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東京ドーム、島忠、東宝……あと出しジャンケン、「子会社化」の名ばかりTOBの不動産投資術

浅野 夏紀

2021/01/05

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東京ドーム/©︎Sanga Park・123RF

PBRだけでは見えない本当の企業価値

よみうりランド、東京ドームなどの遊園地、LIXILビバ、島忠といったホームセンター、電鉄系不動産会社など実物資産を持つレジャー系企業に対するTOBや、それへの対応策が注目されている。

というのも、その中には買収する企業の狙いは相手企業の持つ土地・不動産(資産)で、その企業が持つ土地だけを買収するより企業そのものを買収するほうが、低コストというケースが少なくないからだ。

TOBは、通常の株式の市場売買でなく、上場株を買い取る期間、取得する株式数、買い取り価格を明示して、市場外で一括して買い付ける。通常は、全株の3分の2以上の取得を目指し、それにより会社を解散・合併することが可能になる。ただ、実際にはそこまで買い集めなくても、50%超を取得すれば、役員の選任ができ、相手を子会社化することが可能だ。

新型コロナによって企業業績は落ちても、金融超緩和の効果で、株式市場は活況で、地価もそう落ちていない。

実際、コロナ禍の中ににあっても、東京市場の平均株価(東証1部上場の225銘柄)は高い水準にある。しかし、個別の株価を見ると、新型コロナによって業績悪化が予想さる企業の株価は、その業績を織り込んで値が付くため株価は安くなっているものある。つまり、こうした企業であれば、TOBにかかるコストを抑えながら、買収しやすいというわけ。

その際の指標になるのが、PBR(現在の株価を1株あたりの純資産〔発行済み株÷純資産〕で割ったもの)だ。この指標を目安にその企業が割安か割高かを見極めるのだ。

PBRは、「1」以下になるほうが割安と判断できる。

すでにTOB先の株式を持ち、大株主なら、株式全部(時価総額全体)を買う必要はない。例えば、純資産額が時価総額と等価(PBR=1)の企業でも、買い付け価格を高めにし、時価総額よりずっと少ない資金で買収できる可能性がある。新型コロナで業績が悪化し、株価が下がっている状況がむしろ味方にもなる。

PBRの低倍率ランキングはネットで検索できるが、上位名を連ねるのは第二地銀(旧相互銀行)などが多い。その理由は、マイナス金利政策による預金の運用難で「地銀危機」が騒がれた影響がある。しかも、地方は都会ほど地価が上がらない。言い換えれば、地銀は店舗など資産を数多く抱えているものの、株式市場では評価されない。結果、業績のよくない地銀のPBRは、1を割ってしまうことが多い。加えて金融庁に「監督」される地銀の再編にTOBは考えにくく、一般企業、投資家、個人も思い切った売買には手を出しにくい。このようにPBRだけで判断はできない部分もある。

また、TOBで買収しても、当然のことながら、相手先の従業員や債務(借金)が付いてくる。日本では買収先企業の従業員を解雇し、企業を解体して、目当ての資産を切り売りしてしまうことはやりにくいため、欧米に比べ資産目当てのTOBは避けられてきた。

それでも「敵対的」とされるTOBはこれまでもあって、こうしたTOBを仕掛けてくる外資などは「ハゲタカ」と呼ばれた。一方、それに対抗してTOBをする企業やファンドは「ホワイトナイト」と呼ばれ、好感が持たれるといったことがあった。

不動産を買うより、まるごと会社を買ったほうがお得?

いわゆる“もの言う株主”という言われるファンドや投資家が狙うのは、優良な資産を持つ上場企業で、こうした企業の株を市場で買い集める。そして、一定の株を確保したところで、「経営陣は不動産などの持てる資産を十分に生かせず、株主(配当)に寄与していない」として経営改善や経営陣の交代、買収側の役員送り込みを求めてくるのが常套手段だ。

一方、日本企業は何かと経営に口を挟まれる役員の受け入れ、さらに敵対的TOBは何としても避けたいという思いが強い。

こうしたトラブルに乗じて経営陣の意をくんで、ホワイトナイトとして友好的なTOBを仕掛ける――というパターンのTOBが最近の主流になりつつある。

三井不動産による東京ドームの買収をはじめ、不動産など資産がらみのTOBだけでも、20年は数件の事例があった。いずれの場合も、もの言う株主や敵対的なTOBに対して、ホワイトナイトが現れ、経営陣の反対もなく楽に買収していった。これこそがホワイトナイト役のうまみである。

しかも、それまで経営陣の交代など激しく要求してきた側も、こうしたホワイトナイトが現れると豹変。もろ手を挙げてホワイトナイトに賛同し、買い集めた株を喜んでホワイトナイト側に売るケースもあった。いずれのケースも多くの一般投資家にとっては、市場価格より高値で株を買ってくれわけだからありがたい存在になっている。

三井不動産による東京ドームのTOBのケースでは、東京ドーム株10%弱を保有する大株主の香港ファンド「オアシス・マネジメント」が東京ドームの長岡勤社長ほか取締役の解任を求めるなど対立が続いていた。そこに救世主のように三井不動産が現れ、1株890円ほどの株価にプレミアムを付けたTOB価格を1株1300円で応募すると報じられた。この提案に東京ドームの経営陣はもとより、オアシス・マネジメントも同意。あっという間に話がまとまってしまった。

