『メインストリーム』/一般の人がSNSでカリスマに そのときに人はどう変わるのか?(2/3ページ)
兵頭頼明
2021/10/06
何気ない動画アップから人気YouTuberへ
舞台は、何者かになりたいという夢と野心を持つ人々があふれる街、ロサンゼルス。
フランキー(マヤ・ホーク)はハリウッドに近い場末のバーに務め、うだつの上がらない日々を過ごしている。彼女のささやかな楽しみは、オフの時間に撮影した映像をYouTubeにアップすることだった。
しかし、「いいね」の数が増えることはない。母親からも、そんなことはやめて帰っておいでとたしなめられている。
ある日、フランキーは奇妙な男リンク(アンドリュー・ガーフィールド)と出会う。彼はネズミの着ぐるみをまとい、ショッピングモールを歩く人々に無言でチーズの試食を勧めているが、誰ひとり応じてくれない。フランキーが自分を撮影していることに気づいたリンクは、着ぐるみの頭の部分を外し、彼女に話しかける。素顔のリンクは、なかなかのイケメンだ。
「何を撮っているの?」
「あなたが無視されている様子」
映像を見たリンクは苦笑いし、立ち上がる。通行人を相手に話し始めたリンクの話術は天才的だった。フランキーは立ち止まって大笑いしている人々の様子を夢中になって撮影し、YouTubeにアップ。すると「いいね」の数が急増した。
©︎2020 Eat Art, LLC All rights reserved.
リンクのカリスマ性に魅了されたフランキーは、彼女と同じバーに務める作家志望のジェイク(ナット・ウルフ)を巻き込み、本格的に動画制作をスタートする。
「ノーワン・スペシャル(ただの一般人)」と名乗り、型破りでシニカルな言動を繰り返すリンク。その動画はかつてない再生数と「いいね」を記録し、リンクは瞬く間に人気YouTuberに成長。リンク、フランキー、ジェイクの3人はSNS界のスターダムを駆け上がってゆくのだが――。
本作『メインストリーム』は、匿名のネットユーザーがSNSのメインストリーム=主流となる危うさと恐ろしさを描いている。
20年のヴェネチア国際映画祭で、革新的かつ斬新な作品を集めるオリゾンティ部門の作品に選出されているが、ある人物がふとしたきっかけで一般大衆のカリスマとなってゆくというプロットそのものは、むしろ古典的と言えるだろう。
©︎2020 Eat Art, LLC All rights reserved.
『ネットワーク』の舞台をテレビからインターネットに置き換え、『傷だらけのアイドル』(1967)のプロットをまぶしたような作品だ。ちなみに『傷だらけのアイドル』は、本人の意思とは関係なく組織的な力によってスターに仕立て上げられ、利用されてゆく歌手を描いたイギリス映画である。
この記事を書いた人
映画評論家
1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。