業界に存在する「中古住宅が流通しづらい」決定的な欠陥とは?

情報

消費者と不動産業者の間には圧倒的な情報量の差がある

これまでの連載で、不動産流通の実態をいくつかの角度から見てきました。消費者の立場から不動産業界を見て、どう対応するかを考えれば、「どうやったって勝ち目はない」と思わざるを得ません。不動産業界に対して、常に後出しジャンケンを強いられる状況が続いてきたのです。

では、本当にどうやっても太刀打ちできないのでしょうか? 決してそんなことはありません。前回までの連載でお伝えしたように、消費者と不動産業者の間には圧倒的な情報量の差がありますが、それを突き崩せばよいからです。

これまで、情報量は消費者を1としたら業者は99。このことは、かつて不動産業界でトップ営業マンとしてやってきた筆者の経験からも間違いありません。ただ、その差を埋めることは実は簡単なことなのです。

では、その情報の差とはどのようなことなのかをまず見ていきましょう。下記のマンガをごらんください。

マンガ
マンガ

これは「レモンの原理」という経済学の学説をモチーフにしたもので、この原理では「情報の非対称性がある業界は市場の信頼性がなくなり衰退する」ということが説明されています。

情報の非対称性が存在するマーケットはやがて廃れる

情報の非対称性についてもう少し詳しく見ていきましょう。

これはジョゼフ・スティグリッツ(米コロンビア大教授)、ジョージ・アーサー・アカロフ(米カリフォルニア大バークレー校教授)、マイケル・スペンス(当時、米スタンフォード大教授)らの「非対称情報下の市場経済」で語られたもので、彼らは2001年に、この学説によってノーベル経済学賞を受賞しました。

消費者と業者がそれぞれにもっている情報の間に圧倒的な差があるとき、その市場ではどのようなことが起こるのか・・・。「レモンの原理」では、このことを説明しています(レモン=傷物の中古品という意味)。

たとえば、中古車市場で、200万円の価値がある良質な中古車と、ほとんど価値のない中古車が半数ずつあるとします。その車をA車とでもしておきましょう。ここでは、中古のA車の相場を100万円とします。

仮にあなたが、200万円の価値のあるA車を100万円で買った場合、「足回りもよいし、カーナビも3年落ちぐらいで十分使える」としたら、どうでしょう? 「得をしたな」と思いませんか?

では、その逆はどうでしょうか? 50万円ぐらいの価値しかないのに100万円で買ったら、「ブレーキは滑るし、カーナビには新しい道も表示されない」と、あなたはきっと「損をした」と思うはずです。

一方、市場を見ると、200万円の価値があるA車を、わざわざ100万円で売る人はいません。でも、50万円のA車が100万円で売れるとしたら、人はどんどん売ることになります。そうすると、市場には、価値の低い(程度の悪い)A車しか出回らなくなってしまいます。

ここで一つの疑問がわいてきます。それは、そんな程度の悪いA車がはたして売れるのかということです。

ここでレモンの登場です。この原理では50万円の価値しかないA車のことをレモンと呼びます。それはなぜか? レモンは皮が厚く、一見したところとくに傷もなければ新鮮に見えてしまうもの。しかし、皮をむいて開けてみれば腐っているなんてことが往々にしてあるからです。

「なかを開けてみなければわからない」。ココが重要なポイントです。中古車市場で言うと、販売員は当然、車も整備しますし、付属品のグレードも把握しています。つまりその車の中身を知っているわけです。しかし購入者は、100歩譲って付属品のグレードがわかったとしても、足回りといった細かなところまでわかるはずもありません。

つまり、レモンの原理で言う「情報の非対称性」とは、このように「商品に関して業者は詳しい情報をもっているが、消費者はまったく情報がない」関係のことを言うのです。

ただ、消費者だってバカではありません。売り手と買い手の間に情報の非対称性があったとしても、その市場価値そのものには遅かれ早かれ気づきます。いつ行っても悪い品ぞろえしかしていない市場は、そのうちそっぽを向かれてしまうことでしょう。

つまり、このような情報の非対称性が存在するマーケットは、どんどん信頼性がなくなってしまい、やがて廃れていく・・・このことが最も重要なのです。

もし、業者が消費者に情報を提供し、業者と消費者とが情報を共有しあいフィフティ・フィフティの関係にあれば、どの商品にどれだけの価値があるかを理解することができ、それぞれの価値に応じて価格が決まるため、マーケットの健全性は保たれるはずです。

しかし、情報の非対称性があれば、やがて、価値のない商品がマーケットを席巻し、そのマーケットそのものが消費者からそっぽを向かれてしまうのです。本来、消費者が手に入れると利益のある価値あるピーチは、バカらしくてどんどん市場から消えることになります。

ここでは、ジョージ・アーサー・アカロフ教授らが示した例を参考に中古車市場でお伝えしましたが、これと同じような状況がいくつかのマーケットで起こっている気がしませんか?

筆者は、その最たるものが、住宅流通、とくに中古住宅市場で起こっていると考えています。このことに対して、行政は長期優良住宅、100年住宅構想によって中古住宅の流通の活性化を図ろうとしていますが、その施策で市場の健全性を保つのは事実上不可能です。

なぜなら、中古住宅流通に関しての補助金などは業界のブラックボックスの外に対して出されているからです。ブラックボックスの中に対しては何も行われていないので、情報の非対称性はまったく解消されません。

そのブラックボックスは、消費者がこじ開けることはおろか、業者自身がみずからこじ開けようとすることを拒んでいる状況にあります。

筆者が本書を世に出す意味はここにあります。この本がなくとも、いずれ業界は変わるとは思います。ただ、他の業界が目まぐるしく変化していっているようには変化できないのが不動産業界なのです。ここまで高収益の利益構造が確立している業界です。既得権益を崩してまで業界の時計の針を進めようとする業者はいません。

また、その自浄作用のなさこそが、逆に、業界の市場規模を狭めている諸悪の根源でもあるのです。日本の中古住宅は、質が悪いから30年足らずで壊されているわけではありません。中古住宅が流通しづらい決定的な欠陥が業界のしくみの中にあるのです。

本連載は、2012年9月10日刊行の書籍『不動産屋は笑顔のウラで何を考えているのか?』からの抜粋です。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

この記事のコラムニスト

大友健右
大友健右(株式会社総研ホールディングス代表取締役社長)
株式会社総研ホールディングス・株式会社ウチコミ・株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役社長。1972年生まれ。大手マンション会社で営業手法のノウハウを学んだのち大手不動産建設会社に転職。東京エリアにおける統括部門長として多くの不動産関連会社と取引、不動産流通のオモテとウラを深く知る。
ウチコミ!創設者
大友健右は収益物件の個人間直接売買ができるプラットフォーム「ウチコミ!」の創設者です。