井伊家――家祖登場は平安時代、伝説の多い譜代大名筆頭の名門(3/3ページ)
菊地浩之
2021/08/08
現当主は井伊家400年ぶりの婿養子
直政の妻は、東条松平家の家老・松井松平忠次(一般には康親)の娘である。
松井松平忠次は猛将で、絶えず徳川軍の東境に配置され、武田家や北条家と対峙した。家康は直政を忠次の後継者と考えて、その娘婿にしたのだろう。東条松平家の当主が嗣子なくして死去すると、四男の忠吉を養子として、忠次の孫娘(直政の娘)を嫁がせている。先鋒を務めていた東条松平家-松井家を、婚姻によって忠吉-井伊家コンビに置き換えたのだ。
直政には長男・井伊直勝(正室の子)と、次男・井伊直孝(側室の子)がいたのだが、長男・直勝が病弱なので廃嫡し、次男・直孝を後継者としている。
「家督継承が面倒になるから、正室はもらうな」と言い残したという伝説があり、3代・直澄(なおずみ)、4代・直該(なおもり)、6代・直恒、9代・直禔(なおよし)には正室がいない。
井伊家は江戸開府以来、一度も転封を経験したことがない。譜代大名としては珍しい家系である。それは、譜代筆頭として先鋒を承るからだといわれている。そのため、他家からの養子を迎えることがタブーとされ、現当主・井伊直岳氏(なおたけ)が井伊家400年の歴史で初めての婿養子だという。これも井伊家の伝説の一つである。
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この記事を書いた人
1963年北海道生まれ。国学院大学経済学部を卒業後、ソフトウェア会社に入社。勤務の傍ら、論文・著作を発表。専門は企業集団、企業系列の研究。2005-06年、明治学院大学経済学部非常勤講師を兼務。06年、国学院大学博士(経済学)号を取得。著書に『最新版 日本の15大財閥』『三井・三菱・住友・芙蓉・三和・一勧 日本の六大企業集団』『徳川家臣団の謎』『織田家臣団の謎』(いずれも角川書店)『図ですぐわかる! 日本100大企業の系譜』(メディアファクトリー新書)など多数。