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コロナ禍でも停滞しない不動産市況 CRE戦略が活発化する理由

浅野 夏紀

2020/12/22

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イメージ/©︎paylessimages

新型コロナ直撃で進む企業のスリム化

CRE戦略というビジネスワードをご存知だろうか?

CREとは企業不動産(Corporate Real Estate)を意味する。リストラ、事業縮小、事業転換、合併・統合などで余った低稼働の不動産を活用する戦略が新型コロナの猛威によって様変わりしている。新型コロナによって大きく変わったことといえば、何といっても対面型の営業、顧客対応のあり方だ。生命保険の営業からアパレル、化粧品、百貨店と店舗をベースとする接客事業を得意としてきた業種が総崩れになってきた。このため、コンサルや不動産会社がそうした不振企業に押し寄せている。

意外なところでは銀座3丁目付近の交差点角地の超高級ブランドが一棟借りしているビルも水面下で売り情報が出てきた。有力な買い手としては、三井不動産や三菱地所を差し置いて、銀座界隈で30物件を持つに至ったヒューリックの模様だ。それはともかく、一般には、新型コロナによって業績が落ち込む企業が赤字決算を避ける手段として不動産の売却が相次いでいるのだ。

当然のことながら購入価格より売却価格が高ければ、利益計上できるため赤字の穴埋めができる。とはいえ、不動産の売却は、希望退職など社員の削減とセットにされることがほとんど。なぜなら、不動産売却で得た利益を早期退職の退職金積み増しなどに使って相殺し、税務対策と企業体質のスリム化を一気に進めることができるからだ。

例えば、2020年度の上半期では、JTB、HISなど大手の旅行代理店が大規模な店舗閉鎖に踏み切る。新型コロナの前から大手旅行代理店は低コスト運営ができるネット系代理店やネット専業旅行店に押されていた。そこに新型コロナが押し寄せ、ついに賃料や人件費まで払いきれない窮地に立たされた。


国内店舗を統廃合するJTB/©︎tktktk・123RF

最大手のJTBは20年4~9月期の上半期決算の最終損益が過去最大の781億円の赤字となり、国内の店舗を統廃合などで115店舗削減する。近畿日本ツーリストも3分の1に縮小する。さらにネット部門の強かった新興のHISのリストラも苛烈である。また、音楽イベント関連も深刻で、ライブ中止が決算を直撃したエイベックスが港区の本社ビルの売却を検討中だ。

不動産の整理が及ぼす影響

クール・ビズやウォーム・ビズの浸透によってビジネスファションのカジュアル化が進むなかで、新型コロナにより在宅勤務によってとどめを刺されたのが紳士服業界だ。最大手の青山商事は、21年3月期決算が創業以来最大の最終赤字となりそうだ。22年3月期までに約80店を閉める。

さらに衣料品が主体だった百貨店も新型コロナとネット通販の挟みうちの状態で、虎の子の不動産を売り始めた。


三越伊勢丹不動産をブラックストーンに売却する三越伊勢丹HD(©︎tktktk・123RF)

三越伊勢丹HDは子会社の三越伊勢丹不動産を米国の投資ファンドのブラックストーンに推定300億円で売却する。不動産子会社は都心の一等地でマンションやオフィスの賃貸をてがけていたが、HDではすでに高級スーパー「クイーンズ伊勢丹」の株式の大半を投資ファンドに売却し、資産処分を進めている。収益力のある不動産子会社を売っても、同社の21年3月期決算は600億円の最終赤字が避けられない。


日本で積極的に投資をするブラックストーン(写真は米・ニューヨーク州ニューヨークにある本社)/©︎Roman Tiraspolsky・123RF

こうした企業の店舗閉鎖や不動産売却は瞬く間にほかの企業へと連鎖する。

例えば、三越伊勢丹HDでいえば、21年2月には都心部の三越恵比寿店(東京・渋谷)も閉店するが、この「恵比寿ショック」で打撃を受けそうなのが、「ヱビスビール」が売り物のサッポロHDだ。同社では営業利益の7割を不動産で稼いでいるからだ。サッポロの特技は恵比寿ガーデンプレイスのように工場の跡地不動産を商業再開発し、「不動産会社」の力を蓄えるという方法で、銀座4丁目交差点の超一等地にあるサッポロの「ギンザプレイス」もその1つだ。

