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借りようとしている物件に「抵当権」 入居して問題はない?

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抵当に入っている物件を借りることに心配はない?

「先日、賃貸の部屋探しを終え、不動産会社の窓口で建物賃貸借契約を交わしてきました。間もなく引っ越しです」という人から、こんな質問を受けた。

「ところで、この部屋がある賃貸マンションなんですが、抵当権が設定されているんです。住んでいて、何か問題はあるんでしょうか?」

そこで、重要事項説明書を見せてもらうと、たしかにこうある。

登記記録に記載された事項……所有権以外の権利に関する事項(乙区)
「有」
「抵当権」


重要事項説明書のイメージ/編集部撮影 

さらに、添えられた登記事項証明書(建物)の写しを見ると、この抵当権は数年前に設定登記されたもので、もちろん現在も抹消されずに「生きて」いる。つまり、このマンションは、いわゆる借金のカタとして、抵当に入った状態だ。ちなみに、抵当権者は某金融機関。そこからお金を借りているのはこの物件の所有者。すなわち、大家でありオーナーだ。

そこで、「不動産会社の担当者は、重要事項説明をしてくれた際に、どう言っていましたか」と質問者に尋ねると、「(担当者曰く)ややこしくなるんでここの説明は省いちゃいますね。でも、全然気にしなくていいです」だったそうだ。なるほど。

しかし、「気にするな」と言われても、やはり人によっては気になるこの件について、当記事で説明していこう。

 

部屋を追い出される可能性はある

結論から言うとこの物件の場合、上記の質問者である入居者(Aさんとする)は、将来、その意に反して部屋を追い出される可能性がある。その時点での物件所有者から、「出て行ってほしい」と、法に基づき正しく要求され、それに従わざるを得なくなる可能性が、少ないがゼロではないのだ。

すると、どんな場合にそれが現実となるのだろうか?

答えは、こうなる。

1.上記、この物件がカタとなっている借金の返済が滞り、それにより抵当権が実行され、物件が「競売」にかけられる。その手続きが終了する

2.競売により物件を買い受けた人が、新たな所有者となることで、従前の賃貸借契約が消滅する(以前の所有者とAさんとの間に結ばれていた契約が、当然のこととして無くなる)

3.新たな所有者が、何らかの理由や考えによって、Aさんとの間に賃貸借契約を結ばないことを決断する

つまり、通常レアケースながらも仕組み上ありえないわけではない、この1~3の流れがもしも成立した場合、Aさんは、「結んでいた従前の賃貸借契約が消滅」+「新たな契約が結べない」ことにより、せっかく見つけた今回の物件を明け渡さなければならなくなる。

つまり、逆に言えば、こういう可能性がゼロではないので、重要事項説明書には「登記記録に記載された事項」もちゃんと盛り込まれているというわけだ。

これは理不尽なようだが、仕方がない。なぜなら、順番としてAさんは、上記抵当権の存在も含んだ内容の重要事項説明を受け、それを記した書面ももらい、納得したうえでこの物件の賃貸借契約を結んだことになっている。なので、上記の流れが万が一実際に起きてしまった場合は、大人しくこれに従わなければならないということだ。

ただし、大事なポイントだが、上記が成立するのは、あくまで物件が競売にかけられ、競落された(競り落とされた)場合においてのこととなる。あとで説明を加えるが、任意売却の場合はそうはならない。

 

6カ月間の明け渡し猶予制度

いま述べたような流れで、部屋を明け渡さなければならなくなった場合、気の毒なAさんには、若干の救済措置が用意されている。

それは、時間の猶予だ。

部屋を明け渡すにしても「いますぐ出ていけ」とはならず、これについては法律上、6カ月の猶予期間が定められている(民法第395条1項)。

よって、当物件の新たな所有者が、当物件を買い受けた時から6カ月の間、Aさんは部屋を明け渡さなくてよい。すると、その間の家賃はどうなるのだろう?

