賃貸おとり広告はなぜなくならないのか――2つの「構造」が重なるその仕組み(2/4ページ)
朝倉 継道
2021/07/13
そうしたわけで、問題の焦点は(2)ということになる。賃貸おとり広告のほとんどを生み出す「物件は存在するが、実際には取引の対象となり得ない」状態とは、どういうかたちを指すのだろうか?
その答えは、「成約済物件」ということになる。
では、成約済物件とは何なのか? 読んで字のごとく、賃貸では一旦入居者募集が行われていたものの、そのうち誰かの入居が決まり契約が結ばれた物件を指す。
あるいはさらに厳しく、契約は未締結でもいわゆる申し込みが入った時点で成約済みとみなす運用も不動産ポータルサイト等によっては行われているはずだ。
であれば、そんな成約済物件が、なぜおとり広告のほとんどを占めるのか。
理由は大きく2つある。1つは不動産という商品がもつ本質。もう1つは賃貸物件情報がやりとりされるうえで避けられない情報流通の仕組み。これら動かしがたい2つの構造だ。
「唯一無二」の不動産という商品
まず、1つ目の構造である不動産の本質、その内容は実に単純だ。
賃貸・売買問わず、不動産という商品においては、世の中に同じものが決して2つ以上存在しない。不動産は、そのすべてが唯一無二の商品であるということだ。
すなわち、「練馬区〇丁目〇〇アパートの203号室」は、この宇宙に1つしか存在しない。そのため、唯一無二のその物件で入居が決まり、成約となれば一瞬にして「商品としての当物件」は消え失せてしまう。このきわめて単純な「0か100か」が、ほかの多くの商品にはない、賃貸(またはすべての不動産)でのおとり広告が生まれやすい最大の要因だ。
例えば、ある日の午前10時に賃貸借契約が結ばれた物件の広告を不動産会社がその日の午後2時にポータルサイトから削除したとしよう。
すると、10時から2時までの4時間の間、ポータルサイトに載っていた広告は、当然「物件は存在するが、実際には取引の対象となり得ない」ものとなる。
そのため、この間、当該物件に対し、入居希望者が問い合わせをしても、それはすべて無駄足となる。すなわち立派なおとり広告だ。
この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。