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賃貸おとり広告はなぜなくならないのか――2つの「構造」が重なるその仕組み(4/4ページ)

朝倉 継道朝倉 継道

2021/07/13

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悪意のおとりはおそらく減っている

以上、「賃貸おとり広告は、なぜ存在し、無くならないのだろうか」との疑問に対する、根本的な2つの理由を説明した。

述べたとおり、賃貸おとり広告が生み出される理由のうちもっとも大きなものは、市場の根元の部分にすでに構造として備わっている。なので、これを減らすことはできても、なくすことは、現状不可能といっていい。

そのうえで、より問題なのは「悪意のおとり」とも呼ぶべき存在だ。

ほとんどの賃貸おとり広告は物件成約の事実と、客付けがそれを知るまでのタイムラグによる成約済物件広告として世に現れる。だが、悪意のおとりはそうではない。

成約したことを実は知っていながら(または推測できていながら)、それでも「この物件は客を釣るよいエサになる」ということで、一部の業者はわざと広告を出し続ける。そのうえで、釣り上げた客には、自らの都合のよい別の物件を紹介するわけだ。

つまり、これこそがおとりという言葉の意味を正しくなぞる、真のおとり広告といっていいだろう。

もっとも、「紹介された別の物件を客が気に入ればそれはそれでいいんじゃないか」と、いう人もなかにはいる。だがそれは違う。悪意のおとりは、市場の観点からは故意の不正競争に当たり、蔓延すると業界が腐っていく大きな要因となる。決して擁護されたり、許されたりするものではない。

なお、統計は存在しないと思われるが、私の実感値としては、こうした悪意のおとり広告を行う業者は、私が冒頭の仕事をやっていた時代に比べいまはかなり減っている。

その理由としては、賃貸不動産業界全体がコンプライアンスをより重んじる方向でレベルアップしたこと、つまり真面目になったことがまず大きい。

さらには、前述した不動産公正取引協議会連合会を構成する各団体や、いわば前線で体を張ってきた不動産情報誌(=のちのポータルサイト事業者)による努力も大きいのだが、話は内輪褒めとなる。ここで終わることとしておこう。 

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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