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コロナ禍で不動産価格が下落しない理由――年金化する日本の不動産

浅野 夏紀

2021/02/08

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緊急事態宣言下の銀座

死ぬまで払い続けなくてはならない住宅ローン

年金の「不動産化」と不動産の「年金化」が同時進行している。

この背景にはマイナス金利政策の影響で、国債など債券投資中心では利回りを得られずに増えないことにある。このため、年金の掛け金は不動産に投じられている部分が増えているというわけ。これは私企業の企業年金についても同じだ。これが「年金の不動産化」という現象だ。

結果、不動産の証券化によって不動産の金融商品化が進んでいる。しかも、年金基金からは、不動産をはじめとする伝統的な金融商品(債券や株式等)」から不動産を柱とするオルタナティブ(代替)資産への投資をさらに拡大する傾向が続く。これは個人的な親子の相互扶助も不動産は切っても切れない関係になってきているのだ。

結論からいえば、「人生100年時代」に向かうと、親からの相続も、不動産は年金化せざるを得ないという悩ましい面が出てくる。日本人の総人口の減少や寿命の長寿化も「不動産の年金化」大きな要因になる。日本人の女性の2019年の平均寿命は女性87.45歳と男性の平均寿命の81.41歳に比べほぼ6年長い。早晩、女性の平均寿命は90歳を超えると見られる。

一方、年金は年々減少傾向にあり、支給年齢についても70歳が現実のものとして見えてきた。しかも、住宅金融支援機構の調査では、長期固定金利の住宅ローンの「フラット35」を借りる人の平均年齢は40歳を超え、完済年齢は約定から73歳とされ、19年の男性の健康寿命72.7歳を上回る。

こうした好況下では、親からの相続資産があったとしても、まずは現金化され、支給開始年齢が先延ばしされるばかりの公的年金の代わりとして使われるばかりか、この住宅ローンの支払いに回る可能性も十分にある。

個人が行う不動産の年金化がかかえるリスク

不動産は、原則としてそのまま相続税の課税対象となる株や債券に比べ節税が可能な資産だ。しかも、親の長寿化で、親が老後の生活資金にためた預貯金はほぼ使い果たしてしまっていることが多く、この面からも、親から引き継げるものはやはり不動産となる。

しかし、子どもはすでに都会に出て家を買い、住宅ローンが残っているとはいえ、完済も見えるころなので、実家を売って自分で買ったローンを充当する場合はともかく、売るに売れない物件では空き家になり、田舎の実家という「二軒目のマイホーム」を相続することは、「ありがた迷惑」だろう。相続財産が、空き家になる可能性は高く、兄弟のどちらが相続するかでも、もめごとの種にもなりかねない。

そうした難題をはらみながら、親の資産(不動産)を相続した子は、不動産を現金化する必要に迫られる。賃貸物件ならそのまま家賃収入が見込めるが、兄弟や相続人が多いと不動産を切り分けなければならない。それこそが、子や親、親せきを巻き込んだ相続トラブルに発展しやすいのが原因になる。

さて、日本の公的年金(国民年金・厚生年金)は、「積み立て方式の保険」といわれることが多いが、それは半ばウソだ。過去20年の推移をみると、日本の現役世代の国民年金(基礎年金)と厚生年金の年間の保険額はすでに50兆円台をとっくに超えている。このほとんどは、そのまま高齢者へ、その年の年金として振り込まれている。つまり、公的年金とは、現役世代からの高齢者への大きな所得移転という名の「自転車操業」に過ぎないのである。

その証拠に、公的年金の積立金の残額は160億円内外しかなく、毎年の現役世代の保険料払い込みがないと仮定すると、年間の年金支給額の3年程度に過ぎないのだ。

50兆円といえば、年間に相続される遺産資産額は50兆円規模(16年のフィデリティ退職・投資教育研究所の調査など)、と推測されており、高齢の親からの相続遺産(主に不動産)の額と、現役世代からの高齢者への年金支援(年間50兆円超)はほぼ等価になっているのだ。

そうした中、いま不動産業界が力を入れているのは、「人生100年時代に国の年金だけでは不安なので、アパート経営で入る家賃を毎月の年金にしませんか?」という甘いささやきだ。ワンルームマンション投資などがそれにあたる。

振り返れば14年ごろには女性向けシェアハウスの「かぼちゃの馬車」が投資先としてもてはやされたが、18年破綻した。かぼちゃの馬車はスルガ銀行の書類改ざんなど不正融資問題とも相まって、大きな事件として取り上げられたが、社会問題としては取り上げられてはいないが、新築のワンルームマンションで失敗したという話は枚挙に暇がない。
 