実際、19年12月期は不動産事業の営業利益が127億円と酒類の2倍の水準、20年12月期は酒類の赤字転落が濃厚で、不動産だけが黒字を維持しそうだ。

なかでも大型オフィスや高級ホテルが立ち並ぶ恵比寿エリアが不動産事業の営業利益の大きな柱になっている。しかし、恵比寿三越の撤退だけでなく、水面下では撤退や賃貸面積の縮小をサッポロと交渉している企業・店舗は少なくない。恵比寿ガーデンプレイス一帯の空室率は1年前の3倍近い5%に迫っている。

投資、年金、穴埋めに使われる不動産

国際化を進める企業にもCRE戦略が吹き荒れている。これらの企業は海外での資金調達(借金)が難しいため、国内の不動産を売って海外投資のための資金を確保しようというわけだ。

電通グループの19年12月期の連結最終損益(国際会計基準)が808億円の赤字だった。買収した豪州・中国などの海外関連の損失が膨らみ、買収に伴う「のれん代」(企業価値の一部)の減損損失を計上。電通グループが最終赤字となるのは仏広告大手ピュブリシスの株式評価損を計上した09年3月期以来で、赤字幅は過去最悪。営業赤字は上場後で初めてだ。


不動産資産を売却し、グローバル化を進める電通(写真右のビル)/©︎paylessimages

電通は広告大手、英イージスグループを13年に買収して数年間で160社以上の企業を傘下に収めてきた。しかし、買収を急ぎすぎた結果、「のれん負担」は7000億円を突破した。その結果、海外の売上高が5割を超え「世界の電通」という体裁だけはできたが、そのために社宅、運動場、旧本社、関連ビルなど国内の不動産資産を大量に売り払ってきた。それを海外の広告会社の買収につぎ込み、海外部門の「暴走」で大赤字となった。さらに12月、今期の見通しとして237億円の最終赤字になること、そして海外での大幅な人員削減を行うことを発表している。

世界の電通というシナリオが浮上したのは14年、中央区築地の旧本社などのビル群を売却する前後からだった。

この売却で固定資産譲渡益として240億円を特別利益に計上した。このほかにも電通の資産売却は数多いが、国際展開をするにあたり、不動産系の大手国際コンサルに頼った面が、資産売却に勢いをつけたようだ。

一方、海外投資の失敗の穴埋めに不動産売却を進めてきた企業として名前が上がるのが東芝だ。同社もNREG東芝不動産の株式30%を野村不動産ホールディングスに売却することで合意し、15年には売却が完了した。売却額は370億円。売却益は249億円。米国の原発企業の買収や不正会計問題に揺れていた東芝は最終赤字に転落し保有資産の売却を進めた。

こうした「火事場」となった事業会社に「もっと不動産をうまく活用しませんか」と不動産会社や銀行、信託銀行、外資系ファンド、コンサル会社、外資系投資銀行の法人営業部が、「CREノウハウ」を伝授して回っている。

彼らは「手持ちの不動産を売却しても、リースバックすれば家賃を払って今まで通りに自社ビルに留まれ、決算対策と一石二鳥です」などと提案して回っている。

日本は人口減少と高齢でGDPの拡大はもう望めない、ということは一般企業でも分かる。地価はGDPと連動性があるので、「下がる前に売る」という戦略だ。

しかし、マイナス金利政策を伴う超金融緩和が続き、都心などの不動産はだぶついた国内外の資金が流れ込んだことで、高止まりしたままだ。

例えば、今春以降、湾岸の中古マンションの相場も悪くなっていない。「コロナの郊外志向で湾岸タワマンの相場は崩壊」と繰り返す「住宅評論家」もいるがそれはウソだ。不動産のプロは、毎度繰り返されるそんな話は無視している。

