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真性のおとりと不作為のおとり 「正直不動産」はいまの時代そんなに少なくない(2/3ページ)

朝倉 継道朝倉 継道

2022/04/15

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悪意で行われる「真性のおとり」

賃貸のおとりには、理由別に大きく2種類がある。 

ひとつは、まさに「真性のおとり」だ。正直不動産で主人公が勤める会社は、これに手を染めている。彼らは、すでに入居者が存在するなど、本来客に紹介できない物件をそのことを知りながら広告し続ける。

こうした物件には特徴がある。立地など条件がよく、反面、賃料が手頃であるなど、注目を集めやすいことだ。それらは、客からの問い合わせを集めるよいエサとなる。そこで、そうしたエサを広告としてわざとばらまいておき、客に無駄な問い合わせをさせ、あわよくばその中から来店者を得ようとするのが、真のおとり行為=真性のおとりだ。

入居希望者の多くは、行動心理として、不動産会社の店舗までわざわざ足を運んでしまうと、その手間や労力が結果を生まないことを嫌がるようになる。そのため、できればそこで物件を決めてしまいたい欲求が強くなる。つまり、業者にとって店に来た客はオトしやすいのだ。そこが彼らの狙いとなる。

ちなみに、正直不動産の主人公が勤める会社では、「この物件は入居者がすでに決まったが、店に来ればほかの物件を紹介する」ではトークが生ぬるいとされているようだ。問い合わせに対しては「この物件はまだ空室」との嘘をあくまでつらぬくよう、スタッフは指導されているらしい。そのうえで、騙された客がいよいよ店のドアをくぐると、そのタイミングで「たった今この物件には申し込みが入りました。ほかを紹介する」との芝居を打たせる方法を採っている。これはおとりのなかでももっともあくどいやり方で、不動産業界が荒れたバブル時代などには時折見られていたものだ。

悪意が無くても発生する「不作為のおとり」

一方、「不作為のおとり」もある。賃貸物件情報が流通する仕組み上、物件が「まだ空いている=入居できる」「空いていない=入居できない」に関して、情報が受け渡しされるにあたっては、多くのケースでタイムラグが生じる。

例えば、日常茶飯に多いのが、いわゆる「客付け」仲介会社が、他社である「元付け」会社が入居者募集している物件を広告し、これに客を付けたケースだ。

客付け会社が正直な会社ならば、彼らは客の申し込みを受けた時点で、自らが掲げていた広告をまず落とすだろう(主にはインターネット上から取り下げる)。理由は、当然ながら他の客に無駄な問い合わせをさせるのを避けるためだ。と、同時に、彼らは元付け会社にも状況を知らせる。「わが社でそちら様の物件の契約が取れました。手続きを進めます」の報告だ。 

すると、これを受け、元付け会社の方でも、仮に自社がその物件の広告を打っていた場合はこれを落とすことになる。と、同時に、業者間情報流通システム(ネット、紙メディア併せて複数ある)にその物件の情報が流れないようにもする。そうすることで、別の客付け会社がこの物件の情報を新たに見つけ、広告してしまう事故が防がれる。これらは重要な仕事のため、元付け会社が正直な会社ならば、まさに可及的速やかなペースで行われるはずだ。

一方、ほかの客付け会社はどうだろう。彼らは、これまで同じ立場にいた1社がすでに客の申し込み(事実上の契約)をゲットしたことをこの時点では知らずにいる。すると、そのことを知るまでの間、彼らがネットなどに出し続けている当該物件の広告は、取引対象となる物件が存在しないおとり広告となる。

なので、それを少しでも避けるため、彼らは例えば数日ごと、1週間ごとといったルーティーンを決め、各業者間情報流通システムの画面をチェックし、物件が消えていないかを確認したり、元付け会社に直接状況を尋ねたりもする。しかしながら、その場合でもタイムラグの発生は避けられない(ルーティーンが1週間ならば最大1週間)。タイムラグの間、成約済みとなった物件を載せた広告は世に存在し続けることになるが、これが不作為のおとりだ。「成約済み物件広告」などといわれることもある。

さらに、この「不作為」が「作為」になることもある。彼らがわざと上記のチェックを行うスパンを長くとるようなケースだ。タイムラグを長期化させることで、「知らんぷり」での広告期間がその分延長される。

加えて、たとえ不作為であるにしてもそれが“エサ”として効いてしまい、入居希望者から問い合わせが入ったとして、これに乗じて別の物件を紹介するようなことがあれば、それは立派なおとり行為となる。この場合、たとえ客の側がそれを望んだ結果だとしても、競合する他社から見れば「ミスを利用してライバルを出し抜いた」ことになる。つまり不正競争だ。

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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