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準備できることは多くある

今後30年の間に3つの大地震が高確率で発生 —— 必ずやってくる大地震にそなえよ (2/2ページ)

牧野 知弘牧野 知弘

2022/03/29

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建築技術だけで大自然の引き起こす災厄に立ち向かえるのか

デベロッパーは儲かるからといって相変わらず東京の湾岸地区に続々とタワマンを建設、分譲している。たしかに湾岸タワマンから眺める東京の夜景は格別だ。実際にタワマン生活に憧れてマンションを買い求める人たちは多く、販売状況は好調を持続している。

建物は敷地地下深く、岩盤層に杭を打ち込んでいるので、阪神淡路や東日本のような大地震が発生しても建物が倒壊することはない、絶対に大丈夫だという。エレベーターは停止しても、非常用電源が作動して3日間から一週間程度の電力は確保できる、だから安心だという。土地が液状化しても建物内は安全だ。日本の先進の建築技術をもってすれば大災害が起きても資産価値は守られるというのが彼らの論理だ。

でも本当だろうか。

東京はやはりタワマンが林立する香港やシンガポールとは違い、地震国だ。いつかその日がやってきたとき(そしてその確率は30年という短いタイムスパンで考えなければならない)、所詮は人間の叡智=建築技術、だけで大自然の引き起こす災厄に立ち向かうことができるだろうか。

非常用電源が建物を維持するのは時間制限があるだけでなく、共用部の設備の半分か3分の1程度を賄うにすぎない。最近の物件ではある程度対策が施されているかもしれないが、初期に建設されたタワマンなどは東日本大震災で図らずも露呈したようにエレベーターは停止し、高層階住民は配給された水を持って自分の住む部屋まで階段を上っていかなければならなかった。電源を失えば、給水タンクが機能せずにトイレにも行けなくなったことを、多くの人たちは忘れかけている。

すぐそばの未来に、この大地震が発生することを前提に不動産の未来を考えることは、億劫なことであるし、できれば「見ない」「聞かない」「話さない」、日本人の大好きな問題先送りで流してしまいたいところだが、天災はある日突然、何の告知もなく、発生するのだ。

やれることは多い 優先順位を付け対応を

旧耐震建物の耐震補強・建て替え、木造密集地域での街区整備、津波危険地区での避難所の確保。海岸や河川の整備。そして何よりも地震が発生した時の防災訓練。やれることはたくさんある。そしてそれらの優先順位をあげていくことが求められている。

こうした備えに対して不動産が果たす役割は大きい。建てっぱなし、売りっぱなしではなく、来るべき災害に備えた防災機能の強化は今に始まった話ではないが、より強化していく必要に迫られているのだ。

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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