「一人暮らし教育」のススメ——大学や企業は賃貸住宅に住む若者に教育をするべき?(2/3ページ)
朝倉 継道
2021/08/25
若者はなぜ「うるさい」のか
それにしても、学生や同年代の若者は隣人との関係上一触即発ともいえる賃貸集合住宅という環境のなか、なぜ多くが「うるさい」のだろうか? 言い換えれば、なぜリスクを踏むのだろうか?
あえて決めつけ気味に、そんなベタな疑問を投げ込むと、その答えは当然のこと、彼らがまだ人間として成長過程にあるからだということになる。
人が年齢を重ねていくに従い生じる、思考や行動の発達的な変化を研究する学問を発達心理学という。
この発達心理学をひもとく本などを読み、勉強させてもらうと、賃貸住宅市場にいわば新人として参加してくる18~20歳くらいの若者達の心の様子が、なんとなく理解できてくる。
すなわち、彼らは、まだそのうちの一定割合が、いわゆる「論理的思考」を身につけていない。それを学ぶための最終段階を未だ歩んでいる途中であるケースが、実はかなり多いように思われる。
具体的にいうと、
「自分の住んでいる部屋の隣にも部屋がある」
→「ならばそこにも人が住んでいるだろう」
「部屋で大きな声や音を出せばどうなる」
→「隣に住んでいるであろう隣人の耳にもそれらは伝わるだろう」
「それが深夜であれば」
→「隣人は寝ているか、寝ようとしている可能性が高い」
「どうなるか」
→「隣人は睡眠を妨害され迷惑に思うだろうし、当然、怒り出す可能性も高い」
こうした、仮定的推理の積み重ねにもとづく現象・心理の流れを自然に想像できたり、予測できたりすることこそが、すなわち論理的思考の完成となる。
だが、おそらく彼らの何割かは、まだそのステージに達していない。が、そう聞けば、われわれ大人はついこうも思ってしまう。
「いやいや、そんな当たり前のこと、子どもじゃあるまいし、18~20歳にもなって分からないはずないじゃないか」
多分そうではない。多くの大人は、過去の自分を忘れているのだ。すなわち、われわれも18、9や二十歳(はたち)の頃は周りを想像できず、やはりうるさかっただろうし、むしろ、いまの若者の数倍そうだったかもしれない。
しかしながら、そこを
・似た世代ばかりが住みがちだった過去の“若者向け”集合住宅
・企業の専用の独身寮
さらに古くは、
・管理人のいる下宿
と、いった環境が、かなりの程度包み込んでくれていた可能性が、おそらく低くはないだろう。
ちなみに、上記のような、具体的現実を目の前でまったく確認できない状態でも(壁の向こうにいる隣人に会ったことはなくとも)、論理を想像のみで組み立てられる能力というのは、論理的思考能力としては、実は、一段ステージが高い。
それをビジネスパーソンなど、多くの大人は日常苦もなくやれているので、まるで自分は物心がついた時からそうであったように思い込んだりもするが、本当は違う。私の見るところ、18、9どころか、ゆっくりな人だと20代半ばや後半、もっとのんびりな人だと30代も過ぎての中年期になって、やっとこれを身につけているといった例もあるようだ。
この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。