスクと、さらに一酸化炭素中毒の危険もあるということで…」
そんな物件に暮らしている賃貸住宅の入居者、結構いるはずだ。しかし一方で……
「ウチの場合、契約書には禁止と書かれていません。なので使ってますよ」
そんな人もいるかもしれない。
だが、その場合は注意した方がいい。契約書の中にある禁止事項欄を見てみよう。「発火性を有する危険な物品等の保管」と、そこに書かれてはいないだろうか?
あれば、石油ストーブや石油ファンヒーターに使う灯油は、これに触れる可能性が高い。消防法上の危険物に該当するからだ。
つまり、灯油が部屋に置けないのならば、灯油を燃やす暖房器具も置けないことになる。
なお、その辺り、むしろオーナーや管理会社の方で基準をはっきりさせていないケースもある。確かめておくことをぜひ勧めたい。
「確かめたところ、石油暖房器具の使用があらためて全面禁止に…ヤブヘビでした」
そんな結果もありうるが、実際に火事が起きたあとで争いとなるよりはいいだろう。
「石油」を大きく超える「電気」ストーブによる火災の件数
石油ストーブや石油ファンヒーターの使用が禁止――と、なれば、賃貸に暮らす人がチョイスしやすい暖房器具として、筆頭に挙げられるのが電気ストーブとなる。多くが持ち運びも手軽で、場所もさほど取らず、オフシーズンも仕舞い込みやすい。狭い単身用の部屋などではもってこいの道具となるからだ。
対して、オーナー側も、内部で実際に火が燃えたり、燃料の保管も必要だったりする石油暖房器具に比べ、電気ストーブに対しては格段に安全なイメージをもっていることが多い。
ところが、そこがどうやら落とし穴になっているようだ。カーボンヒーター、ハロゲンヒーター等を含むいわゆる電気ストーブは、実は意外に数多く火災の原因となっている。
東京消防庁が公表している「令和4年版 火災の実態」を見ると、令和3年(2021)中の主な出火原因別火災件数の上位6番目に「電気ストーブ」が挙げられている。件数は85件。2012年からの10年間の合計では以下のとおり897件となっている。
12年 118件
13年 105件
14年 104件
15年 75件
16年 85件
17年 100件
18年 71件
19年 85件
20年 69件
21年 85件
合計 897件
さらに、これを以下の数字と比べてみよう。石油設備機器のうち、石油ストーブや石油ファンヒーターなど「冷暖房関連機器」が発火源となっている火災件数の推移となる。
12年 31件
13年 32件
14年 22件
15年 25件
16年 20件
17年 26件
18年 28件
19年 21件
20年 16件
21年 20件
合計 241件
このとおり、年ごとの数でも10年間の合計でも、電気ストーブの数字は石油ストーブ・ファンヒーター等のそれを大きく超えていることがわかる。10年の合計ではざっと3.7倍だ。
もっとも、これらの数字はあくまで「東京消防庁」が出しているものとなる。雪国や寒冷地ではない同庁管内において、ベースとして石油ストーブ等に比べ電気ストーブの方が数多いことは容易に想像できる。とはいえ、確率論ではなく結果論として、上記は見てのとおり電気ストーブが起こす火災の意外な多さを示すものとなっている。
すなわち、賃貸住宅の入居者も、オーナーも、電気ストーブ=安全とのイメージがもしも頭にあるならば、それはハッキリと拭い去っておくべきだ。
電気ストーブ火災はどのようにして起こるか?
実際に電気ストーブによる火災は、どんなかたちで起きているのだろう。「令和4年版 火災の実態」が掲げるデータは以下のとおりとなっている。
「最近10年間の電気ストーブによる火災に至った経過別の状況」
可燃物が接触 …552件(61.5%)
放射(熱)を受けて発火 …63件(7.0%)
可燃物が落下 …54件(6.0%)
可燃物が置かれていて着火 …31件(3.5%)
誤ってスイッチが入った …27件(3.0%)
その他 …145件(16.2%)
不明 …25件(2.8%)
「最近 10 年間の電気ストーブによる火災の着火物」
布団、座布団、毛布、敷布、枕 …369件(41.1%)
衣類 …123件(13.7%)
繊維製品、しゅろほうき …69件(7.7%)
電気製品 …49件(5.5%)
着衣 …32件(3.6%)
その他 …227件(25.3%)
不明 …28件(3.1%)
見てのとおり、これらの数字から主な状況はすぐに想像できるのではないだろうか。
手軽で安全なイメージがあるだけに、洗濯物等の衣類や布団などの寝具を「意識する・しない」にかかわらず、つい、そばに近づけてしまいやすいところに、電気ストーブが孕む大きなリスクがあるようだ。
東京消防庁がインターネット上で公表している主な事例が、以下のとおりとなる。
1.就寝中に使用していた電気ストーブに可燃物が接触し着火、居住者死亡
2.電気ストーブが椅子に近接している状況で乳幼児がスイッチを入れ、放射熱により着火
3.使用中の電気ストーブの近くに置いていたタオルがストーブ上に落下し、着火
4.電気ストーブの電源プラグとテーブルタップとの隙間にホコリが溜まり、トラッキング現象が発生、出火
5.生乾きの衣類を乾かすため、使用中の電気ストーブの上に衣類を置き、着火
6.居室内のカーテンを開けた際に、使用中の電気ストーブに接触し、着火
(以上は、東京消防庁「広報テーマ」2022年10・11月号 ~令和3年に発生した電気ストーブの火災事例 による)
このとおり、4番目のトラッキングを除いては、いずれも電気ストーブのそばに衣類など燃えやすいものが置かれたり、存在したりしたことで火災に結びついている。
炎は見えないまでも高温は発する電気ストーブをうっかり「ナメて」かかったとき、その危険はわれわれに急接近してくるということだ。
賃貸では「電気ストーブ火災」は余計に起きやすい?
以上、意外に高い頻度で発生している電気ストーブ火災について、その多くは寝具、衣類等の可燃物がストーブ本体に触れたり、近づいたりすることで起きている。
すると、簡単に想像できるのが、部屋の広さ(狭さ)はそれに影響しやすいであろうということだ。
狭い賃貸のワンルームなどでは、入居者が部屋に電気ストーブを置けば、必然的にベッドの掛け布団やシーツ、部屋干ししている衣類やタオル、床に積んだ乾いた洗濯物などがそのそばに位置する確率が高くなる。
よって、「電気ストーブで布団を焦がした」「洗濯物が燃えたがなんとか消し止めた」と、いった程度の事故ならば、毎シーズン全国の賃貸物件で無数に起きている可能性も低くはないはずだ。
また、そうした事故が、若い入居者のスピーディーな対応によって大事に至らず済んでいるケースが過去に多かったのだとしたら、目下進んでいる賃貸入居者の高齢化はそんな状況を当然崩していくものとなる。
オーナーは、「ウチの物件、石油ストーブは禁止にしてるから」までで安心することなく、「電気ストーブの危険をナメてはいけない」旨をぜひ積極的に、入居者に向けて発信すべきだろう。
(文/賃貸幸せラボラトリー)
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東京消防庁「令和4年版 火災の実態」
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/hp-cyousaka/kasaijittai/r04/index.html
東京消防庁「広報テーマ」2022年10・11月号
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/camp/#2022_10
この記事を書いた人
編集者・ライター
賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室