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先祖供養と仏教――東日本大震災でクロースアップされた「お迎え」体験(2/2ページ)

正木 晃正木 晃

2021/03/10

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仏教における先祖供養のはじまり

では、仏教における先祖供養の起源はどこにもとめられるのか。有力な説の一つは、死後、忉利天(とうりてん/三十三天)に再生した摩耶夫人のために、ブッダが誰にも告げず、雨安居(うあんご)の三カ月のあいだ、この天にのぼり、母のために説法し、サンカーシャというところに降りてきた(三道宝階降下)という伝承である。

この伝承は、いわゆる原始仏典の『増一阿含経』巻二八「聴法品」などに出てくる。したがって、ブッダの入滅後、遅くとも200~300年以内に成立した可能性が高いと考えられている。

さまざまな文献から推測すると、紀元前3世紀ころの、アショーカ王の時代には、この伝承が民衆のあいだに流布し、民衆にも、いま現に生きている父母はもとより、すでに亡くなってこの世には存在しない父母に対する報恩の行もまた、推奨されていたことがうかがえる。

もちろん、すでに述べたとおり、歴史上のブッダは、生きているうちに、父母をはじめ、かかわりのある人々に対して孝養を尽くすことは奨励しても、祖先供養や追善供養に対しては、否定的だった。出家僧の行動規範をしるす律蔵に、生母摩耶夫人説法の伝承が見当たらない理由は、そのためらしい。

しかし、民衆のあいだでは、先祖供養や追善供養が待望され、仏教教団としても、それを無礙に否定できなかった。三道宝階降下の伝承は、そう示唆している。

ちなみに、インドで仏教と対抗関係にあったヒンドゥー教は先祖供養をしない。また、仏教では盛んな遺骨崇拝もしない。この二つの歴史的な事実を知る人はごく少ないようだが、仏教の本質を考えるうえでは、ぜひとも覚えておく必要がある。

ようするに、遺骨崇拝も先祖供養も、仏教の原点あるいは原点近くに起源があった。これはまぎれもない事実だ。そして、この二つが日本人の感性と合致して、「日本仏教」の原型をつくりあげたのである。

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この記事を書いた人

宗教学者

1953年、神奈川県生まれ。筑波大学大学院博士課程修了。専門は宗教学(日本・チベット密教)。特に修行における心身変容や図像表現を研究。主著に『お坊さんのための「仏教入門」』『あなたの知らない「仏教」入門』『現代日本語訳 法華経』『現代日本語訳 日蓮の立正安国論』『再興! 日本仏教』『カラーリング・マンダラ』『現代日本語訳空海の秘蔵宝鑰』(いずれも春秋社)、『密教』(講談社)、『マンダラとは何か』(NHK出版)など多数。

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