買収総額は約1200億円で、三井不動産が東京ドームを完全子会社化したのち、株式の2割相当分を読売新聞グループ本社に譲渡する計画だ。 

なお、三井不動産は、6月ごろ、傘下の読売巨人軍が東京ドームでホームゲームをする読売新聞グループ本社(非上場)を通じて、東京ドームと接触したようだ。その後、読売は、東京ドームと同業で、新型コロナで苦しむ「よみうりランド」にTOBを行い、読売傘下の直系非上場会社にする計画だ。よみうりランドの買収額は400億円以下の予定で、コロナ禍の今はともかく、読売ランドの年間純利益は20億円以上見込めるため、この意味での投資利回りは5%程度といえる。

一方、三井の東京ドームに対する投資額1200億円程度に対して、東京ドームの総資産は3000億円を超で、そのうち賃貸用不動産だけでも600億円以上ある。

TOB一覧表

編集部作成

“あと出しジャンケン”のニトリ、“子会社吸収”の東宝

また、大都市圏に店舗を持つ家具も扱うホームセンター「島忠」の例では、最初にTOBの手を挙げたのはDCMホールディングスだったが、あとから高い額、好条件を提示したニトリがTOBを成功させている。一部報道によると、ニトリはかなり前から島忠に対してTOBを検討しており、今回の「二番手戦略」が功を奏したケースとして注目されている。

このようにTOBの条件がどうこうではなく、最近のトレンドは、買収騒動が起きてから動く、「あと出しジャンケン」のTOBのほうが成立しやすい。

こうした中で、過去に注目されたのは13年に東宝が上場していたグループ会社の「東宝不動産」に仕掛けたTOBである。

注目された理由は、東宝不動産のTOB価格が「東宝不動産の持つ資産価値に比べて低すぎる」として株主が東京地裁に訴え、高裁、最高裁でも争われることになったからだ。

しかも、東宝は子会社利益の社外への流出を防ぐため、東宝不動産を非上場・完全子会社化したばかりか、17年には非上場化した子会社の東宝不動産を解散して資産を東宝本体に完全に組み込んだ。今や東宝は上場企業の賃貸不動産含み益ランキングでベストテンに入ることもある「大」大家さんなのだ。

映画事業は戦後直後の隆盛を極めたが、テレビ放送の普及に押される。そんな中で東宝は映画館・劇場を都心・都市部の利活用ができる不動産資産として、娯楽施設を東宝不動産も含めたグループで開発し、苦しくても手放なさず、暖め続けてきた。それが今では大きな収益源となっているのだ。

映画業界がテレビの登場で斜陽産業になったように、今ではテレビを中心としたメディア業界はネット普及で苦境に立たされている。

中でも凋落するフジテレビを中核企業とする「フジ・メディア・ホールディングス」も、過去に上場していたサンケイビルを非上場化し、連結子会社化にした。そして、政府系ファンドからリゾート・ホテル事業者のグランビス タホテル&リゾートを格安な価格で譲り受けたこのサンケイビルが稼ぎ頭の一つとなり、傘下の不動産やホテル・観光事業で、グループの業績を支える体制に切り替えている。まさにメディアの栄枯盛衰と言える。

このほかにも、子会社を吸収した例では、NTTは傘下の「NTT都市開発」の上場株式を7割近く持っていたが、あえてTOBをかけ17年に非上場化している。

新しいかたちのTOB、不動産投資に動き出したリース業界

これまでのTOBとはちょっと違ったTOBとして注目されているのがHISにTOBを仕掛けられたホテル・不動産業の「ユニゾホールディングス」だ。

同社は一時、外資数社に株を買い進められたことも話題となった。そんな中でソフトバンクグループ傘下の投資ファンドの「フォートレス」がホワイトナイト役として現れたが、結局は仲たがい。ユニゾは紆余曲折の後、米ファンドのローンスターと組んで、上場企業で初めてとなる従業員らによるTOB(EBO)が成立し、20年6月に上場廃止となった。

ユニゾは千代田区などの一等地に優良ビルがかなりあったが、EOBの資金捻出のためにこうした優良物件の多くを売却。それだけでは足りず、ローンスターからの借り入れや優先株発行で2000億円を手当した。結果、ユニゾの社債の価値が落ちて、社債投資家らから不満の声も上がった。会社・従業員によるTOB(EOB)は、もとからその原資があるわけではないので、金がかかる。

また、三井住友ファイナンス&リースは20年11月、不動産投資ファンドの「ケネディクス」を子会社化すると発表。こちらもTOBを通じて株式の過半を取得する。買収総額は1200億円規模。利益率の高い不動産事業を拡大させるなど、リース業界も不動産会社に触手を伸ばしてきている。

新型コロナの景気低迷の中で、日本企業のTOBをめぐる後出しジャンケン、それに関連・子会社の持つ不動産資産への経営のパラサイト化が進んでいる。

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この記事を書いた人

経済アナリスト・作家・不動産小説家

経済アナリスト・作家・不動産小説家。 1963年生まれ。東京都心在住。オフィス・ホテル・商業施設・公有地・借地等の不動産の分析、株など資産市場の分析に詳しい。住宅業界のカリスマ事業家が主人公で、創業者まで徹底的に切り捨てる政権の歴史的な不良債権処理の暗闘局面などを明かした『創業者追放~あるベンチャー経営者の風雲録』などの作品がある。

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