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コロナ禍が火をつける ベーシックインカム導入論

浅野夏紀

2020/07/16

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イメージ/©︎takanakai・123RF

テレワークで拍車? 「さらばオフィス」の流れ

新型コロナは普段見えにくい日本の弱みをあぶり出した。このことは不動産分野も例外ではない。もちろん、賃貸住宅事業もその対象に含まれる。例えば、新型コロナの感染防止策が引き金になって在宅勤務が浸透。その結果、オフィスに対する考え方が変わり、貸し会議室やシェアオフィスなど「会社」と「マイホーム」のあいだにある不動産事業のビジネスモデルに変容を迫っている。また、新型コロナの感染を防ぐための“StayHome”によって職を失い、家賃を滞納しそうな人が急増し、「住宅崩壊」という言葉も出てきている。

そこで、コロナ後の不動産はどうなるのかを展望してみよう。まず、「さらば、オフィス」という動きが止まらなくなるだろう。4月に入り、政府は新型コロナ対策を盛り込んだ特別措置法に基づく緊急事態宣言を行い、その対象を全国に広げた。その期間は、在宅勤務が「当たり前」だった。その後、緊急事態宣言が解除されたものの新型コロナの感染拡大に伴い、東京都は7月15日、そのレベルを「最も深刻なレベル=感染が拡大している」に引き上げた。

いまのような状況を予見していたのが、システム構築を手がけるAXIA(本社・神田)という企業だ。同社では社員全員を在宅勤務にして、札幌と東京にあるオフィスを解約し、オフィスレスの「在宅企業」となった。同社社長の米村歩氏は4月8日付けのブログで「コロナ不況がいつ押し寄せてきても大丈夫なようにできる対策は取っておきたいと考えています。取ることのできる対策の一つが『オフィス解約』でした」と記している。

こうした対策の背景には「今のコロナ情勢がいつまで続くか不透明な中、全員在宅勤務で普段使わないオフィスが必要か」といった当たり前ともいえる思いがあったようだ。さらに、「今のコロナが落ち着いてもまた別のウイルスがいつか出てくる」「東日本大震災のような震災リスクもある」とし、「(このような)状況を考えて、いったん今のオフィスは解約してコスト削減することとしました」と記している。同社では本社事業所が必要な場合は復活するというが、日常業務を行うスペースは代替できているという。

さらに同社に限らず、脱オフィスの流れが出てきている。それらの企業では、①オフィスを縮小し、家賃を節約する、②小さな面積の賃料の安い事務所に引っ越す、③賃料の支払いの猶予と一時減額ではなく、恒久的な賃料の引き下げを求める、など水面下で動き始めている。

加えて、「ODR(オンライン紛争解決)システム」を使って、弁護士を使ったオフィスの解約や賃料減免の調停や手助けをオンラインで行うサービスも登場した。といっても、現状では、賃貸住宅の滞納分の支払い猶予や家賃の引き下げの交渉がオンラインで行われている程度で、本格的な運用はこれからだ。

こうしたコロナ後の変化による影響を大きく受けそうなのが、貸し会議室やシェアオフィス業界である。これまで研修や、都心での会議などに重宝がられてきたが、打ち合わせを「会議室やオフィスを会社で借りなくてもオンラインでできる」という判断をする企業が増えてくるかもしれない。事実、パーソル総合研究所が6月11日にリリースした「緊急事態宣言解除後のテレワークの実態について調査結果」における職種別のテレワーク継続希望は全体で69.4%となったことからも、特にバックオフィス系の職種はテレワークでもそれなりの成果を出せるということを示している。

出典/「緊急事態宣言解除後のテレワークの実態について調査結果」(パーソル総合研究所)

さらにコロナ不況により、オフィスの空室率の上昇や賃料が下落するため、これまでコスト負担が安くすんだ貸し会議室や、小型のオフィスの優位性もぐらついてくる。それを見越してか、貸し会議室の大手企業などが銀行の融資枠を広げ、備え始めている。

コロナ後に求められる設備と予想される危機

では、住宅についてはどうだろうか。

住宅、なかでも賃貸住宅において、変化がもたらされるだろう。分かりやすい例では、新型コロナによって食料品などを除き実店舗での買い物の「自粛」によって、コロナ後も宅配ファーストとなれば、不在時に荷物を入れておくロッカーがない賃貸物件においては、これが不可欠になるだろう。コンビニや集荷所で受け取るという方法もあるが、コンビニの24時間営業の継続は見直されつつあり、ましてや近くにコンビニがない賃貸住宅ではそれも難しい。

さらに賃貸住宅オーナーにとって直近の課題は、家賃の滞納や未払いの問題だ。日本列島が「コロナ不況」にもがき苦しむ中、やや遅れてやってくるのが、家賃が払えない賃貸住宅入居者が増えるということだ。これが次にくる大きな波と心配されている「住宅崩壊」の問題である。アパートなどの賃料の一時的減免措置や家賃滞納の容認の流れも一部で動きがみられる。とくに飲食店など接客業従事者への賃貸は、自宅に巣ごもりして、「テレワーク」で仕事をして給与が払われる会社員とは違い、営業ができなければ収入はストップし、それは賃料の滞納と直結する。

