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売渡承諾書

「物件を売り渡す意思があることを表明する」書面
不動産の売買において、当該物件を売り渡す意思があることを表明する書面のことを売渡承諾書と言います。売主が買い受け希望者に対して交付するもので、内容は売渡価格や売渡条件等です。
売買に関する書面としては売渡証書がありますが、売渡証書が「所有権移転登記の原因を証する書面」として所有権移転登記を申請する際に登記所に提出されるのに対し、売渡承諾書は単純に契約締結が可能である旨を表明するものです。契約に至る過程で交わされる確認等のための文書に過ぎないので、交付されても契約の申込みや承諾の効果はありません。
不動産取引の実務では、買付証明書という書面も交付されることがあります。これは買い受け希望者が当該物件を買い受ける意思があることを表明する書面です。この買付証明書と売渡承諾書を交付した後に詳細な条件を詰めていき、売買契約を締結することも多いのですが、買付証明書にも契約の申込みや承諾の効果はありません。
「効果がないなら交付する必要はないのでは?」と思われるかもしれませんが、当事者がこれらの書面を交付することになった場合、「一定の信頼関係が形成された」「互いに誠実に契約成立に努めるべき信義則上の義務を負う」と判断されるケースが出てきます。したがって、売渡承諾書・買付証明書を取り交わした後でどちらかが不誠実な対応、合理性に欠ける理由等によって売買契約が不成立となった場合は、相手に対して損害賠償責任を負う可能性もあります。
「信義則」と「信義誠実義務」
先に少し触れましたが、法律の世界には信義則(信義誠実の原則)というものがあります。信義則とは「権利の行使および義務の履行は、信義に従い誠実に行なわなければならない」という原則です。この原則は契約の趣旨を解釈する基準にもなりますが、実際にどのような場合に信義則を適用するかはケースバイケースです。例えば不動産仲介業会社には「直接の委託関係はなくとも、業者の介入に信頼して取引を成すに至った第三者一般に対しても信義誠実を旨とし、権利者の真偽につき格別に注意する等の業務上の一般的注意義務がある」という判例があります。それぞれの立場や社会的な信頼などが信義則においては考慮されるのです。
ちなみに民事訴訟法では当事者の訴訟行為について「信義誠実義務」を課していますが、こちらは信義則とは異なる厳密な義務として規定されています。