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シングルマザーの居住貧困 〜コロナ禍の現実~

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新型コロナウイルスによるシングルマザーへの打撃が甚大であることは火を見るより明らかだ。しかしその実態の把握は難しい。そんななか、認定特定非営利活動法人しんぐるまざあず・ふぉーらむによるオンライン記者会見が8月13日に実施された。会見内では「新型コロナウイルスの影響によるシングルマザーの就労・生活調査」の結果をテーマに、追手門学院大学准教授・葛西リサ氏が講演。その概要をレポートする。

新型コロナによる影響を受けたシングルマザーは7割

この調査は、シングルマザー当事者団体・支援者団体のメールマガジンに登録している会員シングルマザーを対象に2020年7月にWeb調査を実施、約1800人の有効回答が寄せられた。その後、回答者のなかで、1年間月毎の調査協力を承諾した人のうち、①母子のみで居住、②公的年金(遺族年金・障害年金・老齢年金)不受給者、③生活保護不受給者、④児童扶養手当受給者、を対象に毎月パネル調査が行われている。また、新型コロナの感染状況の違いや自治体独自の支援策を踏まえて、「東京」在住者と「東京以外」の在住者(東京252人、東京以外287人)に分けている。

しんぐるまざあず・ふぉーらむの報告によると、シングルマザーなどひとり親は非正規労働が多く、サービス業などに就いている場合も多いことから、新型コロナにより就業に大きな打撃を受け、何かしらの影響を受けた割合が7割にものぼった。そして同団体が20年3月から開始した食料支援は20年度で2万4000世帯、約6万5000人となり、コメだけで110トンに及んだ。「一家心中しかない」など、悲痛な状況を訴えるメール相談が8倍にも増えたという。

そんな過酷な状況にあるシングルマザーの住環境はどうなっているのだろうか、そしてどう変化したのだろうか。

狭小な居住環境

調査の結果、公営住宅への入居は2割に留まり、民間賃貸住宅で暮らすシングルマザーが5割以上であった。

住居の質をはかるには間取りなどが重要であることから、今回の調査では自宅の部屋数が調べられた。民間賃貸住宅の住まいでは1、2室しかないという回答が多く、東京で6割弱、東京以外では3割が1室、ないしは2室しかない住居で母子が暮らしていることが分かり、民間賃貸住宅での部屋数の少なさが突出している。

狭小住居で暮らす割合は東京で高くなっているが、東京以外においても住居の狭さで問題を抱えているケースが多く、4人以上の住まいであっても2部屋しかない住居にくらす割合が2割を占める結果となっている。

自宅には部屋数がいくつありますか(台所と居間が同じ空間にある場合1つと数える)

資料提供/しんぐるまざあず・ふぉーらむ

現在の住まいはどれにあたりますか 

資料提供/しんぐるまざあず・ふぉーらむ

2人世帯で1室しかない住まいに暮らす人が東京で17%、東京以外で10%。3人世帯のうち、2室で暮らす人が東京で46%、東京以外で17%。4人世帯でも1室しかない住まいに暮らす人が東京で6%、東京以外で2%いるということが分かった。住居の狭小問題は母子にどのような影響を与えているのだろうか。

住まいが狭小であることの悩み


資料提供/しんぐるまざあず・ふぉーらむ

子どもの学習面への心配が高く、学習のための空間が確保できず集中できない環境にあると答えたシングルマザーが東京では57%となった。

プライバシーの確保が必要とされるティーンエージャーがいる世帯において、回答者のうち37世帯が2室しかない住居で生活をしており、親と子供の二人世帯のうち17家庭が1室しかない状況であった。

自由記述による回答では、小学生3人の家庭で2DK、男女混合きょうだいなのに4人で1K暮らしをしているなど、可視化されない悲惨な状況が明らかになっている。

狭さ以外の悩みは低家賃に比例する住宅の脆弱さにある。日当たりの悪さからカビや臭い、アレルギーの問題、近隣の生活音、壁が薄い、断熱材など防音対策が取られていないなど音に対する問題を抱えている家庭数が多い。

