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新型コロナ、米中冷戦、香港問題で有り余るマネーを握る外資系ファンドが再び目を向けはじめた日本の不動産

浅野夏紀

2020/09/15

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イメージ/©︎photochicken・123RF

外資系ファンドが注目する「ICHIKAWA」

新型コロナの影響によって、株、債券、不動産といった資産価格の動きはこの先どうなるのだろうか。株価については、乱高下はしているものの、日米ともにコロナ以前の水準に戻ってはいるが、不動産については見えない部分も多い。

その要因のひとつとしては、米国大統領選挙を前に米中の貿易戦争は「米中冷戦」へと発展、加えて、豪州と中国の関係悪化による、豪州不動産などへの中国マネーの流れが止まるなど、世界の不動産市場に影響が出ている。

しかも、新型コロナに対する経済対策として世界中の中央銀行が日本(日本銀行)をまねたような超金融緩和策やマイナス金利策に入ったため、世界中にマネーがあふれて、このマネーを使って、またぞろ外資系投資ファンドが動き出しているのだ。

大手町や六本木あたりに陣取る外資系金融機関や投資ファンドの社員の会話で最近、よく出る地名が「ICHIKAWA」(千葉県市川市)だ。

というのも、京葉線「市川塩浜」あたりには、アマゾンの物流センターなど倉庫が数多くあるからだ。市川に限らず全国各地のこうした倉庫そのものもPLGなどの外資が建てて経営しているものも多い。このPLGは、米国発祥の世界的な倉庫会社で、ブラジル、日本、ベトナムを含めた世界各地に物流網を持つ倉庫大手。外資の通販を支える「影のアマゾン」の一社だ。


ネット通販のキモである物流。その拠点となる倉庫には外資系企業が投資/©︎adrianhancu・123RF

外資系が変えてきた日本の産業構造

世界的なIT4大企業の「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)は、日本のネット検索、ネット広告、携帯、SNS、通販の世界を制した。その一方で、物流というリアルにモノを動かす動脈に対しても積極的に投資している。

外資の日本への投資先は、時代によって変化する。

例えば、日本の街にあったおもちゃ店は30年近く前に米国の玩具安売りチェーンのトイザらスの日本上陸で苦境に立たされ、廃業を余儀なくされた。そして、トイザらスの進出は大店法(大規模小売店舗法)の廃止の突破口になり、これをきっかけに各地に大型の総合スーパーマーケット(GMS)が次々とオープン。地方の駅前商店街がシャッター街へと姿を変えた。

しかし、2017年に今度はそのトイザらスがゲーム機やネット通販に押され、倒産(日本などでは店舗営業は継続)。大型スーパーマーケットも消費者の変化やネット通販の広がりによって厳しい状況になっている。

米国でヒットした新事業は次に日本やアジアでも成功すると見て、外資系ファンドは次々と目を付けた産業を先買いしてきた。

その一方で、アマゾンなどネット通販各社ではリアルな流通拠点の整備が求められ、最新型の倉庫が多数必要となり、外資が倉庫を建て、それを外資が買い、また外資がそれを外資に転売するといった状況になっているのが現状というわけ。

日本企業も三井不動産やダイワハウスをはじめ不動産・住宅・商社など幅広い業界が競って大規模な倉庫を建設してきたが、せっかくつくった倉庫群を持ち続けずに、高値で外資に売る事例も目立っている。

また、物流施設関連では実物である不動産を小口・証券化(電子化)し、物流施設ばかり集めた専用リート(不動産投資信託)商品として人気になっている。

この動きを裏付けるように、最近ではJリートの株式時価総額のトップが、オフィスファンドから物流ファンドに初めて逆転される場面もあったほどだ。倉庫に投資する日本プロロジスリート投資法人がオフィス型の日本ビルファンド投資法人を一時的に時価総額で上回ったのである。コロナ禍で「オフィスより、在宅。買い物は通販」という「新しい生活様式」ともいえる状況による逆転劇だが、これを後押ししたのも倉庫にご執心の外資系ファンドなのである。

とはいえ、日本では日銀も優良リートを買っているため、外資ファンドも安心して投資ができるという背景もある。

そんな外資系ファンドの中でひときわ存在感が大きいのが米ブラックストーンだ。

同ファンドは賃貸住宅と並んで物流施設に重点投資しており、2019年は日本国内の複数物件を1000億円超で取得している。さらに、ブラックストーンはこの夏、大和ハウス工業から日本国内の4つの新しい物流施設を550億円で買うことを決めた。

大和ハウスは、これまで開発物件をグループのリートに売却してきたが、初めてまとまった規模で外資ファンドに高値で売った。大和ハウスでは今後は必要に応じて売却、回収した資金を新たな開発に充てるという。

