真性のおとりと不作為のおとり 「正直不動産」はいまの時代そんなに少なくない(3/3ページ)
朝倉 継道
2022/04/15
正直不動産はいまの時代そんなに少なくない
以上のとおり、賃貸のおとりには大きくわけて2種類がある。そのうえで「真性のおとり」は悪意からなるものであって、100%悪質であり、「不作為のおとり」においてはそうでないケースも多い。
すると、いま現在、賃貸おとり広告のうちのどれだけが悪質な真正のおとりかといえば、これは統計があるわけではないが、おそらく数%にも満たないだろう。あるいは、「正直不動産」のセリフを借りれば、「千に三つ」といった割合かもしれない。
さらには、賃貸のおとりに限らず、不動産業界はバブル崩壊以降の約30年間を通じて実に大きく変わった。こちらも正直不動産のセリフを借りれば、彼らはかつての何倍も「カスタマーファースト」を意識するようになっている。
しかし、そうはいってもこの業界は、全国12万7千におよぶ膨大な数の事業者が群れて渦巻く銀河系だ(2020年度末時点)。7社しかない国内乗用車メーカーのように、7社すべてが正しく振る舞えば業界全てが正しく振る舞うことになるといった捉え方は当然できない。
そんななか、たまたま悪質な不動産会社のいくつかを目の当りにしたカスタマーにとって、同業界はすべてが悪質であるかのように見えてしまうのは致し方ないことだが、それでもこの業界はコンプライアンスの面、CS(顧客満足)の面で、ここ20年程度の間、格段に底上げがされた。
なので「千の言葉に真実は三つ」は、あくまでフィクションとしての漫画のセリフ、ストーリーを面白く演出するための刺激的な表現にすぎない。すなわち、正直不動産はいまの時代そんなに少なくはないということだ。業界で働く、主に若い人たちの気持ちを想う意味でも、ここは一応クギを刺しておこう。
ちなみに、正直不動産の第1巻で、主人公はこのように言っている。
「今の不動産会社の多くは、嘘をつけばつくほど、あくどければあくどいほど儲かる仕組みになっている」
しかし14巻まで下ると、彼のセリフはこう変わる。
「大多数を占める善良な不動産屋に詫びろ。おまえらのような一部の悪徳不動産屋のせいで、世の中の不動産屋のイメージまでもが悪くなっている」
どちらも、真実しか言えない青年の言葉ということだ。
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この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。