新たにコロナ禍における問題として、家族で感染した場合に隔離するスペースがなく、自宅療養は不可能であると東京で7割、東京以外で6割強が懸念を示している。在宅勤務や、在宅でのオンライン授業が増え、ワンルームで母子複数人のステイホームは精神衛生上の問題も浮き彫りとなっている。長引くステイホームで、子どもが騒ぐ、暴れるなどして近所から苦情を受けるストレス、それに伴い子供をしかるストレスなども報告されている。

しかしこのような住環境が健康に被害を与え、アレルギー反応、喘息、肺病などに苦しんでいる場合であっても家賃はもとより、引っ越し資金、住居の初期費用など、高額な金銭的問題で住まいを変えられないという意見が見られた。

現在抱える住まいでの悩み

資料提供/しんぐるまざあず・ふぉーらむ

高い住居費負担が生活を圧迫

今回の調査結果では夫の残した住居での住まいや、親元への依存を除いた9割の回答者が住居費を負担している。

住宅ローン世帯(約12%)の月の支払い平均額は東京で7万500円、東京以外で4万5700円、家賃支払い世帯(東京77%、東京以外74%)の平均家賃額は東京で5万6600円、東京以外で4万7100円であった。うち、民間賃貸は東京で8万円、東京以外で5万6000円、公営住宅の場合は東京で約2万円、東京以外で2万3000円と大きな開きがある。東京であっても2万円台で住める公営住宅はシングルマザーにとって大きな支援となっている。

収入と家賃の割合 ひと月の家賃支払い後の残金

資料提供/しんぐるまざあず・ふぉーらむ
 
就労収入から家賃を支払ったら手元に乗るお金が0円、もしくはマイナスになる家庭は約2割(東京、東京以外)、5万円未満の家庭は東京で48.3%、東京以外で38.5%となった。この数値からも、住居費用がどれほどシングルマザーの家計を圧迫しているのかが分かる。

そして就労収入における住居費の高い負担割合は家賃滞納を引き起こす原因となっている。20年8月から21年6月の月ごとの回答では年間を通じて毎月1割前後の家庭が住居費を期限までに支払えておらず、滞納割合は最大で14%(東京、東京以外)という結果になっている。

低所得世帯にとって、住居費の支払いはたとえ低家賃であってもその負担は大きい。そして負担の大きさから一度払えなくなると、高額になり返せなくなるため滞納が続くという悪循環になりやすい。

新型コロナ感染に加え、命に直結する住居費用のためにWワーク、トリプルワークを希望するシングルマザーも少なくない。20年10月時点で「これから半年の中でどんなことが不安か」を問うたところ、不安材料の1位が「自分の体調が悪くなる」(東京74.7% 東京以外70.1%)2位が「家賃やローンは払い続けられるか」(東京69.1% 東京以外70.2%)といった収入を維持するための健康面や、支払いにまつわる不安が多かった。 

住宅の満足度と転居希望

シングルマザーは現在の住まいをどのように思っているのか。調査結果によると半数が住まいに不満をもっていることが分かった。

転居の希望はありますか

資料提供/しんぐるまざあず・ふぉーらむ


資料提供/しんぐるまざあず・ふぉーらむ           

特に民間賃貸住宅の不満は非常に高く転居希望は東京で63%、東京以外でも55%であるが、実際には8割が費用を捻出できないため転居を我慢している状態である。これ以上住宅クオリティを上げることはできないと述べている。


資料提供/しんぐるまざあず・ふぉーらむ

金銭面以外の理由で引っ越しできないケースでは、「立地」であった。

子どもの学校の先生、友達、地域の支え、無料学習塾や子ども食堂などが子どもの居場所になっているケースもある。このように、母子を支えているのが「環境地域」であることから、引っ越しができないという意見があがっている。

しかし、皮肉なことに住み続けたいと思っても、新型コロナの影響で住み続けることが困難な状態が発生しているようだ。給与収入の減額、解雇、パートタイムのシフト減により家賃や更新料が払えず、実家や低家賃の住居への引っ越しは東京で9.2%、東京以外で11%と1割近く発生している。

