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大阪で住宅3棟が崩壊 「危険な擁壁」は望まなくても手に入ってしまうケースが(3/3ページ)

朝倉 継道朝倉 継道

2021/08/09

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危ない擁壁の主な4種類

そんな空積み擁壁をはじめ、現在の基準に沿わない危ない擁壁は土地の起伏が多い地域などを中心に、実際、われわれの身のまわりにいくらでもある。

国土交通省が「我が家の擁壁チェックシート(案)」という一般向けのガイダンスの中で、その主な例4つを示している。挙げてみよう。

 
出典/国土交通省「我が家の擁壁チェックシート(案)」2P目。「危ない擁壁」に関しては国交省も専門家に相談することを勧めている


空石積み擁壁:さきほど説明したとおり。石ではないブロック積みなども加えた総称としては「空積み擁壁」となる。


増積み擁壁:擁壁の上にさらにブロック塀などを積み上げたもので、塀の裏側に土が入っている。


2段擁壁:擁壁が押さえている地盤の上に、さらに一歩奥に退くかたちで、次の擁壁が立ち上がっている。


張出し床板(しょうばん)付擁壁:擁壁の前に柱を立て、その上に鉄筋コンクリート造の床などを張り出させている。柱と擁壁にこれを支持させている。

ちなみに、「増積み擁壁」「2段擁壁」「張出し床板付擁壁」については、いずれも擁壁上の土地を少しでも広げたい意図をもって、かつて造られたものが多い。

しかしながら、いずれにおいても、擁壁や盛り土に想定以上の負担をかけたり、擁壁や崖全体の安定性を損ねたりしているケースが多い。加えて、これらは多くが施工後、期間を経ており、経年劣化が進んでいる場合が多いことにも、厳重な注意が必要だろう。

危ない擁壁は「不意に手に入る」

ところで、こうした危ない擁壁だが、たとえ生涯縁を持ちたくなくとも、不意に誰しもの手に入ってしまうことがある。どういうことか、想像できるだろうか?

答えは相続だ。

そう聞くと、両親、祖父母の住む家などを思い浮かべ、はっと気づく人も少なくないだろう。危険な擁壁は相続に伴い、たとえ望まなくとも手に入ってしまうことがある。

なおかつ、知っておきたいのは、そうした擁壁を含む土地を相続すると、その危険性がおよぼす責任もセットで相続するかたちになるということだ。

自らが所有する土地に存在する擁壁が引き起こした事故については、いわゆる民法上の工作物責任が所有者に生じる可能性が高い(民法第717条)。

例えば、宅地内にある擁壁が老朽化して崩れ、真下に建つ家を破壊したり、そこに暮らす人を死傷させたりした場合、宅地の所有者にはそれらの損害を賠償する責任が少なくない確率で生じてくる。

なおかつ、この責任は過失の有無に関わらず問われる「無過失責任」だ(通常そう解釈されている)。「危険の存在を私は知りませんでした」では済まされない状況ともなっているわけだ。

つまりは、大規模な自然災害に巻き込まれる中で擁壁が崩れたなど、不可抗力が認められるケースを除いては、そう簡単に免責してはもらえない、重い立場に所有者は立たされることになっている。

これらのような例を含め、危ない擁壁をこれから子どもに相続させる親、相続する子は、忘れてはならない課題として、このことを受け止めておくべきだろう。

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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