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コロナ禍で銀座も落城寸前?――森ビル撤退、高級ブランドも

浅野夏紀

2020/07/31

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銀座シックス(GINZA SIX)/©︎123RF

開業までに紆余曲折、一抜けした森ビル

東京都中央区の銀座といえば、不動産においては、人気、価格ともに別格の扱いだ。しかし、新型コロナと東京五輪の延期で、かつて経験したことのないオーバーストア問題と、訪日客なしの経営の困難さが浮き彫りになっている。

インバウンドの急減で銀座のブランド店は、コロナ問題による全館休館期間が解除された以降も、外国人客はガラガラな状況だ。水面下で家賃の値下げ話も始まっているが、あまりの売り上げ減少で「仮に賃料が半額近くに減額されたとしても、インバウンドなしでやる不安は消えない」、「売り場の面積やスタッフを半減させたい」という悩みは深まるばかりで、ついに夏を迎えた。なかには複数の店舗展開を1店に集約することを密かに検討する外国高級ブランド店もある。

そんななかで森ビルが保有していた銀座シックス(GINZA SIX)の床が大丸松坂屋に売却され、ノウハウを持つ森ビルは共同運営業務から2020年2月末に撤退してしまった。同ビルの床を保有するSPCの銀座六丁目開発特定目的会社の株(優先出資持分)の3分の1を森ビルが放出したのだ。売買価格は184億円程度とみられる。


森ビルは銀座シックスの商業床を売却/©︎123RF

これは大きなニュースになったが、森ビルは進行中の「1兆円プロジェクト」などで、虎ノ門・麻布台の超大型開発や虎ノ門ヒルズエリアのプロジェクトにおいても商業施設の開発を行うため、もともと縁のなかった銀座の巨艦店の面倒を見る余裕がなくなっているのだろう。

ではなぜ、銀座の大型開発に、港区以外はまず手を出さない森ビルが出てきたのか。

銀座シックスは地上14階地下6階建て、延べ床面積14万2521㎡にも及び、地下2階~地上6階と13階は商業施設、7階~12階と13階(一部)はオフィスというまさに巨艦ビル。旧松坂屋銀座店のあった場所を中心に、周辺を地上げした土地に建てられた。当時、不動産開発において経験の少ない旧松坂屋は森ビルに頼った。銀座シックスは銀座では最高級、最大級のビルだが、そのオープンまでは紆余曲折があったのだ。

旧松坂屋の意向もあって再開発事業に手慣れた森ビルが再開発における権利調整や権利変換などの難事業に乗り出した際の当初の構想は地上200m級の高層ビル案で、タワー化も検討された。しかし、中層の高さの街並みを守ってきた銀座の商店街がこれに猛反発。

銀座では、2003年に街づくり協議会を立ち上げ、いわゆる「銀座ルール」(高さ規制等の地区計画)を明確化し、銀座シックスのそれに収まる現在のような形に落ち着いた。こうした地元商店会などと協議を進め、多くの話題を振りまいた銀座シックスがオープンしたのは17年4月のことだった。地下鉄銀座駅から徒歩2分、中央通り沿いに立つ最高の立地での開業だった。

年金にも関係する? 銀座シックスの動向

銀座シックスについては、単なる大企業による不動産だと考えてはいけない。

日経不動産マーケット情報によると、(森ビルと同様にSPC株を持っていた)ルイ・ヴィトンなどの高級ブランド企業集団であるLVMHの傘下の「L キャタルトン リアルエステート」も持ち分を、年金原資などを主に運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)に売り、年金加入者にとっては意外にも「年金運用ビル」のとしての色彩もあり、その業績とは無関係ではないのだ。

そして、いまや、銀座シックスの大半は「脱百貨店」を掲げる大丸松坂屋(大丸と松坂屋の統合した持ち株会社のJ.フロントリテイリング傘下の中核会社)の床になった。

その賃料は商業優先の銀座ではやや伸び悩み、オフィス床のテナント料の大方は、坪当たり4万円台前半とみられる。オフィス部分は小口でも転売され、中小企業やオーナー企業の管理会社、外資にも人気があった。

一方、階下の商業床はオフィス床の賃料の2倍か、2倍以上とされ、1階の路面の区画はオフィス賃料の4~5倍前後にも達するとみられる。まさに商業床の賃料は銀座でも群を抜く。しかし、「香港やニューヨークの商業一等地に比べ銀座はまだまだ安い」というセールストークも銀座の今の苦境につながっている面も見逃せない。

二極化する高級ブランド

銀座シックスのほか、銀座の晴海通りと外堀通りが交わる数寄屋橋交差点に鎮座する東急プラザ銀座や、銀座1丁目(銀座中央通り)にキラリトギンザなど銀座にはかつてなかった大型の高級ショッピングビルが過去数年で相次いで開業した。

当時、日本の物価は低迷し、為替も円安方向に振れていたため、「世界的に見て銀座の家賃はまだ安い」として巨漢ブランド店ビルが内外のブランド店の誘致に奔走していた。だが、インバウンドの爆買いがひと段落し、新型コロナによる外国人観光客の激減によって、高級外資ブランド業界の「かつてない二極化」が起こった。

