「京アニ」「座間」事件が賃貸住宅に残す暗い影 隣人が怖い…の不安を拭え(2/2ページ)
朝倉 継道
2021/11/29
彼らはどこにでもいる?
以上の2つの事件のほかにも、各地の賃貸住宅では、その後も悲惨な事件がもちろんいくつも起きている。
騒音絡みの殺人や児童の虐待死など、枚挙に暇ないが、そうしたなかでも「京アニ」「座間」事件は特に傷あとが深い。真摯な内容、興味本位なもの含め、これらを語る発信はその後も連綿として止むことがない。
そのため、事件を起こした2人が持つ本来の異常性は、彼らの過去や内面が繰り返し掘り起こされ、報じられるたびに、少しずつ薄れていってしまう。
特異な存在であるはずのものが、誰しもの日常に隣り合うありふれた可能性のひとつであるかのように、空気の如く一般認識されていくことになる。
結果、冒頭のような声が生まれたりもする。「賃貸住宅で周りの部屋に挨拶に行くなど、怖くて絶対にできない」だ。
すなわち、アパートやマンションの家賃が多少でも安ければ、そこには高確率で凶悪な事件を引き起こすような人物が暮らしている危険なイメージまでが、人によっては固まってしまうこととなる。
これは、思えば単純に悔しいことではないか。
「挨拶のススメ」から始めよう
そこで、オーナーや管理会社には、私からいまこう提案したい。こんな良くない空気はわれわれの力で押し戻そうということだ。
たしかに「京アニ」「座間」の被告人や死刑囚も賃貸住宅の住人であり「客」だった。さらには日常茶飯事ともいえる勢いで、その後も各地の賃貸住宅でネガティブな事件は起こっている。
しかし、だからといってわれわれのアパートやマンションを猜疑心と恐怖の吹き溜まりにする必要はない。
住人が壁の向こうの見知らぬ隣人に怯えてピリピリしながら毎日を過ごすような陰鬱な場所にする必要などまったくなく、ましてや、人々がピリピリと緊張するなかからトラブルが生まれ、そのトラブルがさらなる緊張を生む悪循環など、賃貸住宅はおろか世の中すべてにおいて、そんなものは全く必要がない。
なので、その一歩としてわれわれは挨拶を勧めることを始めよう。
賃貸住宅に住む入居者同士が、物件内で顔を合わせた際、明るく挨拶できる環境づくりをオーナーや管理会社はいまこそ積極的に進めていこうではないか。
そのためには、面倒な策を練る必要はない。気取った仕掛けを考える必要もない。
さまざまな世の中へのアピールが、ひねらずあからさまに表現される現代らしく、まずは素直に入居者にこう呼びかけよう。
「長いコロナ禍による緊張もあって、各地のアパートやマンションで住人トラブルが増えています。ひとつ屋根の下、お互いに安心できる環境をつくるために、入居者さん同士、顔を合わせた際はぜひ挨拶をしてください。このアパート(マンション)をわれわれみんなで気持ちの安らぐ場にしましょう。大家よりの心からのお願いです」
策も仕掛けも、こうした真摯な願いを伝えたあとに考えれば十分であり、それが正しい順番でもある筈だ。
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この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。