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契約期限満了を迎えるテナントがオフィスを解約?— —激動の不動産マーケットを占う(2/2ページ)

牧野 知弘牧野 知弘

2022/01/26

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実需層以外の購入が多いハイエンドマンション 

マンションマーケットはオフィスに比べると複雑だ。需要が多岐にわたって分散を始めているからだ。まず都心にあるタワーマンションやブランド立地に建つハイエンドな超高級マンションは、今年もある程度の売れ行きを保ちそうだ。世の中では誤解されているのだが、このクラスのマンションを買う層は、一般人、いわゆる実需層が少ないのだ。東京都心にアドレスを持ちたい地方富裕層、国内外の投資家、節税対策をしたい高齢富裕層に、世帯年収が夫婦で2000万円を超えるような超パワーカップルに加え、最近では転売を目的とした業者買いまで横行し成り立っているマーケットだからだ。

ただし、こうしたマーケットは世界の金融マーケットの動きなどの影響を受けやすい。中国などで不動産の暴落などが発生すると、連鎖反応で一気にマーケットが崩れる可能性もある。

【参考記事】土地値や建築費上昇が原因ではない 新築マンションの価格が上がっているワケ

物価高も重しに 住宅ローンの返済負担感が増す実需層


原油価格の高騰が生活の重しに/©︎qiujusong・123RF

実需層は20年前などと比べると、高齢化による人口構成が変わったことから3分の1から4分の1になっている。彼らには都心マンションには手が届かないが、働き方が変わる中、必ずしも都心に居を求める必要がなくなり、郊外シフトが進んでいると言われる。マンションデベロッパーの多くはこうした需要を捕まえようと郊外、衛星都市周辺などでの用地取得に注力しているが、実需層にとっては焦って買い求める環境ではなくなってくるのが今年からのマーケットだ。

長く続いて金融緩和の影響で地価が高騰。人件費や資材費の値上がりで新築マンションは高騰を続けている。郊外でも4000万円台後半から5000万円台の分譲価格は、世帯平均年収(中央値)で437万円の一般庶民にとっては高嶺の花である。

今年は住宅税制の優遇が縮小されたことの反動に加え、心配されるのが諸物価の高騰だ。原油価格の高騰は、ガソリンのみならず、電気代、ガス代の値上げ、物流コストの上昇による配送料等の高騰につながる。食料自給率が38%(カロリーベース)の我国では通貨安は、輸入食料品の値上げに直結する。住宅ローンの返済は、こうした生活の基礎コストを払ったうえでの返済となる。返済負担感が一層募ってくるのが今年からである。

コロナ禍で国も大盤振る舞いをした。そのツケはやがて増税という形で庶民生活に降りかかる。早ければ夏の参議院議員選挙後にも消費税などの値上げが議論されてもおかしくない。

【参考記事】返済比率25%〜35%は昭和・平成の幻想 令和時代の住宅ローンでの返済計画に求められるもの

実需層はこうした動きを冷静に見ながらの住宅購入を考えればよい。今年から、団塊世代が後期高齢者の仲間入りを始める。75歳以上となれば、どんなに元気な世代でもそろそろお迎えが来る人がでてくる。今年からの数年間は、首都圏でも大量相続時代の幕が開ける。多くの住宅が賃貸や売却に出てくる可能性は高い。中古物件を丹念に物色するとよい物件に出会う確率はこれまでよりもはるかに高くなるのが今年からの中古マーケットだ。

税制の恩恵の縮小や生活コストの上昇は、今年の新築マンションなどの住宅需要を冷やす可能性が高い。自分たちの見栄や投資、節税が目的化している富裕層や投資家と実需で買い求める層とは全く別のマーケットなのだ。昨年まで続いたマンション宴も今年はその正体が顕在化する一年となりそうだ。

リバウンドが見込める宿泊・観光マーケット


期待される宿泊・観光マーケットの復活/©︎paylessimages・123RF

最後に、今年復活するのが宿泊・観光マーケットだ。コロナによって押さえつけられてきた需要は、今年は大きくリバウンドしそうだ。Go Toは旅行会社などの業者救済策であり、この施策を行わなくても需要は十分に跳ねるだろう。インバウンドは完全に回復するまで2年は必要だ。海外に出かけづらい状況下で、国内観光は大いに栄えそうだ。

いっぽうビジネス宿泊については、一部がオンラインに代替された影響は深刻だ。ビジネス需要の減少でビジネスに特化したホテル、旅館などの苦戦は続く。中には業態転換を余儀なくされるビジネスホテルも出てきそうだ。

これまでの成功の方程式が、どうやら今年を起点に通用しなくなる可能性が高いのが不動産マーケットである。そしてこの傾向は来年、再来年とさらに強まっていくだろう。よろしくないのは、過去の方程式に拘って「まだ大丈夫」などといった不確かな確信、昭和平成の余熱で世の中を考えてしまう思考停止だ。今年は転換点にあったとあとで考えても取り返しはつかないのだ。

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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