もちろん、こうした新型コロナによる外出自粛が長引けば会社員であっても、安心はできない。現在の日本人の個人消費の大半はレジャーや観光といった「不要不急」のビジネスに費やされ、そこで多くの雇用が生み出されている。しかし、コロナ禍が長くなるほど、こうしたレジャー関連産業の需要回復も遅れ、雇用も賃金も過度に抑制的な状況になる可能性もある。7月16日、政府は「Go To トラベル」の運用において新型コロナの陽性者が多い東京都の発着旅行を対象外とする方針を固めたことからも、コロナ禍の今後に関しては依然予測不能で、あらゆる経済活動の「コロナ前」への回帰を前提とした経済のV字回復予想は楽観でしかない。

新型コロナによってベーシックインカム導入?

仮に新型コロナが短期間で収束したとしても、政府の描く日本経済の「V字回復」はありえない。新型コロナ対策として国民に配る政府の支援金をめぐっては、支給額の水準、支給対象、支給の仕方、支給に対する所得制限、支給開始のスピードが問われながらも、対応が二転三転し遅れた。これは年金、生活保護といった社会福祉分野の制度が貧弱で、諸制度がバラバラということに起因している。主に省庁などの役割が縦割りになっていることによる弊害で、各省庁が出す新型コロナ対策メニューを網羅的に理解できなくなっているために起こった。

つまり、従来の制度の延長線上でコロナ支援を打ち出せば、支給が限定的に、対策の浸透が遅れるのは必然なのである。しかし、欧州では政府の判断で支援を手厚くして、迅速に実行した国が少なくなかった。そればかりか、ベーシックインカム(基礎的所得)の導入論が加速している。

ベーシックインカムとは、すべての人に最低限生活するに足る生活費を配る制度だ。ざっくりいえば、国民年金(基礎年金)や生活保護を統合したようなもので、すべての国民を対象に生活保障のための金(例えば数万円)を配るというもの。このベーシックインカム制度の導入論に、今回のコロナ禍は火をつけた。新型コロナ対策の自粛で経済活動が停滞し、飲食店をはじめとした「不要不急」ではないサービス産業に営業自粛(実質的な休業)を要請。要請を受けた経営者には店舗の賃料、従業員の給与が重くのしかかった。さらにそこで働く従業員や非正規の労働者には解雇の危機が迫り、賃貸住宅に住んでいる人にとってはその家賃が重くのしかかる。

一定水準の生活費がだれに対しても配られるベーシックインカムが実現すれば、まずは新型コロナのような大きな「経済事象」が発生した場合、緊急的措置として振り込みを増額させればよいということになる。富裕層への支給については年末調整等を通して事後に回収すればよい。

最後にホテル業の事業リスクに織り込むイベントリスクと賃貸住宅について考えてみたい。イベントリスクとは、天変地異、つまり、戦争やテロ、革命、地震(津波なども含む)、大規模な自然災害や激しい気象変動による大きな出来事(イベント)の発生による事業そのものや事業収支への深刻な影響のことをいう。程度にもよるが損害保険の対象とならないものが多い。

新型コロナ以前は、インバウンドによる「爆買い」が人口減に直面する日本の低迷する消費の穴を埋めた。ホテルはどこも満室で「ホテルはオフィス賃貸や賃貸住宅より儲かる」としてホテル建設ブームが起きた。しかし、新型コロナという世界的なイベントリスク発生によって、90%を超えていたようなホテルの利用率が一転、空室率が90%を超えてしまうところも出ている。

2000年代以降、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)などの感染症が多発してきた。経済のグローバル化は国境を越えた病原体の伝播を容易にした。さらに、リーマンショックや東日本大震災などによる大型企業の破綻、天災など経済に大きなダメージを与えた事象を振り返ってみると3年から5年に一度は、イベントリスクに見舞われることをあらかじめ想定しておいたほうがよいかもしれない。こうしたイベントリスクは、賃貸住宅の経営に想定外の対応を迫る可能性がある。

コロナ禍による雇用や失業率の数字が悪化したことに伴う悪影響が目に見えるかたちで現れるのは、まさにこれからが本番だ。

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この記事を書いた人

経済アナリスト・作家・不動産小説家

経済アナリスト・作家・不動産小説家。 1963年生まれ。東京都心在住。オフィス・ホテル・商業施設・公有地・借地等の不動産の分析、株など資産市場の分析に詳しい。住宅業界のカリスマ事業家が主人公で、創業者まで徹底的に切り捨てる政権の歴史的な不良債権処理の暗闘局面などを明かした『創業者追放~あるベンチャー経営者の風雲録』などの作品がある。

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