賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

ウチコミ!タイムズ

一地方都市、残念な街になった「横浜」に吹いた神風! 懸案のIR誘致も菅総理誕生で巻き返しか?

浅野夏紀

2020/09/16

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

山下ふ頭/©︎dreamnikon・123RF

市役所移転で斜陽化激しい旧市街、新首相で変わるか?

トレンドな街として、流行の発信地だった「横浜」。しかし、かつてあった横浜のトレンド感はすっかり色あせている。その象徴が関内の現状だ。

横浜市の市役所が、ハマの繁華街だった関内から抜け出し、馬車道に建設された豪華な高層ビルに完全移転した。市は旧市庁舎が手狭として関内のオフィスビルを借りていたが、これも退去。関内のオフィス街は寂れるばかりだ。


横浜市中心部

新しい横浜市のシンボルが新都心の「横浜みなとみらい21」(MM21、186ヘクタール)の開発だった。関内・伊勢佐木町と横浜駅をつなぐ商業・業務エリアとして開発されたMM21地区に1700社以上が進出し、10万人が働くオフィス街になった。そして、旧中心市街地の関内から横浜駅前、市役所が移転した馬車道への一層の事業所流失をさらに招く結果になった。

加えて、関内は横浜市が作成したハザードマップによると、洪水の危険性が高く、リートや大企業にとってはリスクマネジメントの点からもマイナス要因が多い。

「関内は床の需要がない」と話すのは地元最大手不動産会社の幹部だ。関内の賃貸料が埼玉県の大宮よりずっと安いのは、横浜市民には意外かもしれないが、不動産業界ではもはや常識だ。

さらに横浜は観光もパッとしない。横浜ではコロナ禍の最中でもインバウンド需要を見込んだホテル建設ラッシュにあるが、コロナ以前から東京を訪れた外国人観光客は、横浜に泊まらずに箱根、あるいは富士に向かう傾向が定着していた。

米西海岸の二番煎じのウォーターフロントは、水際開発が進むオシャレな上海や青島に目が慣れたハイセンスな中国人もパスをする。横浜市を訪れる年間の観光客はおよそ3600万人だが、宿泊者は15%程度に過ぎない。また、横浜港が扱う貨物量は、以前は横浜と東京を合わせると世界でベスト10に入ったが、今ややっと30位台に入る程度。東アジアの拠点港は中国の上海、広州、青島、韓国の釜山などに移って、横浜はグローバル化から取り残された。

世界の港湾別コンテナ取扱個数ランキング

出典/国交通省港湾局の資料を基に編集部作成

そこで、林文子・横浜市長は、昨年8月に、税収増と観光活性化に向けて老朽化した山下ふ頭を候補地に、IRの誘致を正式表明した。しかし、今年5月、横浜市のIR事業への参入を目指していた米トランプ大統領の選挙資金援助者で、ソフトバンクの孫正義氏とも親しいアンデルソン氏が率いる米カジノ大手のラスベガス・サンズが、撤退の意向を表明。まさに『よこはま・たそがれ』な状態に陥った。


頼みの綱であった米カジノ大手のラスベガス・サンズが撤退(写真はイメージ)/©︎tupungato・123RF

地元首相誕生で一発逆転を狙う カジノも不発か?

起死回生の頼みの綱だったIR誘致の旗振り役は、横浜市を選挙地盤にする菅義偉・新首相だ。選挙区の商店街では首相誕生のころには横断幕が掲げられる予定だ。

新首相がかつて秘書を務めたのが横浜を地盤としていた故・小此木彦三郎元建設相だ。その小此木元建設相と昵懇だったのが“ハマのドン”といわれる横浜港運協会の藤木幸夫氏(6月に退任、後任は藤木氏の長男・幸太氏)である。

菅氏は横浜の港湾事業を担ってきた藤木企業グループの支援もあって、1987年に横浜市議に初当選。91年に小此木元建設相が急死し、96年に衆議院議員に当選し、その小此木氏の開発・港湾利権を引きついだとされる。菅氏は選挙区の大物でもあった藤木港運会長に低姿勢だったが、その力関係が逆転したことを象徴づけたのが、IR誘致だった。

藤木氏率いる横浜港運協会は、頑としてIR誘致に反対。再開発方針に合意しない限り、山下ふ頭からの立ち退きに応じない姿勢を示した。協会側がここまで強行意見を出したのには、山下ふ頭を牛耳ってきた港湾関係者が事業の主体となりたいという思いがあった。

そもそも山下ふ頭は、1953年から埋立てがはじまり、63年に外貿のための埠頭として完成。高度成長期の横浜港を支えたが、時代とともにコンテナ船が大型化したことから、その拠点は水深のある本牧などへと移った。山下ふ頭の47ヘクタールの大半は市有地だが、国有地や民有地も含まれ、それぞれ複雑な借地借家関係もあり、全体開発のコンセンサスを得るために国、横浜市、経済界、港湾関係者が足並みをそろえることが必要で、それをまとめ上げるのは至難の業だといわれた。

IRの施設には会議・研修(Meeting)、報奨・招待旅行(Incentive tour)、国際会議(Convention)、展示会(Exhibition)の頭文字をとった「MICE(マイス)」が必須で、これには高級ホテルのほか、ショッピングモールや劇場、テーマパーク、そしてカジノなどが含まれる。

無味乾燥な計画 続々と出るライバル

そうした中で、建築家の山本理顕氏らのグループが市のIR構想と対立する再開発構想を7月に発表。中身は海外のカジノ事業者による「市民に閉ざされた」施設とせずに、水路に囲まれた低層住宅やホテル、展示場を建設する案で、東京依存を改め、横浜で完結する職住一体の観光都市を目指したものだが、「周囲に空き家が増える結果となる」という厳しい意見もある。この構想は著名建築家や住宅メーカーなどが協力して立案。市が2019年に実施したコンセプト募集に応募済みという。

