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菅首相の地元・横浜市長選挙敗北なら退陣?――“ハマのドン”との最終決戦か

浅野 夏紀

2021/05/10

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横浜市街/©︎takanakai・123RF

菅首相に新たに立ちはだかる新たなハードル 横浜市長選挙

内閣発足時、70%前後の支持率でスタートした菅義偉内閣だが、その支持率も今では30%台と落ち込み、「政権短命説」もくすぶりはじめている。政権が打ち出すコロナ対策は、常に後手という厳しい世論を受け、頼みの東京五輪についても、5月7~9日に実施した読売新聞の全国世論調査では「中止する」が59%で、「観客数を制限して開催する」の16%、「観客を入れずに開催する」の23%を合わせた開催賛成の39%を上回っており、否定的な意見が多数を占めている。

菅首相の前にはコロナ対策、東京五輪、総裁選、総選挙に「横浜市長選」という新たなハードルも

さらに内閣の命運を決める衆議院議員の任期は10月21日と期限が決められており、解散のタイミングも限られる。現状からは9月末の自民党総裁選で再選の絵図が描けていない。そんな中でも憲法改正の手続きを定めた国民投票法の改正案が今国会で成立したことで、保守派からの突き上げはなんとか凌いだようだ。

とはいえ、遅々として進まないワクチン接種の中で菅首相の政権運営が綱渡りなのは変わらない。これに加えて、菅内閣の命運を左右しそうな難題が菅首相の足元で起ころうとしているのだ。

それが、神奈川県横浜市の市長選挙である。菅首相の地元・横浜市の市長選挙なだけにその行方によっては菅政権の命運がかかるのではと注目が集まっているというわけだ。

4月、横浜市選挙管理委員会は、任期満了に伴う市長選の日程を8月8日告示、22日投開票と決めた。市選管では、投票率の低下を避けるため、東京五輪とお盆期間を避けたという。

政治日程からすると、菅首相の自民党総裁としての任期は9月30日まで。この総裁選の選挙日程は、7月末に総裁選管理委員会で定めるのが通例で、7月中に総裁選管理委で告示と投開票などの具体的な日程を決める。 

永田町界隈では総裁選は「9月20日投開票」「10月24日衆院投票」という説
も出ており、いずれにしても、菅首相の前にはコロナ対策、東京五輪、総裁選、総選挙に「横浜市長選」という新たなハードルも加わり、越えなければならない関門が5つになった。

そんな横浜市長選で自民系候補が負けたらどうなるか。「国政選挙ではないので、選挙で負けても首相の責任はない」という逃げ口上は通じそうもない。

菅首相は、安倍内閣の官房長官時代から、自身の選挙区(神奈川2区)のある横浜市において、林文子横浜市長(75歳、現在3期目)と横浜IR(カジノ誘致)の実現を支援してきた。 


林市長の出馬の意思は明らかになっていない

前回の市長選では林市長は「横浜へのIR誘致は白紙」として、幅広い層の支持を得て3選を果たした。しかし、当選後、既定路線通り(?)に積極誘致に舵を切り、反対派を刺激した。 

この8月の横浜市長選挙でIR推進派の候補が負けることになれば、菅首相にとっても一大事。単なる選挙に負けたでは済まず「菅おろし」がはじまり、総裁選は大荒れになる可能性も出てくる。

一地方都市、残念な街になった「横浜」に吹いた神風! 懸案のIR誘致も菅総理誕生で巻き返しか?

ハマのドン”との正面対決か

現状では、現職の林市長の出馬の意思は明らかになっていないが、この市長選挙で注目されるのが、菅首相とかつての盟友による「代理戦争」になるのではないかという点だ。 

これまで菅首相は横浜市で「ハマのドン」といわれる藤木幸夫・横浜港運協会前会長の支持を受け、政治家としての地歩を固めてきた。 

そもそも藤木氏は、菅首相が秘書を務めていた小此木彦三郎元建設大臣(故人)の後ろ盾だった。こうした関係もあって秘書時代から関係は深く、菅首相が1987年横浜市議として政治家デビューした際、そして96年の衆院選初当選の際も有力な後援者となった人物だ。

しかし、藤木氏がいかに地元の有力者であっても、菅首相が総務副大臣、総務大臣と政治家としてのキャリアを積み重ね、8年弱におよぶ官房長官として内閣の中枢にいたことから、両氏のパワーバランスは崩れたようだ。 