ルイ・ヴィトンなど有名な勝ち組は国内客を相手に売上高を急回復させる一方で、そこまでいかないブランドは、銀座のビルの家賃が重荷になっている。20年の8月のアパレル業界の半期決算期は深刻化が予想され、こうしたアパレルのブランド店を店に入れて食いつないできたデパート業界は気が気ではない。こうしたコロナ禍の影響によって、「大丈夫か大丸松坂屋」という声も聞こえるようになっている。 

シルバー富裕層の相続対策で上がる銀座の地価

そんな銀座シックスと銀座中央通りを挟んで向かいにあるのが、米国高級ファッション店の「アバクロンビー&フィッチ」が一棟借りする商業店舗ビル(敷地は72坪・238㎡、11階建て建物付き/アバクロビル)だ。


アバクロビル/撮影 編集部

このビルも、これまでに土地建物の高値売買が繰り返されてきた。複数の銀座通の話によると、このあたりの地価は坪4.4億円内外(売買総額は350億円程度だろうか)とされ、相続評価額は建物込みで坪1億円台という。そんなアバクロビルも売却されている。

このビルの売却には、相続税対策もあったのではないかとみられている。超富裕層にとっては、借金(つまり、資産を減らせる負債を増やす方策)をして、一等地の不動産を坪4.4億円で買えば、かなりの相続資産を圧縮できる可能性がある。しかも、このビルはその前の取引で「坪3億円台」の価格がついた実績もあり、売り手、買い手にとっては、WIN-WINな取り引きになる。アバクロビルの売買には旧Y財閥系の名門不動産会社の関係先が絡んだともいわれる。

路線価など公的地価は、地価の上昇局面では時価を後追いする形で上がっていくことが多い。商業地としては高額な地価の銀座は、相続税対策に使われやすく、地方銀行の東京支店あたりでは「銀座の土地・建物を欲しいという地方の富裕高齢者が非常に目立つ」という。銀座の土地は相続税対策の切り札のひとつという側面がある。投資利回りからは購入できないが、「別世界のあの世対策」の「高額シルバー取引」として幅を利かし、このことが銀座の地価の最高取引価格を押し上げてきたというわけだ。

新型コロナ禍前にも見えていた銀座らしさの消滅

銀座のなかでも京橋のお隣になる銀座1丁目中央通り沿いにある、オリックス不動産や外資ファンドのエリオットが開発した商業施設のキラリトギンザは、旧ソ連の産油国アゼルバイジャンの政府系石油ファンドに買われている。当初は「銀座でブライダル」をテーマに華々しくオープンしたが、わずか5年余りで当初の婚礼コンセプトを捨て、銀座通を驚かせている。


キラリトギンザ/©︎123RF

実際、17年3月には11階と12階に入っていた結婚式場運営会社の「Brillia」が破産。結婚式場業者としては、過去2番目の大型倒産だった。

一方、2階には開業時にはプライダル系のジュエリーショップなど数店舗が軒を連ねていたが、相次いで撤退。撤退した店舗の間仕切りは撤去され、今では2階フロアは「大広間」になっている。上層階でも空き室の業態転換利用が相次いだ。派手に路面店展開したオンワード系の店も撤退する。

コロナ禍の大きな影響を受けた業種の一つであるブライダル関連ではあるが、それ以前の少子化・非婚化・晩婚化の三重苦のなかでは賃料の高い銀座ではやはり生き残れなかったようだ。

もはや銀座がコロナ禍前に戻ることはないのか

高級ブランドの爆買いで銀座を潤した中華系インバウンドは、日本への国際線がストップするなか、中国本土や自国内でのブランド消費に目覚め、それがついに定着してしまったようだ。北京や上海など中国大都市に展開する高級ブランド店はコロナ以前の記録を塗り替える好景気に沸いている。こうした逆風下の銀座の命運を握るのは、依然として東京(羽田・成田)への、来る国際航空便だ。その復活が銀座の命運を握っている。

しかし、仮にインバウンドが戻ったとしても、このアパレル大不況下で国内有力ブランドは青息吐息、外国ブランドの代役は務まらない。そればかりかかつて英バーバリーの販売権を持っていた三陽商会は、バーバリーを手放した後、銀座中央通りの商業ビル(かつてバーバリーの入っていたビル)を20年7月に売り、オンワードも自前の銀座の商業ビルの完成を待つことなく阪急阪神系の企業に不動産を売却してしまった。

商業ビルに入るテナントも国内勢はかつての勢いはなく、コロナで起きた業績の悪化で、企業が保有するビルの売り圧力は続いている。実店舗からネット販売で経営を立て直す流れも、銀座への実物不動産投資や人通りに深刻な影響を与える。

新型コロナウイルス感染の第2波の拡大や五輪の延期・中止論争で消費マインドが冷え込めば、銀座は高級商業床の過剰問題を引きずり、それは五輪後も賃料の下げ圧力のマグマとして残るだろう。

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この記事を書いた人

経済アナリスト・作家・不動産小説家

経済アナリスト・作家・不動産小説家。 1963年生まれ。東京都心在住。オフィス・ホテル・商業施設・公有地・借地等の不動産の分析、株など資産市場の分析に詳しい。住宅業界のカリスマ事業家が主人公で、創業者まで徹底的に切り捨てる政権の歴史的な不良債権処理の暗闘局面などを明かした『創業者追放~あるベンチャー経営者の風雲録』などの作品がある。

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