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エクスパンションジョイント

注意したいカタカナ語
最近では「ソーシャルディスタンス」「ロックダウン」といった新型コロナウイルス感染症関連の用語から「インフルエンサー」や「エビデンス」といったビジネス用語に至るまで、カタカナ語は日常生活の中に確実に浸透を続けています。カタカナ語には外国語をそのままカタカナにしたものから和製英語まで様々なものがあります。中には「エクステリア」の項で述べたエクステリアのように本来とは意味が変わっているものもありますし、「それ、日本語のほうがわかりやすくない?」というものも。逆に、カタカナ語でないとニュアンスがうまく伝わらないものもあります。
例えば「インシデント」「アクシデント」という言葉がありますが、アクシデント(accident)は「思いがけなく起こる事故」で、主にすでに起こってしまったことを指します。これに対しインシデント(incident)は「普通でない、不愉快な出来事」から「国家間の紛争」などまで幅広い意味を持ちますが、カタカナ語では主に情報流出やシステムへの不正侵入など、「これから事故などの危機・被害が発生するおそれのある事態」を意味します。英語でも、辞書によっては「(重大事件に発展する危険性がある)付随事件」と紹介されています。しかし、業界によって意味範囲が異なっており、例えばハーバード大学病院ではインシデントを「医療事故」と定義しているそうです。意味を取り違えるとそれこそ重大事故に発展してしまいかねないので、カタカナ語は業界ごとにニュアンスをきちんと把握しておく必要があるでしょう。
日本語では「伸縮継手」
建築用語にも「エクスパンションジョイント」というカタカナ語があります。これは構造体を分離して変位に対応する継ぎ目のことで、分離された構造体間で破壊的な力を伝えない役割を持ちます。英語では「expansion joint」で、意味的な広がりはありません。日本語では「伸縮継手」と呼ばれていますが、この語に関してはカタカナ語のほうが専門用語として広まっているようです。
エクスパンションジョイントが対応するのは次のような場合です。

・温度変化による収縮・膨張の変位
・地震時の大きな震動変位
・変位性状が異なる構造体を一体化

「変位」とは物体の位置が変わること、測定対象の位置が変化した量のこと。例えばコンクリートの建物は季節などの温度差によって膨張したり収縮したりします。そのままだとひび割れたり崩れたりするので、壁や床にあらかじめ隙間(クリアランス)を造り、アルミニウムやステンレスなどで変位に追従する部材を組み込むのです。地震などが起きたときのためにも、各部がバラバラに動くようにしておく。そして隙間を残しながら、外見上は隙間がないようにします。つまり建物をガチガチに固めるのではなく、あえて建物を揺らすことで力を逃がす構造にするのがエクスパンションジョイントなのです。