菅首相が官房長時代に整備したIR(カジノ)二法の内容をよく見ると、地元の港湾業者の出る幕はほとんどなく、IRには外資や大企業が参入し、大手がいいとこ取りする構図になっている。

そのため地元の雇用・企業を大切にしてきた藤木氏の港湾関係者がIR事業を担いたいという狙いがはずれたこともあり、「横浜港・山下ふ頭にIRができるなら、港湾関係施設が集まる山下ふ頭から立ち退かない」と長く盟友関係にあった菅首相に反旗を翻したのである。

しかも、IRに関心があった藤木氏自身が、予想外の反カジノの立場を打ち出し、これまた予想外のカジノ抜きのIR案などをまとめて世間を驚かせた。

横浜市選管が選挙日程を決めたあとの4月20日、藤木氏が会長を務める「横浜港ハーバーリゾート協会」の集会が開かれた。同協会は山下ふ頭の再開発で、カジノの代わりに展示場やクルーズ拠点、中長期滞在型ホテル、アリーナなどを設ける構想を掲げた団体である。これまでも同協会はIR構想に、物流基地を組み合わせ、コロナに対応した物流施設や住宅をPRする案を示してきた“反カジノ”の司令塔となっている。

藤木氏はこの日の講演の中で、「山下ふ頭はダイヤモンドみたいなところ。(カジノの)代案がなければ反対はできないので、いろんな絵を描いてみた。政治的には一切動いていなかったが、今日から(市長選に)動く。もう乗りかかった船だなんて生半可な気持ちじゃない。本当に命をかける」と気勢を上げた。

「ボディやんな」の三原じゅん子厚労副大臣が候補に急浮上?

現状の最大の焦点は、次期横浜市長選挙での候補者を誰にするかという点だ。

現職の林市長は、今のところ態度を明確にしていないが、一部報道では意欲満々とも伝わっている。しかし、林市長は72歳の菅首相より年上の75歳で、今年に入って2度にわたって入院したことが明らかになっており、体調不良説も出ている。しかも、今期を満了すれば3期12年という長期市政となり“賞味期限に近い”という見方も出てきている。

こうした中で候補者としてその名前が急浮上しているのが、三原じゅん子厚労副大臣(56)である。

出馬をすれば話題の候補になるのは間違いない

三原氏は2010年に発足した“カジノ議連”とも呼ばれる「国際観光産業振興議員連盟」(IR議連)の事務局次長を務める中心メンバーだ。三原氏のほか議連内の女性議員で名を馳せたのが当時衆院議員だった小池百合子現東京都知事、議連の会長も務めた野田聖子幹事長代行という大御所たち。

しかも、三原氏は菅首相と同じ無派閥で、10年の参院比例代表に自民党から初出馬して当選。その後、15年に比例区から神奈川選挙区に鞍替えしている。安倍前首相の“お気に入り”といわれたが、選挙区が同じ神奈川県ということもあって、菅首相が頼りにする「神奈川閥」の女性議員である。

そんな三原氏の経歴を簡単に紹介すると次のようになる。

出身は東京都板橋区。歌手、女優、レーサー、介護施設経営者、議員など多彩な経歴を持つ。元々は1979~80年にTBS系で放送されたドラマ『3年B組金八先生』の第1シリーズに「ツッパリ」の役で出演。「顔はヤバイよ。ボディやんな、ボディを」という名セリフで人気が急上昇した。このため元ヤンキーというイメージが定着。しかし、これはイメージだけでなく、82年には朝方、男性ミュージシャンと帰宅したところを週刊誌カメラマンに写真を撮られたことから、このカメラマンに馬乗りになって暴行を加え、現行犯逮捕されるなど、ある意味イメージ通りでもあった。

そんなこともあってか「(ヤンキーイメージは)お洒落な横浜の市長に全くそぐわない」という意見もある一方で、「横浜は、『横浜銀蠅』などヤンキー(暴走族系、ツッパリ系)の発祥の地のひとつでもある」、「50~60歳代前後(人口が多い)のかつてのヤンキー層の支持も受けて知名度が高い三原氏は善戦する」とも指摘され、出馬をすれば話題の候補になるのは間違いない。

「浜っ子=カジノ無視派」VS「よそ者=カジノ誘致派」の対立構図

三原氏はいろいろな意味で知名度があるといっても、反発は根強い。そもそも比例区から参院横浜選挙区への鞍替えにしても自民神奈川県連は難色を示し、すんなりとは決まらなかったという経緯もある。

