97社中59社に「是正指導」 サブリース業者等へ国交省が一斉立ち入り検査
賃貸幸せラボラトリー
2023/05/27
97社中59社に是正指導
賃貸物件をサブリースで運営しているオーナーは、特に注目してほしい。
- 全国97社の賃貸住宅管理業者およびサブリース業者へ立入検査を実施
- うち59社に是正指導
国土交通省がこの5月15日に公表している。
検査は今年の1月から2月にかけて行われた。賃貸住宅管理業法の施行後初めての実施となっている。(賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律・21年6月15日全面施行)
同法各条別に、件数は以下のとおりとなっている。1社に対する重複しての該当・指導があるため、合計した数字は上記の59(社)を大きく超えている。
- 管理受託契約重要事項説明義務違反(第13条関係) 17件(3番目に多い)
…法定記載事項の記載不備など - 管理受託契約締結時の書面交付義務違反(第14条関係) 28件(最も多い)
…法定記載事項の記載不備など - 財産の分別管理義務違反(第16条関係) 2件
…一部口座について財産の混在など - 従業者証明書の携帯義務違反(第17条関係) 15件
…従業員証明書未作成 - 帳簿の備付け義務違反(第18条関係) 11件
…事業年度ごとの分類をしていない、一部未作成など - 標識の掲示義務違反(第19条関係) 4件
…指定様式の標識未使用など - 委託者への定期報告義務違反(第20条関係) 2件
…定期報告書面に報告対象期間が未記載など - 誇大広告の禁止義務違反(第28条関係) 4件
…借地借家法に関する事項が未記載など - 特定賃貸借契約重要事項説明義務違反(第30条) 2件
…法定記載事項の記載不備など - 特定賃貸借契約締結時の書面交付義務違反(第31条) 10件
…法定記載事項の記載不備など - 書類の備え置き及び閲覧義務違反(第32条) 18件(2番目に多い)
…業務状況調書未作成、業務状況調書を電子のみ(書面化できない状態)で保存など
以下、国交省のコメントだ。
- 指導の対象については「管理受託契約締結時の書面交付」がもっとも多い。「書類の備え置き及び閲覧」、「管理受託契約締結前の重要事項説明」がそれに次ぐ
- 一部の賃貸住宅管理業者等において、法の各条項の理解不足が見られる
- (指導を受けた)59社すべてにおいて是正がなされたこと等を確認している
いくつか説明を加えていこう。
重説・契約締結時書面に不備が多いのはなぜ?
まず、もっとも多い是正指導対象として、
2.管理受託契約締結時の書面交付義務違反(第14条関係) 28件
が、挙がっている。
また、ここでは「法定記載事項の記載不備など」と添え書きがある。つまり、交付義務違反とはいっても交付そのものを怠っているのではなく、中身に問題があったケースが多いものと思われる。
そこで目を移すと、同じ添え書きがほかにも3つあるのがわかる。
(ほかの3つ)
1.管理受託契約重要事項説明義務違反(第13条関係) 17件
9.特定賃貸借契約重要事項説明義務違反(第30条) 2件
10.特定賃貸借契約締結時の書面交付義務違反(第31条) 10件
よって、この添え書きがある是正指導対象は計4つだ。これは何を意味しているのだろうか?
想像できるのは、こうした指導を受けた業者にあっては、おそらく多くが賃貸住宅管理業法の施行に合わせたこれら書面のリニューアルをしていないのではないか?
だとすれば、勉強不足ともいえるし、経営者や従業員においての「勉強する時間不足」、あるいは勉強するための「やる気不足」を分析してもいいだろう。
とはいえ、彼らに言わせれば、「書類の細かいところは不備でも、仕事は以前から真面目にやっている」との声が、おそらく多く返ってくるはずだ。おおむねその言葉にウソもないだろう。
しかしながら、小さくともやらなければいけない面倒を先送りにする体質は、あらゆる仕事においてやがて事故を生む原因となる。それが法律上のことであればなおさらだ。われわれ皆が知る、社会の常識であり良識だ。
違いは何? サブリースとマスターリース
ところで、上記に出て来る「特定賃貸借契約」とは、いわゆる賃貸物件のサブリースを指している。賃貸オーナーが「私の物件の運営をサブリースで管理会社A社に任せる」とする際に、オーナーとA社との間に結ばれる契約だ。
だがこの表現、実は間違いなのだ。ここでオーナーとサブリース業者との間で交わされる契約は、正しくは「マスターリース」契約となる。
すなわち、特定賃貸借契約とはマスターリースのことだ。サブリース業者と入居者の間に結ばれる「転貸借」契約こそが、実はサブリース契約だ。
以上は、言葉として普段かなりあいまいに扱われがちだ。しかしながら、いわゆるサブリース契約を事業者と交わしているオーナー、交わそうとしているオーナーは、このことをきちんと知っておいたほうがいい。国交省や消費者庁等、公(おおやけ)のリリースに目を通す際など、余計な混乱や誤解が避けられる。
財産の分別管理義務違反は「少な」かった?
