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死後事務委任契約を管理会社と結ぶ。高齢・賃貸一人暮らしの人は特によく知っておこう

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管理会社が受任者に

「死後事務委任契約」を知っているだろうか。高齢者やそれに近い人で、なおかつ賃貸一人暮らしの人は特によく覚えておきたい言葉だ。

近年、アパートや賃貸マンションを管理する管理会社が、この契約の受任者となるケースが少しずつ見られるようになってきた。この場合、契約相手となる入居者(賃貸住宅の賃借人)は、委任者の立場に立つ。

「あなたを委任者、弊社を受任者として、死後事務委任契約を結ばせてほしい」

そんな申し出を管理会社から受けた際に、慌てないため、以下のあらましを知っておこう。

死後事務委任契約とは?

まさに書かれてあるとおりだ。「死後」の「事務」を「委任」する。

委任者「私が死んだあとこれらの手続き等をよろしく頼みます」
受任者「分かりました」

と、いうかたちで結ばれる契約だ。

たとえば、次のような事がらが、主な死後事務の例として挙げられることになる。

  • 親族や緊急連絡先などへの連絡
  • 葬儀、お骨の埋葬
  • 行政機関等への届出
  • 住居の明渡しや残置物の処分
  • 医療費、施設利用料等の精算、支払い
  • 遺品の整理
  • ペットの引き取り、引き継ぎ
  • 各種サービス料金、会費などの精算や解約
  • デジタルデータの処分
  • お墓の管理や法要の実施

(なお、上記のひとつに「住居の明渡しや残置物の処分」とあるのに注目してほしい)

なぜ管理会社が受任者に?

なぜ、賃貸住宅管理会社が、死後事務委任契約の受任者となるケースが見られるようになってきているのか。

背景には、わが国人口の高齢化がある。これにともなって、身寄りのない、あるいはそれに近い状態の高齢者が、賃貸で一人暮らしをする事例が増えているからだ。

そのうえで、会社それぞれの考え方にもよるが、死後事務委任契約の受任者となることには、管理会社にとってのメリットがある。

それは、入居の促進だ。

高齢、かつ単身で身寄りがないなどといった入居希望者は、賃貸住宅のオーナー(大家・賃貸人)から入居を拒否されることも少なくない。

理由は多くが知るとおりだ。いわゆる孤独死の懸念と、さらには住居内に残される家具等、残置物の処理に苦労させられることを彼らが強く不安視するためだ。

だが、そこで管理会社が手を挙げ、死後事務委任契約の受任者となることで入居者の後ろ盾となってくれれば、それらはある程度払拭される。

本来ならば、賃借権を引き継ぐ立場にある相続人を探索するなど、手間のかかることも多いこうしたケースでの契約解除や残置物の処理だが、それを管理会社が、入居者から事前の委任を受けたかたちでスピーディにやってくれるのだ。

オーナーとしては、上記のような入居者でも歓迎しやすくなる。その結果、空室も早く埋まり、家賃も早期に得られることになる。

一方で、入居者の方もスムースに住居を確保でき、助かることになるわけだ。

そのうえで、両者の仲介等をビジネスとする管理会社には、当然のこと利益が生じる。併せて、社会貢献を果たすといった意味でもメリットが見出せることになるだろう。

管理会社による死後事務委任契約の実際

管理会社が、実際に入居者や入居希望者に対し、死後事務委任契約の締結を求める場合、冒頭に挙げたような死後事務を何でもかんでも引き受けるといったケースは考えにくい。

賃貸借契約の解除および残置物の処理をメインに、緊急連絡先への連絡など、受任内容を一定の項目に絞ったかたちを提示することが多いはずだ。

そのうえで、いわゆる「見守りサービス」の契約をセットで依頼することもあるだろう。孤独死の発見遅れを生じさせないための手立てだ。これがあると、オーナーはさらに安心できる。

なおかつ、新規の入居の場合、こうした契約の締結が入居そのものの条件となるケースが今後は増えてくる可能性もある。

そこで、目を通しておきたい資料がある。

「残置物の処理等に関するモデル契約条項」というものだ。国土交通省と法務省が共同で策定した。

死後事務委任契約の中に、賃貸借契約の解除と残置物の処理について定める内容が盛り込まれる場合、そのための「ひな型」が示されているといったものになる。

―――「残置物の処理等に関するモデル契約条項

管理会社が、自社が運用する死後事務委任契約の内容を考える際は、これを参考にすることが多いだろう。

加えて、一般の人々が、賃貸住宅にかかわる死後事務委任契約のことを学ぶためにも上記は役に立つ。リンク先にある各資料をひと通り読んでみることをぜひおすすめしたい。

受任者として適任なのは本来誰か?