ハマのドン・藤木氏は菅首相や三原氏について、「あの人(菅首相)は旅人なんだよ。世の中、旅人と村人(住民)しかいない。横浜について余計なことをいうなということです。三原じゅん子なんか(市長選に)出てきたらまずいよ、そりゃ」と切り捨てる。 

さらに藤木氏は「神奈川から出る人、横浜から出る人でカジノ賛成だなんて人は殺したいよ」とも、笑いを含んだニュアンスで冗談まじりに話していたという。

藤木氏のいう「浜っ子=カジノ無視派」VS「よそ者=カジノ誘致派」の対立構図では、まんざらはずれてもいない。

実際、旅人トリオの菅首相は秋田出身、林市長・三原氏は東京出身で、この対立構図の中で、市長選が進みそうなのだ。とはいえ、藤木氏がいうような「浜っ子VSよそ者」の構図は以前からあったようだ。

浜っ子からよく聞く話は、「カジノなんか横浜にはふさわしくない」「カジノは、よそから来た人が考えること」というもので、藤木氏と共通する。さらにこうした浜っ子たちは「秋田出身の首相は横浜が育てた総理とはいえない」と異口同音にいう。浜っ子の菅首相支持率も、菅氏が地元選出のわりに冷めた見方が多く、高くはないようだ。

野党側は反カジノに争点を、候補も一本化したいところ。立憲民主党や共産党が協力して野党統一候補を出せるかどうかもポイントになり、候補者次第では選挙の行方は読めなくなりそうだ。

カジノに頼らざるを得ない横浜の事情

そんな横浜市は、市役所を豪華な構想ビルに建て替えたばかり。カジノにすがらざるを得ないほど財政が厳しいという事情もある。 

全国の市で最大の人口を誇る横浜の人口が川崎・東京方面にシフトし、市の外周部では空き家が急増している。さらに横浜市は今後、急速な高齢化が想定され、財政はひっ迫するばかりだ。加えて、横浜に家を構える若い層が減り、県内では武蔵小杉を擁する川崎市の人気が高い。

すでに隣の横須賀は人口が40万人を割り込み、かつての県内の有力都市という面影が薄れ、横須賀の空き家ゾーンは横須賀から横浜市内へと北上している。これは緑園都市駅(相鉄線沿線)など横浜市西部・内陸部の昔の新興住宅街も同様だ。 

横浜市では、球場、展示場、競技場、アリーナ、ホテル、オフィスビルなど都市インフラの整備が進み、こうした大型施設が大量供給された結果、物件の賃料や採算などが悪化傾向にある。

一方、カジノを運営する海外の会社にも変化が起きている。

米国大手カジノオペレーターはコロナで人気が出ているオンライン部門を強化している最中だ。なかにはオンライン比率が5割を超える業者も出ている。オンライン対応が不透明な横浜、大阪にとってはオンラインカジノが進めば、誘致できたとしても集客できるかは疑問だ。 

新型コロナの影響もあるが、20年5月には米カジノ大手ラスベガス・サンズが撤退を表明している。

現状では、ともにシンガポールで大型カジノを展開するアジア系の2社、マレーシアの中華系企業のゲイティンと、香港系のメルコリゾーツ&エンターテインメントに事実上絞られ、一騎打ちの様相になっている。また、市長選前に1社に絞り込まれるという観測も出ている。

そして、菅首相の「推し候補」が市長選挙に敗れたら……。横浜市長選は単なる地方選挙では済まない政局を左右する大きな選挙になる可能性もある。

1月に行われた東京千代田区長選挙では予想に反して自民党系候補が落選した。その背後には“都議会のドン”といわれた自民党の内田茂元都議が動いたともいわれる。まさにドンの力を見せつけた。

さて、“ハマのドン”はいかに動くのか。そして、菅首相の命運は――。

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この記事を書いた人

経済アナリスト・作家・不動産小説家

経済アナリスト・作家・不動産小説家。 1963年生まれ。東京都心在住。オフィス・ホテル・商業施設・公有地・借地等の不動産の分析、株など資産市場の分析に詳しい。住宅業界のカリスマ事業家が主人公で、創業者まで徹底的に切り捨てる政権の歴史的な不良債権処理の暗闘局面などを明かした『創業者追放~あるベンチャー経営者の風雲録』などの作品がある。

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