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令和のマンション管理危機 管理会社に見捨てられるマンション、食い物にされるマンション(2/3ページ)

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ガラスの入れ替え工事は延期されたが…

そんななかで新型コロナの広がり、20年はコロナ禍のため工事が先送り、21年の理事会でも工事着手が先送りされている。そのため騒動は鎮静化し大きな騒ぎにはなっていない。

もちろん、工事着手が先送りになったのは、反対する住民が「ガラス交換は不要」などとビラ配布で訴え、21年1月の管理組合の総会でガラス交換の反対意見が続出したこともあったようだ。

反対する住民が増えたのは、築後10数年を経て、共有部分ではない給湯器、水道蛇口からの水漏れ、浴室乾燥機や換気扇の故障など製品寿命からくる故障が相次ぐ住戸が多く、これらの修理や住設設備の取り換えなどで個人の負担が100万円を超えてしまうこともあり、「どうしてなんの故障もないガラスを一斉交換するのか」ということもあるようだ。

とはいえ、コロナ禍が収まれば、理事会の判断でガラス交換が行われる可能性があり、反対する住民はいつ工事着手されるか危機感を募らせている。

というのも、21年5月に管理組合理事会が住民に実施したアンケート(回答数は約700)の結果では、ガラス交換を「今期は見送った方がよい」という回答が400件近くと過半を占める一方で、ガラス交換の実施対象から除外してほしいと答えた戸数は約230件。21年度中に高性能窓ガラスが一斉更新するのなら、自室の工事実施を「希望する」との答えが440件と希望戸数は全戸の半数には至らなかったものの、多かったからだ。

高性能断熱ガラスの効果とは?

そもそも「高性能ガラス」と称する断熱ガラスの効果とはいかなるものなのか。断熱効果によって、例えば、電気代が安くなるといった目に見えるものだろうか。

その答えは、実に曖昧だ。

窓のある方角、階数に左右され、各戸の日差しや日陰の違いも無視できない。こうした立地条件に加えて、季節、家族構成、体感といった個人差も関係する。このように各戸で断熱ガラスの効果はまちまちで、各戸の電気料金節約効果についてはなんともいえない。つまり、断熱ガラス交換の効果は各戸それぞれでバラバラらしいのだ。

そんな判然としない代物に、40万円程度の個人負担をしてまで必要なのかという思いもある。さらにこの工事費が修繕積立金から出されるのであれば、「ガラス交換をしないとする住民に、全戸に割り振られる個人負担が戻ってくるのか」という疑問の声も根強い。

実際、この補助金申請はマンション全体でなくても、1戸でも国と東京都から補助金を受けられる。言い換えればガラス交換をしたい人のみが申請するという道もある。窓ガラスは共用部分ではあるが、個人の専有部分として、自己資金で交換するやり方もあるのだ。

管理会社が狙う中古マンションの「修繕積立金」

新築マンション価格が高騰するなか、中古マンションへの人気は高い。しかし、中古マンションには修繕積立金やこうしたガラス交換といったことなど、マンション管理においてさまざまな問題を抱えていることがある。なかでも大規模マンションおいては、今後、新たな管理上の課題が出てきそうだ。

【参考記事】管理会社が管理を拒絶 分譲マンションで起きている「破綻」とその理由

大規模マンションは、戸数が多いため相当な修繕費が積み上がっている物件も多い。そのためマンション管理会社、設備・資材業者、修繕業者にとって「狙い目の物件」に見えてしまうようだ。しかも、大規模修繕ともなれば設備更新の需要が莫大になる。

本来、各戸で出し合う修繕積立金は、大規模修繕のほかエレベーターのメンテナンス、排水管交換などのほか地震、台風といった災害による建物の損傷等の修繕にも使われるもので、そこに住む、あるいは分譲オーナーが蓄えてきた大事な資産であり「ムダ使い」は禁物であるべきものだ。

しかし、実態は十数年も経つと、やれインターフォンの入れ替えだ、やれ駐車場設備の更新だと素人が集まった理事会に対して、管理会社と設備業者からの働きかけが行われる。

そんな商談のプロである業者と素人理事会が折衝しても、多くの値引きは引き出せない。

実際、実質的に2社程度で寡占状況のインターフォン設備などは、「業者が2~3回の値引き交渉を繰り返せば、理事会側は“値引き実績”」に満足してしまうので、おいしい市場」(業界関係者)だという。

件の豊洲のマンションのような巨大物件は、全戸の資産価値は数百億円規模になる。その共用部の資産の管理を預かるのが管理組合の理事会で、こうした巨額の備品やサービスの調達、管理会社選びなどに、この理事会の決定権は絶大だ。

そのため数百位、千戸単位のマンションでは、大規模修繕にも無関心な住民が意外なほど多い。そのためお金のかかる設備更新や工事の案件を管理組合の総会の議案にこっそり入れ、可決することは容易だ。

そして、こうしたことを管理会社が理事会に入れ知恵することも珍しくない。一方、大多数の住民は日常生活に支障がなければマンション管理に無関心で、なかには「理事会と管理会社のやっていることは間違いない」という先入観を持つ住民も驚くほど多い。

しかも、マンション管理組合の総会決議は、理事長ら執行部の決定に同意するという委任状で決することが一般的だ。つまり、修繕積立金など巨費を投じる議案についても、住民たちが自分たちの問題として工事内容を慎重に吟味することはまずなく、理事会さえ言いくるめれば簡単に「決議」できるというわけだ。

実際、ガラス交換で揺れる豊洲のマンションも潤沢な修繕積立金があるためか、住民たちもマンション管理組合の財政に余裕があると思っているという。しかも、ガラス交換は「環境のための補助金が出る」となれば、今どきのカーボンニュートラルや、SDG'sの流れに合っていると安心してしまい問題意識はさらに薄れる。

一方、管理会社、場合によっては理事会にしてみれば、大半が無関心な住民で、その委任状さえ取ってしまえば、「やりたいようにできる」という側面もある。

そんな悪賢い理事会ではなくても、毎年理事がくじ引きや順番で回ってくる理事会なら巨額の設備調達の実行者は、まさに「万年素人」の集団だ。

こうした理事会では議事録の文書作成(下書き)や議事の誘導、話し合うテーマの取捨選択などマンション管理組合のさまざまな意思決定にかかわる行為を、管理会社にほぼ「丸投げ」していることも多く、管理業者の意向通りに動く理事会も珍しくはない。

言い換えれば億円単位の工事も、「見積もり合わせ」や「多少の値引き」では、素人の管理組合が発注する高い調達コストは十分に下がるとは言えないのだ。

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この記事を書いた人

都市開発・不動産、再開発等に関係するプロフェッショナルの集まり。主に東京の湾岸エリアについてフィールドワークを重ねているが、全国各地のほか、アジア・欧米の状況についても明るい。

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