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「スマホの2010年代」がわれわれの社会に与えた変動(2/2ページ)

朝倉 継道朝倉 継道

2022/03/25

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こうした声が、スマートフォンとSNSの時代にあってはごく自然に万人の目にふれる。それが一気に拡散されたりもする。その過程で隠れていた共感が次々と掘り起こされ、いわゆる炎上も巻き起こる。

結婚情報媒体の広告に幸せそうなカップルが出てくることは、現在においても致し方ないことだろう。しかしながら、仮にそれが男女の平等性に関するデリケートな部分での配慮を欠くような、疵(キズ)をも持つものだったりすると企業は逃げ場を失う。首根っこを掴まれ、即座に公式謝罪する展開ともなるわけだ。

すなわち、ほんの十数年昔に比べ、いまはきわめて「共感」が重い時代となった。企業も個人も、日ごろあらゆる場面で薄氷を踏むようにして周囲に共感を示さなければならないいまという時代は、おそらくスマートフォンとSNSが2010年代を通じて一気にその土台を組み上げている。

アップデートされた『のだめカンタービレ』

そうしたわけで、“スマホパンデミック”後の時代を生きる現在のわれわれは、目の前のさまざまな表現や発言について、「気分を害する人がどこかにいないか?」をくまなく考えることが必須の習慣になっている。

その意味でのオフサイドラインは「スマホの2010年代」を通して驚くほど上がっていて、この間訓練を怠っていた表現者は容易にこれに引っかかる。昨年のオリンピックに絡んでの「オリンピッグ」騒動など、その顕著な例といっていい。

つまり、古い者にとってはなかなかしんどい話だが、世のなかは変わっていないようでいて、変わる部分はそれなりのスピードで激しく変わっている。それがいつの時代も過酷な現実ということだ。

先月、TVドラマにもなった人気漫画『のだめカンタービレ』の作者である二ノ宮知子氏が、同作品の新装版で過去の古い表現を修正したことをSNS上に明かしている。手直しがされたのは、主人公の女性が教育者の立場にある男に胸を掴まれているシーンだ。氏は、これが「今のわたしの感覚」とし、男の手を胸から離し、やや遠ざけた絵に描き直している。すなわち、氏は表現者としての“OS”をしっかりとアップデートできていることになる。

ちなみに、修正された過去の描写は、01~10年の間に連載された同作においては時代的にほぼ他愛ない表現といえた。陽気な年配男による悪ふざけの場面を描くものだったが、しかしながら、職場や学校でのセクハラ被害を経験している女性にあっては、当時より一瞬の動悸さえ感じる目を背けたいシーンであっただろう。つまり、現在であれば当然にNGだ。 

なお、こうした創作物における過去にさかのぼっての修正についてはもちろん賛否もある。だがこの件にかぎっては、私も暴走したミルヒー氏(当該キャラクターのニックネームだ)が、やっと長い煉獄生活から救われた気がした。

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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