もはやあらゆる産業、企業が外資系に

外資系ファンドというと、オフィスビルや賃貸系マンションなどの不動産への投資が中心と思いきや、昨今はそれだけにとどまらない。日本のあらゆる企業に対して外資系ファンドが出資し、買収されている。

例えば、水戸黄門でおなじみの三つ葉葵の家紋と“大江戸”というネーミングがいかにも日本的な企業と思える「大江戸温泉」は米国の大手投資ファンドのベインキャピタルに買収された “外資系”ともいえる。結婚式場、ホテル、オフィスの目黒雅叙園も米不動産投資ファンドのラサール インベストメント マネージメントに買収されている。ちなみにこの目黒雅叙園の買収は表向き米国投資ファンドになっているものの、実際の金主は中国系ファンドともされる。さらに売却した森トラストはわずか数カ月で巨額の利ざやを稼いだと報道された。

こうした中で起きた新型コロナ感染症の世界的流行による経済対策のために世界各国の中央銀行は金融緩和やマイナス金利政策を導入、世界中でマネーがあふれ日本が改めて注目されているのだ。

もちろん、コロナ禍で経済の立て直しを迫られるに日本にとっても、外資系ファンドの存在は必要な不可欠でもある。

少子高齢化、人口減少でも魅力のある日本の不動産

外資にとって投資先として日本が魅力的なのは、株式、社債、国債、Jリート、投資信託などに自由に分散でき、乗り換えられるからだ。しかも、日本の不動産はまだまだ投資先として旨みがあると見ている。

日本は高齢化が進み、総人口は減ってはいくが、老人ホームなど高齢者施設へ行く前の住処は必要で、賃貸住宅の需要はまだある。たとえコロナ禍であっても高齢者の所得である年金は減らされてはいないので、賃貸住宅は思ったほど不良債権化しない。そのため急には空室も増えない。つまり賃貸住宅需要はオフィスや店舗賃料などと比べるとずっと安定的といえる。

しかも、東京だけはまだ人口が増加しており、新型コロナで地方への転出が増えているとはいっても、それは一部に過ぎない。共稼ぎ世帯などが職場に近い都心の住宅への需要は減少せず、賃料は今後も上昇すると見込まれる。大都市の賃貸マンションの投資利回りは3~4%程度とされるが、米国、欧州で長期金利がマイナスになれば、この数字はよい利回りとなる。

加えて、超低金利で各国の保険会社が不動産に回帰している。その結果、運用先として日本の不動産が人気だ。


日本に積極的に投資するドイツの保険大手アリアンツの不動産部門のアリアンツ・リアル・エステート/©︎robson309・123RF

実際、10兆円を運用するドイツの保険大手アリアンツの不動産部門のアリアンツ・リアル・エステートは、2020年10月、東京都内の約18棟、400戸近い新築マンションを取得する。価格は約170億円。売り主は、外国人が会長をつとめる、Jリートを持つ「いちごオーナーズ」だ。

日本においてアリアンツは10月の取り引き以前の2019年11月にはブラックストーン・グループから82棟を約1300億円で取得している。

また、世界最大級の政府系ファンド、ノルウェー年金基金は2020年3月、丸の内の「大家」の三菱地所の新本社社屋(大手町パークビルディング)の一部を約800億円で買った。

さらにソフトバンクグループ傘下に入った米国のフォートレスは、東日本震災後安くなった日本のホテルを次々と買収し、それらを近年次々と売却したことで注目された。このほかにも米国のKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)、米ラサール、英アバディーン、米エリオット、米グリーンオークなど日本の不動産に投資する著名な外資は20を超える。


香港の資産の行方はいかに/©︎BING-JHEN HONG・123RF

しかも、香港では中国政府が香港国家安全維持法(国安法)を施行したことによって一国二制度が事実上なくなった。そのため中国共産党支配から逃れるために香港の資産が世界のどこに行くのか注目されており、その行き先として日本の不動産に再び熱いまなざしが向けられている。

このことは日本政府も意識し、2021年度税制改正においても、外国人による不動産所有に関する税制の整備がさらに進むともいわれている。

コロナ後の経済の立て直しが急務な日本経済だが、その中にあって不動産の動向における、外資系ファンドの動きからは目が離せない。

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この記事を書いた人

経済アナリスト・作家・不動産小説家

経済アナリスト・作家・不動産小説家。 1963年生まれ。東京都心在住。オフィス・ホテル・商業施設・公有地・借地等の不動産の分析、株など資産市場の分析に詳しい。住宅業界のカリスマ事業家が主人公で、創業者まで徹底的に切り捨てる政権の歴史的な不良債権処理の暗闘局面などを明かした『創業者追放~あるベンチャー経営者の風雲録』などの作品がある。

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