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結局のところ「敷金」は返ってくるのか? 答えは契約書に書いてある(4/5ページ)

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特約はなぜ許される?

すると、「賃貸住宅オーナーというのはなんてセコい人たちなんだ」と、これを読んでいる人は思うかもしれない。

しかしながら、一方のオーナーの立場になれば、多少風景は違ってくる。こちらもまた必死なのだ。

アパートやマンションを取得した際の大きな借入金、年々ハードルが上がっていく入居者ニーズ、少子高齢化等による競争の激化など、さまざまな要因が重なる中で、彼らの心の中でも顧客(入居者)へのサービスと、自らが生き残るためのコスト管理への意識が互いにせめぎ合っている。

そのことも、理解しづらいとは思うが、よければちょっぴり理解してあげてほしい。

さて、そこで疑問だ。

なぜ、民法にまで規定されることになった、上記の「通常損耗や経年変化については、借主は原状回復を負担する必要はない」——なのに、それが特約一つで簡単に覆されてしまうのだろうか?

その理由は、専門的な言葉になるが、上記を規定する条項(民法第621条)が、任意規定であるからだ。

正しくは、任意規定と解釈されているからだ(専門家のほとんどによって)。

なお、任意規定とは、法律により定めはあるものの、それとは異なる合意や規定が行われた場合、そちらが優先されるものを指す。

対して、それが通らないのが強行規定だ。法律での定めが強制的に適用される。

しかしながら、上記「通常損耗や経年変化については、借主は原状回復を負担する必要はない」は、とりあえず任意規定と解釈されているので、これに従い、特約で覆すことも可能とされているわけだ。

ただし、この「覆し」が正しいと認められるには、

「借主が特約によって、本来の法律に反して負担させられる通常損耗等の範囲が、契約書に具体的に明記されていること」

など、合意の客観的具体性、および明確性が求められるとする見解もまた、専門家の間では一般的となっている(根拠は2005年の最高裁判決)。

なので、状況によっては、上記の「覆し」に対し、入居者側の厳しいチェックによるさらなる「覆し」が起こることも十分あり得るが、最終的には、それは司法が判断することとなるわけだ。

すなわち、クリーニング特約は、その定められた請求額が常識外に高かったり、かなり短い入居期間であるにもかかわらず履行を強いられたりといった、理不尽な内容、適用となる場合において、入居者側が法廷での勝利をおさめない限り、成立すると理解するしかないだろう。

一方、クリーニング特約のある物件で、「どうせ特約でお金を取られるのだから、やんちゃに暮らそう。部屋を汚してもいい」と、開き直るのはNGだ。絶対にやめた方がいい。

その場合、善管注意義務規定、損害賠償規定など、特約とは別の契約条項に触れることで、話が一段深刻なレベルに進む可能性が高いだろう。

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この記事を書いた人

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賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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