相続税が上がると、なぜ空室率が上がるのか?
大友健右
2016/06/13
首都圏のアパート空室率急上昇のカラクリ
先日、日経新聞で「アパート空室率、首都圏で急上昇」というニュースが報じられました。記事の内容を要約すると、入居者を募集しているアパートの総戸数のうち、空いたままになっている戸数の割合が、東京23区で36.68%、千葉県では34.12%と、過去最悪の水準を更新したというのです。
さらにこの記事は、首都圏の空室率の悪化が始まったのは2015年の夏ごろからで、その背景には相続税の増税があることを指摘しています。
しかし、相続税が上がると、なぜ首都圏のアパートの空室率が上がるのでしょうか?
記事では匂わす程度にして触れていないので、もう少し詳しく解説しておきましょう。
「アパートを建てれば入居者がやってくる」時代ではない
結論からいうと、アパートの開発業者が土地のオーナーを食いものにしているのです。
そもそも土地の相続税の評価額は、「遊休地等(さら地)」として相続するより、「貸家建付地(賃貸アパートなど)」として相続したほうが軽減されます。また、固定資産税が6分の1、都市計画税が3分の1まで軽減するなどのメリットもあり、相続税の節税対策としてアパート経営をすすめる業者が後を絶たないのです。
見方によれば、相続税を払えずに苦しんでいる土地のオーナーにアパートの開発業者が救いの手を差しのべているというように見えなくもないですが、実態はそうではありません。
というのも、いまの日本には「アパートを建てれば入居者が必ず入る」という事実を保証するデータはひとつもなく、人口減少、高齢化など、「アパートを建てても入居者はいない」という状況でしかないからです。
不動産の賃貸市場は、短期間で拡大や縮小を繰り返すようなものではなく、一定の水準を推移しているものです。むしろ最近は、徐々に縮小しているというのが現状でしょう。
そんなところに新築のアパートをバンバン建てたらどうなるか?
空室が増えていくというくらいのことは、小学生にだって考えつきます。
リスクにさらされるのは不動産会社ではなく、オーナーだ!
こういう場合、アパートの開発業者は、関連会社や子会社の不動産会社の「サブリース(一括借上)」というサービスを提案して、土地のオーナーを安心させようとします。これは、アパート全体をオーナーから借り上げて賃料を支払うサービスで、空室が出ても最低限の家賃収入を保証してくれるというのですが、実はこれが大問題なのです。
予言しておきますが、私はこのサブリースという仕組みは早晩、成り立たなくなると思っています。
空室率が30%を超えるということは、10部屋のうち3部屋以上が空室になるわけですから、最低限とはいえ家賃を保証できなくなるのは当然です。
サブリースで不動産会社にアパートを提供しているオーナーはやがて、「いまの家賃では入居者が集まりませんから、家賃を下げましょう」とか、「この内装では入居付けできません。リフォームしましょう」などと言われて、建設費などのローン返済が終わらないうちにさらなる投資を強いられるという最悪のリスクにさらされることになるのです。
これが最初に述べた「アパートの開発業者が土地のオーナーを食いものにしている」ということの実態です。
この問題を解消するには、需給バランスを無視して入居者の入らない新築アパートを建て続けることの危険性をアパートの開発業者に理解させること(理解はしているはずですが、建て続けなければ破綻してしまうビジネスモデルに問題があると考えます)、不動産会社に破綻寸前のサブリースを提供させないことなど、さまざまな業態の改革が必要です。
しかし、不動産業界がそういう方向に踏み切ったという話は、どこにもありません。新築のアパートを建てるという事業は高収益をあげられるビジネスモデルのため、簡単に手放したくないと不動産業界のみんなが考えているとしか私には思えないのです。
今回の結論
・相続税の増税に泣く土地のオーナーに、不動産会社は盛んに営業をかけている。
・その結果、入居者の入らない賃貸アパートが急増している。
・最低限の家賃収入を保証する「サブリース」は早晩、破綻する。
・需給バランスを無視した賃貸住宅の建設は即刻、やめるべき
この記事を書いた人
株式会社ウチコミ 代表取締役 株式会社総研ホールディングス 代表取締役 株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役 1972年生まれ。大手マンション会社で営業手法のノウハウを学んだのち、大手不動産建設会社に転職。東京エリアにおける統括部門長として多くの不動産関連会社と取引、不動産流通のオモテとウラを深く知る。 現在、株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役として、住宅リフォームを中心に事業を展開。また、株式会社ウチコミ 代表取締役として、賃貸情報サイト「ウチコミ!」を運営。入居の際の初期費用を削減できることから消費者の支持を集める。テレビ・新聞・雑誌などメディア出演も多数。