家賃は部屋の使用料として、これまでの賃料に相当する分を新たな所有者に支払うこととなる(民法第395条2項)。ただし、その金額が、近隣相場に対しやたらと安すぎるといった場合には、増額が要求されることになるだろう。

 

順番が逆なら「追い出し」は成立しない

ちなみに、以上の「競売~明け渡し」の流れが成立するのは、前提となった冒頭のエピソードにもあるように、抵当権が設定登記された日付が、Aさんが賃貸借契約によって部屋の引き渡しを受けた時よりも過去にさかのぼる場合だ。この順番がもしも逆ならば(抵当権の設定登記があとならば)、Aさんがこの部屋に住む権利は保護される。

すなわち、その場合、「建物の賃借権は、建物の引渡しがあったときは、その後その建物の所有権を取得した者に対しても効力をもつ」とする借地借家法第31条の規定が、そのまま適用されるかたちだ。

よって、このケースでは、Aさんと旧オーナーとの間にあった賃貸借関係は、新たな所有者を賃貸人として、引き継がれることになるわけだ。

とはいえ、そもそもの話、「借りることになった部屋に、すでに抵当権が付いている。どうなるんだろう」という、今回採り上げたよくあるシチュエーションそのものが、これには当たらないことは、読者もよく理解できるだろう。

 

任意売却の場合も「追い出し」が成立しない

一方、任意売却の場合は、どうなるのだろうか。

これまでの話は、抵当権が実行されることに伴い「競売」が行われ、所有権が移転する(オーナーが変わる)ケースについて述べてきたものだが、一方で、競売ではなく、任意売却が選択されることもある。このとき、Aさんのような立場の入居者はどうなるのだろう? つまり、「すでに抵当権が設定登記されている物件に住み始めてから、その後、任意売却が行われた」場合だ。

答えは、「追い出されることはない」だ。

競売のケースと違い、任意売却よりも先に建物(部屋)の引渡しを受けているのであれば、そのことによって、当該賃借権には、任意売却で生じた新たな所有権に対する対抗力が備わることになっている。

 

なぜ担当者は説明を省いてしまったか?

以上を踏まえたうえで、話を冒頭に戻そう。

今回、Aさんに対し、重要事項説明を行った不動産会社の担当者は、当該物件における抵当権の存在とその影響について、「ややこしくなるので省く」と、つい説明をサボってしまったとのこと。もちろん、本当はそれではいけない。だが、「気持ちは分かる」という人も、なかにはいたりするだろう。

つまり、いまどき借金をせずに賃貸マンション・アパートを建てる(買う)人は、とても少ないのだ。よって、通常は資金の借り入れが行われ、その目的たる物件自体が抵当に入るかたちが生じてくる。その場合、登記事項証明書を見れば、当然ながら、借金が完済されるまでの間、そこには抵当権の存在が明記され続けることになるわけだ。

今回は、よくあるそうした事例であることを担当者は十分に知っていたのだろう。なおかつ、万が一その借金が焦げ付いてしまい、物件が競売にかけられ、オーナーが別の人に変わったとしても、その物件はあくまで賃貸収益物件だ。新たなオーナーも、通常は賃貸経営を続けることになるだろう。また、それを目的としての競落でもあるはずだ。

なので、この場合、新たなオーナーが現在住んでいる入居者の退去を望む状況はあまり想像できない。説明を省きたくなる担当者が出てきてしまうことも、多少あり得るといったところだろう。

とはいえ、もちろんそうではないレアケースも、述べてきたとおり仕組み上はゼロにはならない。それを賃貸住宅に暮らす人がリスクとして知っておくのは、とても大事なことだ。

なお、最後となるが、今回解説した中での「抵当権」については、「根抵当権」の設定登記がある場合も解釈は同じと考えて構わない。 


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この記事を書いた人

編集者・ライター

賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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