是正指導の話に戻ろう。
財産の分別管理義務違反(第16条関係)は、2件と少なかった。ただし、厳しい見方をすれば、100社にも満たない立入検査で2例も出てきたということで、「懸念アリ」と判断することもできるだろう。
なぜか?
財産の分別管理は、サブリースを含む賃貸住宅管理業を行う上で、もっとも基本的かつ大切なモラルだからだ。
ひらたくいえば、これら事業者に対して、賃貸住宅管理業法は「入居者からオーナーに渡るお金と自分の会社のお金は必ず別けて管理しなさい。財布を一緒にするな」と、クギを刺している。
その目的は、もちろんのこと、オーナー保護のためだ。さらには事業者に対し、自律と自戒、併せて社会的責任をともなう誠実な事業運営を促すためとなる。
よって、この部分で違反を指摘されることは、かなり格好の悪いことといえる。
借地借家法とサブリースの重要な関係
8.誇大広告の禁止義務違反(第28条関係) 4件――と、あるのに注目したい。
添え書きには「借地借家法に関する事項が未記載など」と見えるが、どういう意味だろう。
これは大変重要なことだ。だが知らないオーナーも多い。また、一度は耳にし、目に入りしていても、忘れてしまっている人も少なくないようだ。
さきほどのマスターリース契約(オーナーとサブリース業者との間に結ばれる“いわゆる”サブリース契約)には、借地借家法が適用されるのだ。
ちなみに、借地借家法に関して、通常の認識はこうなる。
賃貸住宅の入居者(借主・借家人) ――概して弱い立場に立つ
借地借家法 ――概して弱い立場に立つ入居者を保護することが目的
ところが、この借地借家法、物件の借主が“弱い”個人ではなく、不動産のプロでもある“強い”サブリース業者であっても、等しく適用されてしまう。
そのため、こうなるわけだ。
(借地借家法第32条により)
サブリース業者からオーナーに対し「向こう〇〇年間、約束した賃料は確実に払う」等の説明があったり、契約書に「〇〇年家賃保証」などの記載があったりしても、それは確実ではない。契約(マスターリース)期間中、あるいは更新時など、業者側がオーナーに家賃の減額を請求してくる可能性はつねにある。(借地借家法第28条により)
オーナーが契約(マスターリース)を解約したい場合、あるいは更新したくない場合、希望を通すには借地借家法に定める「正当事由」が必要になる。よって、サブリース業者側の同意を得られない場合、オーナーの意志はかなり通しにくい。逆に、業者側のハードルは低く、たとえば契約書に「業者側から解約できる」旨を記しておけば、彼らはいつでも解約交渉を――概して有利に――始められる。
要は、契約を続けるorやめる、家賃を維持するor下げるという重要な局面において、業者側はつねに法を後ろ盾とした主導権をもっているというわけだ。
一方、オーナーは譲歩を余儀なくされやすい。それがサブリースの注意すべき仕組みとなる。
そこで、賃貸住宅管理業法では、実質的に立場の弱いサブリースオーナーを守るため、一応の措置を講じている。具体的には、上記、借地借家法によるオーナーの不利について、業者側がオーナーに説明しない場合は、業法違反となる仕組みを定めている。
つまり、話を戻そう。
8.誇大広告の禁止義務違反(第28条関係) 4件
…借地借家法に関する事項が未記載など
というのは、そうした「説明」が広告上きちんとされていなかった事例が、今回の立入検査では少なくて1件~多くて4件見つかったということだ。
これをわずかな数と考えるか否かは、さきほどの「財産の分別管理」同様、見方がわかれるところだろう。
サブリースオーナー、検討しているオーナーに必ず見てほしいサイト
以上、国交省がこの5月15日に公表した、賃貸住宅管理業者およびサブリース業者への立入検査の結果について紹介した。リリースは下記リンク先にある。
「国交省 賃貸住宅管理業者及び特定転貸事業者59社に是正指導 ~全国一斉立入検査結果(令和4年度)~」
併せて、サブリースオーナー、同検討中のオーナーにぜひ目を通してほしいサイトを以下に掲げておく。「ぜひ見て」というより、「必ず」ご覧になっていただきたいものだ。
「国交省 賃貸住宅管理業法ポータルサイト」
「消費者庁 サブリース契約に関するトラブルにご注意ください!」
(文/賃貸幸せラボラトリー)
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この記事を書いた人
編集者・ライター
賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室