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賃貸借と保険

森田雅也森田雅也

2023/06/21

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賃貸借契約を締結する際には火災保険契約などを同時に締結することが多いかと思います。しかし、仮に保険に加入せずに火災等が発生してしまった場合には、賃貸人にどのようなリスクがあるのでしょうか。また、賃借人に保険加入を求める際に注意すべきことはあるでしょうか。
今回は、賃貸借物件と保険契約をめぐる問題のポイントや注意点についてご説明します。

1.火災等が発生した場合の法的責任と保険の必要性について

(1)賃借人の過失で火災が生じた場合
賃借人が自己の過失により火災を発生させた場合、賃借人には善管注意義務(民法第400条、第616条、第594条第1項)違反が認められるため、これによって損害を受けた賃貸人は、賃借人に対して債務不履行に基づく損害賠償請求を行うことができます。もっとも、賃借人が負う賠償額が高額で、個人の資力では支払えないというケースも少なくありません。このような場合に賃借人が保険に加入していなければ、事実上賃貸人は損害の回復を図ることができないことになります。そのため、賃借人に保険に加入してもらうことが、思わぬ損害の発生を防止するためには必要となります。

(2)賃貸人の過失で火災が生じた場合
賃貸人の過失によって火災が発生した場合には、賃貸人に債務不履行が認められるため、賃借人に損害を与えれば、賃貸人は、損害賠償義務を負うことになります。では、このような場合に賃貸人が負う損害賠償の範囲はどのようなものとなるでしょうか。損害賠償の範囲は、債務不履行によって通常生じるべき損害であると規定されています(民法第416条第1項)。個別の事例によっても異なりますが、火災により発生した傷害の治療費、転居費用、家屋内の動産などが損害として認められる可能性があります。これらの費用は高額になる可能性があり、賃貸人自身が保険に加入することでこれらのリスクを軽減することができます。

(3)いずれの過失にもよらないで火災が発生した場合
仮に、賃貸人と賃借人のいずれにも過失が認められない原因によって火災が発生した場合には、賃貸人はどのような責任を負うのでしょうか。事例としては、災害や近隣で発生した火災の延焼が考えられます。
この点、賃貸人に故意又は過失が認められない場合には、賃貸人は損害賠償義務を負いません(民法第415条第1項ただし書)が、賃借人に対して物件の使用や収益に必要な修繕をする義務(修繕義務)を負っています(民法第606条第1項)。また、火災等により、物件の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃借人は、使用収益ができなくなった部分の割合に応じて賃料の減額を請求することができるとされています(民法第611条第1項)。
自己に過失がない場合でも、責任を負わなければならず、賃貸人には保険加入の必要性が高いと考えます。

2.保険契約について

(1)賃借人に対して保険の加入を義務付けることができるか
上述したとおり、火災により生じた損害の回復を確実に行うためには、賃借人に保険に加入してもらう必要があります。しかし、そもそも賃借人に対して保険の加入を義務付けることはできるのでしょうか。
法律上、賃借人が火災保険契約に加入しなければならないという義務はありません。しかし、保険の加入義務を賃貸借契約の特約として定めることは認められており、実際にほとんどの賃貸借契約では火災保険の加入が契約の条件となっています。
それでは、保険会社の選択を賃貸人が強制することは可能なのでしょうか。この問題について明確な裁判例等があるわけではありませんが、賃貸人が特定の保険会社の加入を強制することは、独占禁止法等の法令に違反するおそれがあると考えられています。賃借人が、賃貸人が指定する保険会社とは別の保険会社との契約を強く希望した場合には、特段の事情がない限り、その選択を尊重するのがよいでしょう。

(2)賃借人が加入する保険の主な内容
賃借人が加入する保険の種類は、大きく分けて、①住宅総合保険(家財道具の損失補償を主たる目的とする保険)、②借家人賠償責任保険(火災等による貸主に対する損害賠償責任を担保する保険)、③個人賠償責任保険(水漏れ事故等による他人に対する損害賠償責任を担保する保険)に分類することができます。
賃貸人としては、特に②、③の保険に加入してもらう必要性が高いと考えます。火災や事故によって発生する損害額が多額になってしまった場合に、これらの保険により損害賠償を支払ってもらう必要があるためです。

(3)賃貸人が加入する保険の主な内容
賃貸人が火災保険に加入する義務はありませんが、上述のとおり、近
隣からの延焼等によって思わぬ被害を負う可能性もあります。これらのことを想定すると自己が所有する建物について保険に加入しておくことが望ましいと考えます。
また、賃貸人が加入する火災保険では、特約をつけることによって、火災以外のリスクにも備えることができます。主なものとして施設賠償責任特約(物件の設備が原因で入居者や通行人に生じさせた損害について補償するもの)や家賃補償特約(入居者が家賃を滞納した場合に一定の未払い賃料を補償するもの)があげられます。火災保険に加入する際にはこれらの特約を利用するかも検討してみてもいいかもしれません。
 
以上のように、賃貸人と賃借人の双方が火災保険に加入しておくことが、不測の事態を避けるために必要だと考えます。保険契約について分からないことがあった際には、お近くの弁護士にご相談ください。


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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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