日本は基本的に人口減少社会で、空室リスクとは常に背中合わせだ。不動産に投資する「自分不動産年金」づくりには、かなりの自己責任が伴うことだけは肝に銘じておくべきだろう。

外資系ファンドが東京の不動産を買う理由

ここまでは個人レベルの不動産の年金化の話だが、不動産の年金化は、個人だけでなく企業、国内外のファンドもシフトしている。

企業年金の場合は、財政が悪化すると、企業がその穴を埋めのために保有する不動産を売却してそれを使うこともある。さらにそうした不動産売却で得た年金運用資金が再度、不動産の投資・運用に振り向けられ、利回りの確保をするということがよく起きている。言ってみれば“不動産を原資にした不動産投資転がし”のような状態だ

これは日本の企業やファンドだけにとどまらない。

むしろ外資系のほうが積極的だ。とくに退職者向けの内外の年金基金から投資・運用を任されているファンドが、不動産を買うことは少なくない。

マイナス金利政策下の日本の不動産は不動産取引の利回から長期金利を差し引いた差(イールドギャップ)(を3%前後の幅で確保できることから、外資はコロナ禍にあっても対日不動産投資に強気だ。

コロナ禍で不動産が盛んに売買されるのは東京の都心だけで、コロナ対策のために世界中がかつてない金融緩和に踏み切る中、世界のカネは東京の不動産に集まりがちだ。

また、賃貸マンションも、東京都内では4%台という低めの表面利回りでも、外資は買っていく。これら東京の不動産を買い込んでいるのはブラックストーン、PAG、BGOの外資三大勢力だ。

なかでもBGOは、新型コロナで業績不振の音楽イベント会社「エイベックス」の東京・青山の本社を取得し注目を集めた。先般、売却が明らかになった電通本社ビルをどこが買うのかが注目される。

それはともかくブラックストーンは20年に日本国内のオフィスビルや商業施設などを約1100億円で一括取得し話題にもなっている。いずれも東京や大阪など大都市で、中長期的に底堅い賃貸需要が見込める物件だ。この一括取得も含め同社が20年に、国内不動産に投じた金額は6000億円に上るという報道もある。

オフィスビルや商業施設のほか、賃貸マンションなどを含めた18棟をアジアPAGから取得している。これらの物件の大部分はもともと米ゼネラル・エレクトリック(GE)の不動産部門が買い集めたものを、ブラックストーンが買ったということだ。

日本の不動産が世界の年金を支えている?

こうした外資系ファンドのほかにもカリフォルニア州の年金ファンドなど10を超える世界各国の年金ファンドが日本の不動産を買っているようだ。

有名なところでは。世界最大級の政府系ファンドの「ノルウェー政府年金基金」も大手町の三菱地所の新本社の持ち分を20年に一部所得している。


この背景には、年金基金の危機がある。新型コロナ対策で世界中の中央銀行が長期金利を引き下げるため、各国の中央銀行が債券市場で国債を目いっぱい買ってしまい、先進国では国債の利回りがマイナス金利になることも珍しくなくなった。

新型コロナによる世界的な低金利によって、その投資先として買われる日本の不動産。新型コロナであらゆる産業が影響を受けているが、こと不動産だけはその影響はない。その背景にあったのは、不動産の年金化という背景が見えてくる。加えて、企業年金連合会が1100社の確定給付年金を調査したところ、18年度の年金資産の構成割合の平均は国内債券が23.5%と最も多く、次いで外国債券(16.8%)、生命保険の一般勘定(16.4%)の順だった。

脇役のオルタナティブ(代替投資先)の中に入れられる不動産の比率は、まだ低いままのところも少なくない。ただ、中には長い間、年金資金を振り向け先として「主役」だった国内債券(主に国債等)の比率が2割を割り込み、利回りのよいオルタナティブ投資の比率に逆転されるケースも目立ち始め、この傾向はさらに続きそうだ。

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この記事を書いた人

経済アナリスト・作家・不動産小説家

経済アナリスト・作家・不動産小説家。 1963年生まれ。東京都心在住。オフィス・ホテル・商業施設・公有地・借地等の不動産の分析、株など資産市場の分析に詳しい。住宅業界のカリスマ事業家が主人公で、創業者まで徹底的に切り捨てる政権の歴史的な不良債権処理の暗闘局面などを明かした『創業者追放~あるベンチャー経営者の風雲録』などの作品がある。

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