ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

「犬神家の一族」の相続相談(1)――臨終の席で明らかにされた遺言状の衝撃(2/3ページ)

谷口 亨谷口 亨

2021/01/21

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

頭脳明晰、温厚篤実、眉目秀麗――ではない? 一代で巨額の資産を築いた犬神佐兵衛

遺言状の詳細な内容と説明については、次回以降に譲りますので、興味のある方は、それまでに小説を読まれる、映画を観ておいていただけると、この連載をより一層楽しめると思います。


『犬神家の一族』/横溝正史 著・角川文庫 刊・ 定価680円+税

そこでまずは佐兵衛翁がどのような人で、どのような人生を送ったか、その人物像を見ていきます。

まず、佐兵衛翁は一代で犬神財閥を作り上げ、莫大な財産を残したほどの人物ですから、頭脳明晰であることは間違いのでしょう。小説の中で紹介される佐兵衛翁について書かれた『犬神佐兵衛伝』では、仁・義・礼・智・信を兼ね備えた人格者と記されています。とはいえ、遺言状を読む限り、どうもそうとは思えないのが私の正直な感想です。

また、大資産家になっても、決して偉ぶることもなく、見栄を張ることもなく、

〈人間はだれでも、生まれたときは裸だよ〉

と話し、自らの生い立ちも包み隠すことがなかったというのですから、人柄も優れていた……はずです。が、これについても私はどうも疑心暗鬼です。容姿のほうは、若いころは「類稀なる美貌の青年」だったということです。

そんな佐兵衛翁の“自らの生い立ち”はどのようなものだったのでしょうか。

佐兵衛翁は苦労人で、〈17歳まで乞食同様(原文ママ)〉だったということです。そんな佐兵衛翁を救ったのが、那須湖畔にある那須神社の神官の野々宮大弐さんという人物でした。野々宮大弐さんは、学校など行ったこともなかった佐兵衛翁をわが子のようにいたわって、教育したということです。

こういった経緯もあって、佐兵衛翁は野々宮大弐さんに対して並々ならぬ恩を感じ、それを生涯忘れることはなかったようです。

このように人間性が優れているはずの佐兵衛翁にもかかわらず、一族に対しては、なぜ〈遺族のひとびとを互いに憎み合うように仕向ける〉ような遺言状を遺したのでしょうか。そして、それこそが被相続人である佐兵衛翁の思いだったのでしょうか。

次ページ ▶︎ | 死の直前、薄笑いを浮かべた佐兵衛翁。もめごとを予見していたのか…… 

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

弁護士

一橋大学法学部卒。1985年に弁護士資格取得。現在は新麹町法律事務所のパートナー弁護士として、家族問題、認知症、相続問題など幅広い分野を担当。2015年12月からNPO終活支援センター千葉の理事として活動を始めるとともに「家族信託」についての案件を多数手がけている。

ページのトップへ

ウチコミ!