少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払いを求める場合に使用できる訴訟手続きで、1回の審理で判決をすることが原則となっています。不動産業界では、敷金の返還を求めて少額訴訟を起こすことが多いようです。
- 敷金
- 敷金は、賃貸借契約をした物件において、借主の退去時に修理が必要な箇所があった場合の修理費用、あるいは家賃を滞納した場合の保証金などとして、貸主に事前に預けるお金です。
- 敷金トラブル
- 敷金は、借主が退去する際、原状回復に必要となった費用以外は借主に返還されます。しかし、借主側からすると、原状回復に必要以上の額がひかれていたり、敷金がまったく返還されなかったり、あるいは追加請求されたりし、貸主とトラブルになることも少なくありません。
トラブルとなる理由のひとつに、「原状回復」の認識の相違によるものが挙げられます。原状回復とは、賃貸借契約をした物件で契約を終了したのち、借主が物件を当初の状態に回復して明け渡すことです。しかし、最初に賃貸借契約をしたときとまったく同じ状態に回復することではありません。毎日の生活や経年によって自然に劣化していく部分については、原状回復の義務はありません。
そのため、経年によって劣化した部分の修理費用は、貸主の負担となります。こういった貸主が負担すべき費用として考えられるにもかかわらず、敷金を利用された場合などにトラブルへと発展することがあります。 - 原状回復ガイドライン
- 敷金返還にまつわるトラブルをかんがみ、平成10年に原状回復におけるガイドラインが公表されています。さらに平成23年には原状回復のための手順を明確化するなど、ガイドラインの具体化が進んでいます。
- 敷金診断士
- 賃貸住宅の原状回復や敷金返還に関するトラブルは、PIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)に13,919件(平成25年)の相談が寄せられています。こういったトラブルの解決を図る専門家として「敷金診断士」がいます。敷金診断士は、特定非営利活動法人日本住宅性能検査協会が認定する民間資格です。適正な現状回復費の査定をするために、借主の退去時に立ち会って、敷金返還の交渉を行います。
敷金の少額訴訟を避けるには
- 借りる側のほうが有利な時代
- 少額訴訟は60万円以下の金銭の支払いを求めることができ、1回の審理で判決を下すことが原則となっている訴訟手続きです。通常の民事裁判では、何度も裁判所に出向き(代理人弁護士でも可能ですが)、裁判官に様々な資料を提出して戦わなければなりません。1回の審理で決着する少額訴訟は、うまく使えばトラブルを早期に解決することができます。そのため敷金の返還を求めて借主が利用することが多い訴訟形態になっています。敷金が60万円を超えることは滅多になく、費用も少額なので頼りになるわけです。
もっとも、敷金トラブルは減少傾向にあるようです。理由は「ネットを通して誰もが敷金返還のルールや判例を知ることができるようになったこと」及び「賃貸住宅の空き室が増え、部屋を借りる側のほうが有利になったこと」。状況がここに至っては、貸主としてはトラブルを避けるために全力を尽くすべきでしょう。中には最初から「敷金は返しません」と宣言する貸主もいます。原状回復に必要な金額がいくらであっても定額で対応する、というわけで、思い切った対応だと言えるでしょう。 - 訴訟を避けるには契約内容の周知徹底を
- そもそも、契約に関するトラブルがなければ訴訟は起きません。貸主の側も、原状回復におけるガイドラインをよく理解しておきましょう。例えば経年劣化によるクロスの傷みなどは原状回復義務には当たりません。貸主がここを理解していないと、借主との間でトラブルになりかねません。また、契約内容に特殊な条件を加えた場合も注意が必要です。「退去時にはハウスクリーニングを入れること」と契約書に書いてあるのに、事前に貸主に説明しなければ、退去時にトラブルになることは必至でしょう。特に借主の負担になる条件には、周知徹底が必要です。
逆に借主の側が過失、手入れの怠り、用法違反によって部屋を傷つければ、これは借主の原状回復義務となります。少額訴訟を起こしても、まず勝てません。居住中は物件を丁寧に扱い、掃除をきちんとするのは人として当然と考え、借主には常識的な使い方をしてほしいものです。あるマンションはペット可物件だったのですが、住人の一人が猫をまったくしつけず、物件をめちゃくちゃにして出ていったので、ペット可という条件を取り下げてしまいました。常識的な範囲でペットの扱いをしっかりしていれば、このような事態は起こらなかったでしょう。
(参考:SUUMOジャーナル)