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BOOK Review――この1冊 『お気の毒な弁護士』 最高裁判所でも貫いたマチ弁のスキルとマインド

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『お気の毒な弁護士』 山浦善樹 著/山田隆司・嘉多山崇 聞き手・編/弘文堂 刊/定価3850円(税込)

今年も桜の便りが届いた。何かと我慢の必要な状況ではあるが、春が来れば、自然と気持ちが弾むというもの。読む本にも、何か心が上向くような、新鮮な感動を求めたい。

そういうときにおすすめなのが本書だ。著者は、最高裁判所裁判官も経験したベテラン弁護士。75歳の今も、町に小さな事務所を構える弁護士、通称〝マチ弁〟として活躍している。

本書は、弁護士会内部での派閥争いには目もくれず、ひたすらに依頼者のために粉骨砕身努力する「お気の毒な弁護士」を目指し、今も研鑽を積み続ける、ちょっと風変わりな弁護士の一代記だ。

目の前の依頼者のために汗をかくことを身上とするマチ弁が、なぜ最高裁判所の裁判官になり得たのか。このあたりの経緯は本書のヤマ場の一つでもあるので、ぜひ楽しみながら読んでほしい。ごくごく簡単にかいつまんで説明するならば、広く国民生活に影響をもたらし得る最高裁判所の裁判官の選定方法に問題があるのではないかという違和感から、著者は最高裁裁判官に立候補した。

ただ、あくまでも自らの意思表明としての立候補という意味合いが強く、著者自身を含め、周りの人も、まさか本当に選任されるとは思っていなかったらしい。

本書には、立候補から就任決定までの間、著者が旧来の友人から言われた言葉が載っているが、これがおかしい。

「先生は、こんなちっちゃい事務所を一人でやっているわけだし、判例集に載っている事件は地裁判決一件しかないと言うし、そんな先生がなれるわけない。何を勘違いしているんですか。先生、心配いらない」

こんな調子だったので、いざ就任が決定してからの準備にもてんてこまいとなる。特におかしいのが認証式の準備のくだりだ。

服装にも「ネクタイピンのパールは本物でなければならない」などの細かい決まりがあるようで、全部を購入すると相当な金額になる。困った著者は、最高裁に〝支度金〟は出ないのかと聞いてみたりする。たぶん、そんな最高裁判所の裁判官は今まで一人もいなかっただろう。「最高裁判所裁判官」という、ちょっとお堅く、権威のありそうな肩書からは想像できないような、著者の人柄が垣間見えるエピソードだ。

最高裁判所では、再婚禁止期間事件(女性は離婚後100日経過しなければ再婚できないという民法上の規定の違憲性が争点となった事件)をはじめ、多くの事件を担当。

限りある時間のなかで、膨大な情報の海の中から役に立つ資料を探し当て、深く読み込む作業はまるで「格闘」だ。時間と情報と格闘しながら考え抜き、法的判断のヒントを得る作業はまさに、著者がマチ弁時代からやってきたことでもある。最高裁では、70歳で定年を迎えるまでの4年間、裁判官としての務めを果たした。

さてその後である。著者は知己から請われ、新人弁護士の指導のために、都心の弁護士事務所で弁護士としての活動を再開。しかし、昔馴染みの依頼者たちから「こんなに立派な事務所では、相談しづらい。前の事務所はこじんまりしていたけれど、ホッとしてなんでも相談できた」と言われてしまう。

その声を受けて、弁護士一人・事務員一人の小さな事務所をスタート。事務所の家賃は坪二万円だ。法律知識を武器に、市井の人々のために身を粉にして働く。そんな「お気の毒な弁護士」を目指し続けたいのだという。そんなわけで、75歳の今も、著者は現役のマチ弁である。

本書は、法律を学ぶ学生や若手弁護士などに人気だというが、法律知識のない人でも、楽しみながら弁護士業界の裏側を垣間見られる一冊だ。直接人に会うことは叶わない状況だけれど、本を通じてなら、いろんな人に出会える。ちょっぴり風変りだけど、限りない情熱をもって弁護士の仕事に向き合う著者との出会いは、心にやわらかな灯をともしてくれるだろう。

BOOK Review――この1冊
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この記事を書いた人

ウチコミ!タイムズ「BOOK Review――この1冊」担当編集

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