ところで、上記「残置物の処理等に関するモデル契約条項」には、こんな記述が見られる。(抜粋・要約)

  • 受任者は、賃借人(入居者)の推定相続人とするのが望ましい(推定相続人=いま現在相続が発生した場合、相続人になるはずの人)
  • 推定相続人の所在が明らかでない、または同人に受任する意思がないなどの場合は、居住支援法人や、居住支援を行う社会福祉法人のような第三者を受任者とするのが望ましい
  • 賃貸人(オーナー)を受任者とすることは避けるべき。賃借人の利益を一方的に害するおそれがあるほか、民法や消費者契約法に反するとして、契約が無効となる可能性もある
  • 管理会社が受任者となることについては、直ちに無効であるとはいえないものの、オーナーの利益を優先することなく、委任者である入居者(と相続人)の利益のために誠実に対応する必要がある

―――主旨、お分かりだろうか。

入居者に対し、いわゆる利益相反の関係となりやすいオーナー、さらにはオーナーを「客」と仰ぐ立場の管理会社について、国は実のところ、死後事務委任契約の受任者としてふさわしくないか(オーナー)、あまり推薦できない(管理会社)と見ているようだ。

とはいえ、現実を言えば、管理会社は「入居者」「オーナー」「賃貸物件」―――2者1物すべての事情に通じていることで、賃貸借契約の解除や残置物の処理に関し、効率的かつ主導的に動きやすい立場にある。

よって、「オーナーの利益を優先することなく、入居者側の利益のために誠実に対応」することが確実なのであれば、管理会社は、誰よりも迅速かつ適切にこの仕事を全うできるはずだ。

その点、業界関係者はじめ、行政、福祉関係の方々など、いま多くが期待しているところだろう。業界挙げて不安を払拭してほしい。

残置物処理費用は誰が負担?

管理会社から死後事務委任契約を求められ、承諾しようとする場合、入居者はどんな負担を心掛けておく必要があるのだろう。

まずは、気になるのはお金のことだ。残置物の処理にかかる費用は誰がどうまかなうことになるのか。

一般的には、そのための一定の金額を受任者に預けておく方法が考えられるだろう。だが、それでは身寄りのない単身の高齢者にとって、負担が重い場合も少なくない。

そこで、管理会社が死後事務委任契約の受任者となるケースでは、家賃債務保証会社が請け負う補償によって、これをまかなうかたちがとられやすいだろう。つまり、入居者は保険料でこれを負担する。

他方、そういったかたちではなく、事前の預託金が生じる場合は、預かる受任者が誰であろうと(社会福祉法人等、真面目でしっかりしていそうな相手でも)、先方の破産などによって損害を被る可能性はゼロではない。心しておきたいところだ。

さらに、こちらは委任者が亡くなってからのことになる。

委任者本人は、推定相続人が自分にはいないと認識しており、その上で死後事務委任契約を結んだところ、実は存在していて、死後その人物が契約に異議を申し立てるといったことも考えられないわけではない。残置物の処理が終わったのち、「それは私のものだった」と、管理会社が責められるようなケースだ。

そのため、こうしたことが起こらないように、あるいは起きても的確に対処できるように、管理会社(受任者)側は、契約内容を整備した上で(解除制限特約を設定する)、可能なかぎり事前調査も行うはずだ。仮にその時点で推定相続人が見つかった場合、死後事務委任契約の締結とその内容に対し、同意してもらえるか、意思確認もするだろう。

よって、その過程で受任者には大小の負担が生じるかもしれない。自身の家族、生い立ち等についてさまざま聞かれたり、遺言書を書くなど「生前対策」を行う必要が出てきたりする可能性もあるわけだ。

なお、死後事務委任契約では、財産の分配等、遺産の相続・贈与に関することは決められない。そちらは遺言書などでカバーされるものとなる。

一方、遺言書で誰かに死後事務を依頼しても、法的拘束力がないことも知っておこう。両者はそれぞれ使い分けをすべき、補完し合う関係にあるということだ。

以上、賃貸住宅管理会社が死後事務委任契約の受任者となるケースに関して、かいつまんで記した。

なお、身寄りのない入居者だけではない。

ペット、各種アカウント、デジタルデータ、クレッジットカード、さらには葬儀のかたちへのこだわり等々―――「死後の頼み」が複雑で数多くなりがちな現代人にとって、死後事務委任契約は、今後さらに一般的なものとなっていく可能性が高いだろう。

(文/賃貸幸せラボラトリー)

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賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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