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悪意

日常生活の中で「その言い方には悪意が感じられるね」「人の発言を悪意に取らないでくれる?」といったやり取りを聞いたことはあるでしょうか。悪意・善意は一言で言えば道徳的な意味合いが強い言葉だと思います。ところが専門用語では、まったく違った意味になるのです。
私法という言葉が有ります。憲法、行政法などは公法(国民と国家との関係を規律する法律)ですが、民法、商法などは「私人としての利益や関係について規定した法律」「市民の相互関係を規律付ける法律」なので私法と呼ばれます。そして、この私法において「悪意」とは「ある事情を知っていること」、「善意」とは「ある事情を知らないこと」を意味するのです。

虚偽売買の場合
「悪意」「善意」の用法についてはピンと来ないかもしれませんが、実は民法などの条文にはよく出て来ます。不動産取引では何か問題が生じたとき、ある事情を「知っていた」方が不利な場合があります。つまり一般的には「悪意の場合の方が不利」と言えるでしょう。
不動産情報サイト「アットホーム」の不動産用語集では、わかりやすい例を記載しています。
「例えば、AがBに不動産を虚偽で売却したうえで登記をしたときにはAB間の取引は無効であるが、その登記済みの不動産をCが買収した場合に、CがそのAB間の取引が虚偽であることを知っていた(悪意である)ときには、ABはCに対して当該不動産の所有権移転が無効であると主張できる。しかし、Cが知らなかった(善意である)ときには、その主張はできない。悪意の場合には、善意の場合に比べて法的に保護を受ける効果が劣るのである」
つまり、AがBを騙して不動産取引をしたことをCが承知のうえで当該不動産を買収した場合、ABは「その所有権移転は無効だ」と主張できます。Cは法的に保護を受けることが難しくなるのです。しかし、Cが事情を知らずに買収してしまった場合、ABの「所有権移転は無効だ」という主張は通らなくなります。
詐欺の場合
もう1つ、詐欺の事例を見てみましょう。AさんがBさんに騙されて土地を売ってしまいました。当然、Aさんはこれを取り消して土地を取り戻すことができます。ところが、取り消す前にCさんが「善意」の状態(「AさんがBさんに騙されて土地を売ってしまった」ということを知らない状態)でBさんから土地を買っていた場合、AさんはCさんから土地を取り戻すことができなくなります。逆にCさんが「AさんがBさんに騙されて土地を売ってしまった」という事実を知っていたとしたら、AさんはCさんから土地を取り戻すことができます。その場合Cさんは「悪意」の状態にあるわけです。