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「マスカレード・ホテル」

ストーリーを楽しむか、俳優を楽しむか、演出を楽しむか――いろいろな楽しみ方のできる娯楽作(2/2ページ)

兵頭頼明兵頭頼明

2018/12/26

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二つ目は、バディムービーとしての顔。バディムービーとは、主人公が二人一組で活躍する映画のことである。すべての宿泊客を疑うことを基本とするプロの刑事と、すべての宿泊客を信じることを基本とするプロのホテルマン。立場も性格もまるで正反対で水と油とも言える二人が、はじめは反目しながらも徐々にお互いのプロとしてのスキルを認め合い、理解してゆく姿が描かれる。そのスキルと考え方は二人が各々持ち合わせていなかったもので、それを認めることにより、終盤には人間として一歩成長しているというわけである。この種のバディムービーはアメリカ映画のお家芸だが、主役二人に魅力がないと成功しない。その点、木村拓哉と長澤まさみの組み合わせは絶妙だ。

そして三つめは、準オールスター映画としての顔である。渡部篤郎、鶴見辰吾、篠井英介、小日向文世、梶原善、濱田岳、前田敦子、笹野高史、髙嶋政宏、菜々緒、宇梶剛士、橋本マナミ、田口浩正、勝地涼、生瀬勝久、石橋凌といったキャストがホテルを行き来する多くの宿泊客と警察官を演じている。それぞれに小さなドラマがあり、後に伏線だったと分かるエピソードとミスディレクションとなっているエピソードが次々と描かれてゆく。映画黄金期ならばオールスター映画となるはずだが、映画とテレビの境界線が無くなり差別化が難しくなった今、もはや映画にしか出演しない本物の映画スターは存在しない。勢い、お茶の間でお馴染みのキャストを集めてワンポイント出演させ、ゴージャスな印象を作り上げることになる。その手法で出来上がったのが、本作のような準オールスター映画である。映画黄金期のオールスター映画には到底及ばないにしても、登場する俳優たちは芸達者で味がある。要となる木村拓哉と長澤まさみの二人には主演スターとしての王道的役割を与えておき、助演の俳優たちにはイメージ通りの役柄と思いきやイメージを裏切る役柄を与えていたりするなど、キャスティングが実に楽しい。

日本を代表する準オールスター映画監督は三谷幸喜だが、本作の監督である鈴木雅之は三谷が脚本を手掛けたテレビドラマ『古畑任三郎』(94~05)『王様のレストラン』(95)『総理と呼ばないで』(97)のエピソードを数多く演出しており、二人の関係は深い。鈴木はテレビドラマの演出家からキャリアをスタートし、『GTO』(99)『HERO』(07)『本能寺ホテル』(16)等の映画も監督するという、テレビも映画も知り尽くした演出家である。俳優の動かし方を心得た監督であり、今後、日本の準オールスター映画を牽引する存在となってゆくに違いない。

謎解きを楽しむも良し、俳優たちの演技を楽しむも良し、また、演出の妙を楽しむも良し。見る者によっていろいろな楽しみ方のできる上々の娯楽作品である。


「マスカレード・ホテル」
監督:鈴木雅之
脚本:岡田道尚
出演:木村拓哉/長澤まさみ/小日向文世/菜々緒/生瀬勝久/松たか子/石橋凌/渡部篤郎
配給:東宝
公式HP:http://masquerade-hotel.jp/

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この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

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