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〜この国の明日に想いを馳せる不動産屋のエセー〜

水を制する者は天下を制す・不動産オーナーやエージェントが知っておくべき"土地"の素性(3/3ページ)

南村 忠敬南村 忠敬

2022/04/20

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【寝屋川北部地下河川をご存じですか?】

今度は西の商都“大阪”に目を移す。

寝屋川地下河川は、寝屋川市讃良東町から大阪市都島区中野町に至る、主に道路の下に建設される総延長14㎞の地下放水路で、寝屋川流域総合治水対策事業の一環として現在も工事が進められている公共施設である。

何故寝屋川市なのか?

寝屋川流域とは、大阪平野の一部で、北を淀川、南を大和川、東を生駒山系、西を上町台地と、周囲を高い土地に囲まれた東部大阪地域を指す総称で、大阪市の東部を含む12市に跨り、その面積は267.6㎢に及び、大小30の河川が流れ込んでいる。ほんの(?)3000年ほど前は、ここもやはり海だった。 

その後、淀川、旧大和川が運ぶ土砂の堆積により、河内潟、河内湖へと変化し、大和川の付け替えで干拓され、現在では平野となっているが、そもそも大阪府下は、上町台地を除いてほとんどが低地で水害が起こりやすく、寝屋川流域は治水事業の重点対策地域となっている。

そもそも、治水対策工事の手法としては、河川改修や下水道の整備(下水道管増補≒管を増やしたり口径を大きなものに取り換える)が基本だそうだが、既に市街地形成が成熟しており、地上の過密化が進んでいる密集市街地などは用地取得や経路確保が難しく、都市計画道路の敷設に併せて地下水路を造ろうにも、道路整備も進まないのが都市の実情だ。

しかし、治水事業は緊急性が高く、年々豪雨による災害の頻度は増してきているから、道路整備に歩調を合わせて、という時間は無いのだ。そこで、大阪府では、この区域における地下水路の計画を見直し、管渠の深度を変更し、用地取得が不要となる大深度地下を採用することにした。大深度地下使用法(2001年4月施行)は、公共的な事業に限定して、通常使用されない大深度地下(地下40m以深または基礎杭支持地盤上面から10m以深のいずれか深い方)を用地買収なしに使用できることを定めた法律で、対象地域は首都圏、近畿圏、中部圏に限定している。2018年に国土交通省の認可を経て翌年から工事を開始。全区間の完成予定は、家康も驚く2044年、総工費3600億円のプロジェクトである。


イメージ/©︎faula・123RF

【誰もが知っておくべきこの国の“宅地”の特性】

先ず、日本の国土のうち、我々不動産業者が業の対象としている“宅地”の殆どが沖積平野に位置し、多くの河川から形成された扇状地の開発によって造成されたという歴史と事実だ。

日々の仕事に追われ、土地本来の性質や地域の地形環境などに見識を深める余裕はない、と言われるかも知れないが、沖積平野における堆積土壌の性質なども、建築物の基礎工事を施工する場合などで重要となることから、小規模であっても、その地域の河川流域の特徴に留意して分譲事業や建築・開発を行っていくことが、我が身を守ることにつながることを意識してほしい。 

特に、2020年改正の水防法に基づく水害ハザードマップの提示と重要事項説明の場面において、取引対象地の近隣河川に限らず、当該地域を広域地図や旧市街図などを参考に、扇状地形の把握と地域の河川の改修工事履歴などを調査するよう業務手順を見直すことや、顧客に対しては、単にハザードマップの面的情報の提示説明に留まらず、それらの調査等によって得た情報と、過去に行われた自然河川の付け替えや干拓、湿地の乾燥などの公共工事によって現在の市街地が形成されていることなどに理解を促すと共に、益々狂暴化する現代の気象現象から、どんな地域でも水害や浸水の恐れが十分にあることの注意喚起を併せた重要事項の説明を行うことが求められよう。

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この記事を書いた人

第一住建株式会社 代表取締役社長/宅地建物取引士(公益財団法人不動産流通推進センター認定宅建マイスター)/公益社団法人不動産保証協会理事

大学卒業後、大手不動産会社勤務。営業として年間売上高230億円のトップセールスを記録。1991年第一住建株式会社を設立し代表取締役に就任。1997年から我が国不動産流通システムの根幹を成す指定流通機構(レインズ)のシステム構築や不動産業の高度情報化に関する事業を担当。また、所属協会の国際交流部門の担当として、全米リアルター協会(NAR)や中華民国不動産商業同業公会全国聯合会をはじめ、各国の不動産関連団体との渉外責任者を歴任。国土交通省不動産総合データベース構築検討委員会委員、神戸市空家等対策計画作成協議会委員、神戸市空家活用中古住宅市場活性化プロジェクトメンバー、神戸市すまいまちづくり公社空家空地専門相談員、宅地建物取引士法定講習認定講師、不動産保証協会法定研修会講師の他、民間企業からの不動産情報関連における講演依頼も多数手がけている。2017年兵庫県知事まちづくり功労表彰、2018年国土交通大臣表彰受賞・2020年秋の黄綬褒章受章。

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