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時代はマルチハビテーション 新型コロナは複数拠点生活の未来を引き寄せる?

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文/朝倉継道 構成/編集部 イメージ/©︎Goricev Eduard・123RF

マルチハビテーションの潜在数は日本の人口約5%

収まらない新型コロナ。11月18日から1日あたりの感染者は連日2000人を超えた。

ファイザーやモデルナが供給するワクチンの有効性が確認されてはいるが、まだ先が見えない状況が続いている。一方、不動産市場を見渡せば、このコロナが揺り動かしているもののひとつに、別荘がある。

「伊豆や軽井沢、房総方面などの物件への引き合いが増えている」
「別荘・リゾートマンション物件情報サイトへの問い合わせが急増している」

このようなニュースを夏頃から耳にするようになった。もっとも、この動きは、「コロナ感染を避けるための都会の『密』からの避難」「それによる一過性のブーム」といった狭いイメージで括られるべきものではない。起きているのは、もう少し間口と奥行きが広い動きではないだろうか。

それは、コロナ禍をひとつのきっかけとした、「病災、自然災害へのリスクヘッジ」「充実したワークライフバランスの創出」といった、これらを目的としたマルチハビテーション、すなわち「複数拠点生活」を志向するムーブメントだ。

一般社団法人 不動産流通経営協会(FRK)が7月、ある調査結果を公表している。「複数拠点生活に関する基礎調査」だ。

調査対象は、全国の「複数拠点生活実施者」、または「複数拠点生活意向者」である20~79歳の男女。14万9602サンプルへのスクリーニングから始まる大規模な調査である。

ちなみに、ここでの複数拠点生活とは、「自身の主な住まいとは別に、週末や1年のうちの一定期間を異なる場所で生活すること」とされている。なお、拠点の数・所有形態・目的などは不問とのことだ。

さらに、「複数拠点生活意向者」とは、「複数拠点生活を今後したいと考え、具体的に場所探しなどの行動をしている」「具体的な行動には至っていないが、今後したいと思っている」といった人を指す。

当調査においては、調査・分析内容、発表形式ともに多岐にわたり複雑なため、ここでは端折って結論のひとつを示したい。

それは国内における「複数拠点生活意向者」の数だ。

当調査では、推計約661万人を導き出しており、日本の人口の5%ちょっとにあたる。少ない数ではない。すなわち、これが現在日本に潜在すると見られる「複数拠点での生活意向をもつ=したいと思っている人々」のボリュームである。

また、彼らがなぜ複数拠点生活をしたいのか、その理由については、

「自分の時間を過ごすため」…16.1%
「避暑・避寒・癒し・くつろぎのため」…13.3%
「自然を感じられる環境で過ごすため」…11.8%
「趣味を満喫するため」…9.6%
「複数の地域のそれぞれ違う多様な暮らしを楽しむため」…7.1%

といったように、夢のある答えがそろい踏みしている。

対して、

「仕事の場として利用するため(アトリエ、サテライトオフィスなど)」…3.1%
「複数拠点がある方が、災害時などのリスクを減らせるから」…2.2%

これら現実的な2つの回答はこのような数字であまりふるわない。

しかしながら、今回のFRKの調査実施期間は、今年の3月19日~29日。おそらく、緊急事態宣言も過ぎた夏以降の国民意識とは、ズレも大きいのではないか。

そのため、今回のコロナ禍は春から夏にかけてのあの激動期を通じ、上記2つの複数拠点生活を目指す現実的理由、すなわち、「ワークプレイスの拡張」「リスクからの回避」を大きくクローズアップした可能性がある。とりわけ、テレワーク可能な仕事に就いている人の中には、この経験が今後の住生活を考える契機となった方も少なくないだろう。よって、冒頭に挙げた“別荘ブーム”は、そうした一端であるというのが、いまの時点における筆者の見解だ。

「職場が家にやってくる」 職住近接の概念が変わる

「コロナ禍」は、まさに「禍」だ。人の死、解雇、会社の倒産など、さまざまな悲劇がきょうも起きている。

しかしながら、一方で私たちに多くのことを気付かせてくれてもいる。

特に「住」の分野では、会社員などが出社をせずに自宅などでのテレワークを多くの人たちが体験することになった。そのことによって、顕在化、潜在化を問わず、ある気付きがおそらく生まれている。

それは「職住近接」の実現だ。

職住近接、すなわち、「住む場所が職場に近いこと」「そのためには駅に近いこと。都心に近いこと」――これは近年、住宅用不動産の世界をまさに覆っていた価値基準であった。

ところが、ここにテレワーク・在宅勤務という係数を絡めると、何やら話が妙なことになってくる。必死になって自分の家を職場に近づけなくとも、テレワークでは、職場の方がこちらに近づいてくるのだ。近づくどころか、家の中に上がり込んでくる。

つまりは、結果的に職住が近接するのだ。

妙な成り行きではあるが、これも間違いなく職住近接の実現である。すなわち、賃貸・売買含め、近年の不動産市場を建て付けていた重要な視点だった職住近接の意味や価値……それをある程度破壊した側面が、今回の「コロナ」には存在する。

もっとも、それでもさまざまな理由から、都市への人とモノの集積は今後も進んでいくだろう。それに対抗するため、あるいはそうした波を乗りこなすため、何割かの人々は、「物理的な職住近接」「バーチャルな職住近接」の両方を使い分け、対応することになるはずだ。

また、それはとりもなおさず、人口減少の中での不動産市場において、複数拠点生活、すなわちマルチハビテーションが、価値と利益を創出する面において大いに存在意義を広げることにもつながっていきそうだ。

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