このような住宅喪失の危機に対して、公的に何ができるのであろうか。

新型コロナの影響に於ける居住支援としては住居確保給付金がある。住宅確保給付金とは、新型コロナの影響で離職・廃業・休業などで収入が減少し住居を失う恐れがある人に対し、家賃相当額が自治体から貸主に支給される制度である。この利用状況を確認してみると、驚くことに半数以上が知らないという結果が分かった。 

住宅確保給付金を知っていますか

資料提供/しんぐるまざあず・ふぉーらむ

知っていると答えた訳半数のうち、「自分が条件に該当しないと考え相談に行けなかった」「申し込んだが受けることができなかった」という該当者もそれぞれ1割いた。

葛西氏は次のように話す。

「『窓口ハラスメント』と言われる大量煩雑な申請書類に、尋問のような面接、子供のお年玉まで収入として突き詰められるような現実も確認されている。使える支援としての対応に変えてほしい」

利用しづらい住宅政策

コロナ禍で住居負担にあえぐシングルマザーにとって、現在の住宅政策のあり方は妥当なのだろうか。住宅確保給付金、そして「公営住宅」の使用実態、制度とニーズの乖離について調査が行われた。

公営住宅のニーズは家賃が低いということから希望者が多い。しかしながら前述のように公営住宅に住むシングルマザーは2割しかいない。原因を把握するための質問によれば、公営住宅に応募したことがある割合は東京で63%、東京以外で43%あった。

公営住宅への応募状況

資料提供/しんぐるまざあず・ふぉーらむ

応募したことがあるが公営住宅には住んでいない世帯の応募回数

資料提供/しんぐるまざあず・ふぉーらむ

応募を繰り返しても入居できない。特に東京では5回以上応募しているが入居できていない割合が高く37.5%あり、何度応募しても受からないという声が聞かれた。
 
また、約2万円の家賃という大きなメリットがあるにもかかわらず、応募しなかった世帯に理由を聞くと、子どもを転校させたくないという回答が5割(東京以外では6割)と立地の問題があがった。 

公営住宅の課題

シングルマザーへの住宅施策と言えば、公営住宅優先制度の周知と羅列されることが多い。しかしその実態はどのようなものなのか。

寄せられた回答では家賃は安く、広いという部分でメリットは確かに多いが、質や環境が悪く、多忙なシングルマザーにとって自治会や役割の負担などが重いという意見が多く寄せられた。

公営住宅は古いストックも多く、特に東京では同じ公営住宅といっても大きな隔たりがあり、格差があるということが分かった。立地が限定的であり、育児と仕事の両立が不可欠なシングルマザーには利便性が悪い場合が多い。以上のまとめとして、葛西氏より求められる対応策が提言された。

【1】即時的対応として、住まいを喪失しないように、柔軟に住宅確保給付金、生活保護を使えるような支援が求められている。現状の日本の住宅施策では、住まいを喪失してしまったら新たに支援をしてあげますよという事後支援のやり方であるが、住まいの喪失はただ単に物理的に家を失うだけでなく、母の仕事や子供の成育環境を喪失するということを考慮する必要がある。

【2】恒常的な対応として家賃負担の軽減と住宅質の向上が求められている。平時より低所得階級は狭小劣悪な低質な住宅に依存せざるを得ない状態である。住環境は心身の発育に大きな影響を及ぼす。貧困の世代的再生産性を打ち切るためにも学習支援の必要性が声高くい言われているが、まず現実として家庭内に学習スペースがない状況であるということが見過ごされている。住居費負担の軽減のために公的な住宅施策として家賃補助や住宅手当の実現が求められている。

シングルマザーの住まいについての政府統計や調査結果は少なく、このレポートは居住実態をリアルに把握する大変希少なものであると言える。

いまだ収束が見えないコロナ禍で厳しい状況にあるシングルマザー世帯への居住支援の参考材料としてほしい。

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