「儲かる」とされたカジノ抜きでの大型展示場や会議場など巨大箱モノ建設も、これまた採算がとれるかは疑問が残る。これ以上展示場やホテルを増強しても、東京からの“おこぼれ”需要を当て込んだ戦略の焼き直しに過ぎず、この構想では人口減と東京回帰の流れを止められるかは見通せない。加えて、カジノ建設を進めても、カジノそのものが本場のラスベガスにおいてもオンラインカジノに侵食される中、横浜に外国の富裕層を呼べるのかも疑問だ。

こうしたこともあってか、横浜のカジノ反対の市民による、林市長のリコール運動もある。IRのような大規模な施設を維持・管理するには、ホテルだけでは採算的に厳しく、そのため確実な収益源にできるカジノが必要というのがカジノ推進派の主張だ。

ただ、大阪は、遊戯・娯楽業界融資で強かったオリックスと米MGMの2社がカジノを運営する予定だ。ただ、オリックスはコロナ禍で関西3空港の運営を勝ち取ったが、空港経営の状況は国際線の停止で苦しく、ホテルなどもよくない。おまけにMGMもコロナ禍でカジノが不振で、米国などで社員の大量解雇を行い、大阪市などが求める大阪でのIRのある夢咲地区への鉄道延伸費負担も含めて、MGMは今後ますますオリックス頼みとなる。

出遅れた横浜IRも新首相が支援をすれば大阪IRより、展望は開ける可能性はある。だが、ライバルは手強い。シンガポールの象徴的な存在になっている敷地面積19ヘクタールのマリーナベイ・サンズの「サンズ・エキスポ&コンベンションセンター」は、6000人、7000人、1万1000人を収容できるホール、2000の展示ブース、250の会議室を備え、4万5000人以上を収容することが可能。しかも、シンガポールにはこのマリーナベイ・サンズに加えて、「リゾート・ワールド・セントーサ」もあり、こちらの敷地面積は49ヘクタールだ。しかも、国内に目を転じれば、展示場・MICEビジネスは羽田に近い東京都大田区が乗り出し、成田空港に近い千葉市の幕張も強敵だ。


シンガポール マリーナベイ・サンズ /©︎Scott MacMillan・123RF

単なる一地方都市のブルーなヨコハマ

現在の横浜の人口は約376万人だが、すでに頭打ちで減少も近い。横浜では高齢化が進み、戸建ての空き家は全国でも有数の多さだ。あの破たんしたシェアハウスの「かぼちゃの馬車」ですら、「横浜だけは遠い」と敬遠。高級住宅地として人気だった姿は、今は昔。

その要因は、首都圏に勤めるサラリーマンが都心回帰によって、横浜を離れてしまったことによる。結果、横浜市は税収が伸び悩む一方で、市の財政負担が大きくなる高齢化のスピードが速い。

人口のベクトルが向いているのが東京都内のほか、神奈川県第2の都市である川崎市だ。その象徴的な地域が武蔵小杉で、鉄道網の拠点として依然人気は高い。

また、横浜は経済基盤も脆弱だ。大阪市より人口が100万人規模で多いのに、経済を支える地場企業が少なく、市への法人・事業所関連の税収は少ない。

外人墓地、中華街、元町、ハマトラ……1970年代からの横浜はエキゾチックな雰囲気と流行の発信地として人気が高く、雑誌やテレビに出てくる横浜はトレンドな街として紹介された。

時代は変わり、今はその残像しかない。しかし、そこから抜けられない。そうした「ヨコハマ」にプライドを持つ市民こそが、輝く横浜を謳歌した世代で、今や市の行財政に重くのしかかる高齢世代なのである。

幕末の開港以来、外国人が住みハイカラな港町の横浜は生糸や絹の積出港として外貨を稼いだ。近県の養蚕農家からの「シルクロード」の終点でもあった。

戦後、高度経済成長期には京浜工業地帯の物流拠点でもあった。しかし、港町独特の文化や商売も色あせた。今の横浜は伝統を語れるほど古くも、時代の先端を走る新しさもなく、街としての規模や役割も中途半端だ。

そんな中、7月、「横浜の米軍跡地にテーマパーク構想TDL級? 市も後押し、事業者は未定」という記事が主要紙に躍った。市の瀬谷と旭にあった米軍通信施設の跡地242ヘクタール(東京ドーム52個分)の米軍から返還された土地の再開発計画である。しかし、横浜の米軍からの返還地は、先に別の旧米軍利用地で重機の旧米軍タンク転落事故などもありイメージも悪く、前途は多難だ。

そうした中、出てきた案がこれまた二番煎じのテーマパーク構想だ。目新しさは何もないIR構想とどこかダブって見えなくもない。

今の横浜の姿は、経済の低下や人口減少により国力を落とし、先進国の座が揺らぐ日本の縮図のように感じられてならない。

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

経済アナリスト・作家・不動産小説家

経済アナリスト・作家・不動産小説家。 1963年生まれ。東京都心在住。オフィス・ホテル・商業施設・公有地・借地等の不動産の分析、株など資産市場の分析に詳しい。住宅業界のカリスマ事業家が主人公で、創業者まで徹底的に切り捨てる政権の歴史的な不良債権処理の暗闘局面などを明かした『創業者追放~あるベンチャー経営者の風雲録』などの作品がある。

ページのトップへ

ウチコミ!