だが、同じような「不動産のウソ」は、企業向けの不動産売買市場にもある。

日本の役所や企業は、ゼネラリストは育てるが、文系の範疇に入る不動産の業務は「昨日まで人事部の係長をしていました」という門外漢も少なくない。早いうちに、接待づけにしてしまえば “名うての不動産ストラテジスト”らの言うがままで、彼らにとってはCRE戦略で膨大な手数料や売却益などが稼げるというわけだ。

また、マイナス金利の下で登場したのが、「年金を絡めたCRE」だ。

企業としての絶頂期は実は短い名門企業のなかには、確定給付型の年金を自社で制度化しているところがまだ結構ある。企業年金は、基礎年金(国民年金)、厚生年金の上に乗る「3階建て」部分にあたる。

しかし、マイナス金利時代に、2〜3%の予定利率で回さなくては、企業年金は立ちゆかず、これを達成するのは至難の業だ。

そこで企業年金の運用資産として、3%前後で回る不動産を組み入れるよう働きかける年金アドバイザー、顧問も増えている。このような企業年金の運用でもCRE戦略は使われている。

もちろん、CRE戦略は、企業に不動産を手放させるだけではない。「低金利で資金があふれる今こそ買いませんか」という提案もする。
相場が天井と見ている企業、個人は物件を早く売りたいと考える。逆に、地価が下がった局面では「今が底です」と、物件リストが出回る。

太るのは投資ファンドと国内大手不動産だけ?

土地持ち企業が投資家から脚光を浴びる時代だが、外国人株主(アクティビスト)が、資産リッチな企業のリストを作成し、資産のさらなる有効利用による企業価値や株価、配当のアップを求めて、株主総会で発言することもある。

そんななかで赤字を出すような決算では経営陣が責任を問われるため、これを避けるために一定の不動産売買で決算を「作る」企業もあるのだ。さらには、経済成長や土地神話などによる「含み益」で社員の高給を維持しているのが大手不動産だ。

三井不動産、三菱地所、住友不動産が3月末で保有していた賃貸等不動産の含み益の総額が初めて10兆円を超えたと9月9日付日本経済新聞に報じられた。20年3月期の有価証券報告書をベースに賃貸等不動産の時価と貸借対照表の計上額(簿価)の差額の含み益を計算すれば、3社の含み益は合計10兆3170億円と、5年で2倍に増えたという。

賃貸等不動産の含み益がある上場企業460社の同利益の合計が約21兆円なので、わずか3社でその半分を占めることになる。

事業会社には「不動産を売りなさい」といい、自社では売らずに含み益をため込めるのには深いわけがある。

都心などで特区といった開発優遇策をフル活用して、大型再開発を行えば、地下通路、ホール、鉄道進入路など多くの施設が「公共貢献」と自治体や国から認定されることが多いうえに、その見返りとして容積率緩和などもされ、高いビルが建てられるようになり資産価値も上がるからだ。しかも、1箇所の大規模再開発で補助金の総額が300億円を超えることも珍しくない。つまり、わずかばかりの土地を持つ企業に「CRE戦略」と称して土地を供出させ、細かい土地をまとめて大規模開発に持ち込めば、事業会社では考えられないほどの利益や含み益が転がり込むのだ。

新型コロナによって景気は低迷しているが、超金融緩和効果で「連動した」ような株と不動産(資産市場)にさしたる影響は見られない。その背景にはこのCRE戦略の影も見え隠れする。

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この記事を書いた人

経済アナリスト・作家・不動産小説家

経済アナリスト・作家・不動産小説家。 1963年生まれ。東京都心在住。オフィス・ホテル・商業施設・公有地・借地等の不動産の分析、株など資産市場の分析に詳しい。住宅業界のカリスマ事業家が主人公で、創業者まで徹底的に切り捨てる政権の歴史的な不良債権処理の暗闘局面などを明かした『創業者追放~あるベンチャー経営者の風雲録』などの作品がある。

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